THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ COCOON PRODUCTION 2023 少女都市からの呼び声

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2023.07.05 UP

『少女都市からの呼び声』の稽古場から

異色の唐作品は“現代歌舞伎”
「考えるな、感じろ」と、ついブルース・リー先生の金言を呟きたくなるのが唐十郎ワールドの魅力である。筋道立てて物語を理解しようとすると迷宮を彷徨うことになるかもしれないけれど、とにかく紡がれる言葉がきらきらと美しく切なく耳に心地よく、でもそこにはちゃんと人の温もりや思いやりや悲しみが詰まっていて、特に世の中から弾かれてしまったもの、日の当たらないところで踏み潰されそうになっているものたちの声なき声が、聴診器を当てたかのように拡大されてダイレクトに臓腑をえぐるのだ。それでいて出てくる人たちが揃いも揃って憎めなくて滑稽で、チャーミングなキャラばかり。結局、「なぜだかわからないけど感動して泣いてる」事態にまんまと陥るのだった。

と、これは観る側の勝手な感覚で、作り手としてはそんな唐戯曲に対してクリアな「読み解き」が必要となる。それをあえて「誤読」と表現するのが、演出の金守珍だ。状況劇場時代に『少女都市からの呼び声』の試演会・初演から役者として出演し、その後立ち上げた新宿梁山泊では、自身の演出によって国内外で繰り返し上演を重ねる代表作となった。
THEATER MILANO-Za公演に先駆けて、6月には新宿花園神社でも梁山泊版テント公演を行ったばかり。テント→劇場と場所を変えての同作品連続上演という異例のチャレンジとなるが、稽古初日から「安田君のパワーをもらって、梁山泊のテント版とは全く違う唐十郎ワールドを作ります!」と意気軒昂である。「どこから見てもいい、球体のような作品。皆さんも毒を持ってトライして、感性で演じてほしい。どんどん誤読もしてください。皆さんの個性が生きる、新しい現代歌舞伎として作りたい」(金)

金によれば本作は「唐作品の中でも異質なファンタジック・ホラー」。金自身をはじめ、風間杜夫六平直政ら、テント版から続けて出演するメンバーも多く、稽古はかなりのスピードで進んでいく。頭から終いまで、まずは作品の全体像を早めに見渡し、全員でイメージを共有しようとしているのだろう。
そんな中で念願の唐作品に出演とあって、嬉々として唐ワールドを生きているのが安田章大だ。物語は安田が演じる田口が見た夢の中で展開していく。唐作品の主軸となる青年は曲がったところがなく、常識的価値観の持ち主であることが多いが、今回もその例に漏れず。咲妃みゆ扮する妹の雪子や、三宅弘城演じるその婚約者・フランケ醜態博士に翻弄される、妹思いの真っ直ぐで不器用な“兄さん”に安田がぴたりと嵌っている。ガラスになりゆく体を持ちながら、脆くもコケティッシュな咲妃の雪子もまた、唐作品らしい魅力的なヒロインだ。風間はテント公演と同じ二役で要所要所に登場し、グッと場面を引き締める。

 

唐十郎、稽古場に降臨!
そうして濃密かつスピード感あふれる稽古を重ねること2週間あまり。ある晴れた日の稽古場に作者・唐十郎がやって来た。光沢あるオレンジピンクのシャツとつやつや笑顔で現れた唐に、「元気だね!」(金)、「体に力があるよ」(六平)と、唐を師匠に持つ二人も嬉しそう。「唐さん、安田です!」とガッチリ握手する安田のことを、金が唐に「感性がね、いいんですよ!」と推している。
作者の前で短い場面を披露すると、真剣な眼差しで見ていた唐は「昔のことを思い出します。夢のようで嬉しいね」。金が「唐さんの芝居は現代歌舞伎ですから。500年続きますよ!」と力強く宣言し、唐は稽古場を後にした。最後まで拍手をしながら唐を見送っていた安田の姿が印象的だ。

新宿梁山泊のテント公演も終わり、いよいよTHEATER MILANO-Za版『少女都市からの呼び声』の本番も間近に迫ってきた。新劇場でどんな世界が繰り広げられるのかは開幕してのお楽しみだが、クライマックスでは美しい大仕掛けも待っているらしい。夢と現(うつつ)を行き来しながら、田口とともに少女都市へと旅立ってみよう。

 

取材・文:市川安紀