INTRODUCTIONみどころ
「老い」と「進化」その先に描かれる滑稽で愛おしい人々の物語
ノゾエ征爾の代表作が世田谷パブリックシアターに登場!
劇団はえぎわの主宰であり、脚本家、演出家、俳優として活躍するノゾエ征爾。卓越した発想力とユーモアに富んだ演出、奇想天外な世界観を愛情一杯に描き、数々の作品でその才能を発揮しています。師弟関係にあるシアターコクーン芸術監督の松尾スズキからは「スペクタクル演出のできる数少ない若手演出家」「ノゾエ作品にはハナと、笑いと、切なさがある」と信頼も厚く、脚本家としては2012年『○○トアル風景』で岸田國士戯曲賞を受賞、松尾スズキ作の絵本『気づかいルーシー』の舞台化の脚本・演出、蜷川幸雄の遺志を継いだ『1万人のゴールド・シアター2016』や『世界・ゴールド祭2018』にて「ゴールド・アーツ・クラブ」の数百人単位の高齢者たちをエネルギッシュに活かした演出でも注目を集めました。そんなノゾエ征爾の傑作を2023年版としてブラッシュアップし、再構築して上演します。
竜星涼を中心に、藤井隆、高橋惠子をはじめ、
青柳翔、瀬戸さおり、芋生悠、山田真歩、菅原永二ら、
若手からベテランまで多彩な実力派が織りなす群像劇!!
2010年初演の『ガラパコスパコス』は、世田谷区内の高齢者施設を十数箇所廻って生み出されたノゾエ征爾の代表作。「老い」と「進化」という一見正反対のふたつのベクトルを重ね、その先に描かれる滑稽で愛おしい人たちの物語です。
主演の派遣会社でピエロとして働く青年・太郎役には、昨年出演した連続テレビ小説『ちむどんどん』や主演ドラマ『スタンドUPスタート』で注目を集め、夏には出演映画『Gメン』の公開も控えるなど俳優としての躍進が光る竜星涼。太郎の兄・晴郎役には、バラエティはもちろん、ドラマ、舞台『広島ジャンゴ2022』、映画『マイスモールランド』など幅広く多彩な活躍を見せる藤井隆。特別養護老人ホームから抜け出した老女・まっちゃんこと徳盛まちこ役は、女優として半世紀以上のキャリアを重ね、第10回読売演劇大賞や第3回朝日舞台芸術賞など数々の受賞歴をもつ高橋惠子が務めます。共演には青柳翔、瀬戸さおり、芋生悠、駒木根隆介、山本圭祐、山口航太、中井千聖、柴田鷹雄、家納ジュンコ、山田真歩、菅原永二、そしてノゾエ征爾自身も出演と、バラエティに富んだ個性豊かな実力派キャストが結集しました。
日常の1コマから市井の人たちが織りなすパラレルドラマ。それは壮大なテーマへと向かっていく…。
ノゾエ征爾がつくる演劇作品の魅力は、独特のやわらかさと鋭さにある。8割を占めるやわらかさは、オフビートのユーモアもあって、観る人をふわりと持ち上げる。登場人物の多くは、生来の性格や運で世の中のリズムと合わせられないか、学校や職場での軋轢など後天的な事情で世の中のリズムから置いていかれた人で、彼や彼女の暮らしぶりは肯定感と共に描かれ、それが観客を安心させる。けれど2割の鋭さが時折り顔を出し、やがてはっきり矢のような形を成し、こちらの世界にまっすぐ飛んで来て体を地面に戻すと、現実への認識を改めさせる。
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『ガラパコスパコス』はその最たる例で、特別養護老人ホームから迷い出てしまった高齢女性と、仕事に疲れた青年の同居という、今はまだ名前のないつながりが軸となる。ふたりを祝福しないのは老女と青年を思う人達で、そこには優しさと正義、世間体と恐怖心がある。『ガラパコスパコス』の鋭さは、その人達を悪人とせず、高齢者と家族、介護職の人々の一筋縄では行かない心情、若者の雇用形態などの問題が、何気ないせりふに巧みに配されていることで、初演の2010年の段階でこれを書いたノゾエの慧眼に驚愕する。斬新な演出もあって名作の呼び声が高かったこの作品が新たなキャストの息吹を得て上演されることがうれしくてならない。
演劇ジャーナリスト・徳永京子
STORYあらすじ
青年が老婆を拾った。
社会にうまく馴染めず、派遣のピエロの仕事でギリギリ生活をしている青年(竜星涼)。しかしそんなピエロ業も、決してうまくはいっていない。ある日、道端の老婆(高橋惠子)に手品で花束を渡すと、老婆はどこまでもついてきた。そして、青年の部屋にまで上がってきた。
すぐに老婆を帰そうとするも…、青年と老婆の不思議な共同生活が始まっていく。
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青年を心配する兄夫婦(藤井隆/山田真歩)、仕事先の女性社員(芋生悠)。妙に絡んでくる仕事先の先輩社員(青柳翔)。兄の背後に常に付いて回っている兄の後輩(ノゾエ征爾)。
老婆は実は、特別養護老人ホームから抜け出したのだった。老婆を探し回る 家族(家納ジュンコ/中井千聖)と、ホームの職員(山本圭祐/山口航太)。青年の近隣に暮らすかつての同級生(瀬戸さおり) と 担任(菅原永二)。
そして言葉の通じない外国人の隣人(駒木根隆介)。
人々はそれぞれに関わり、拒絶し、苦悶し、疲弊し、心身に疲労が積み重なっていく。我々は、少しでも先に進んでいるのだろうか?
進んでいくとしたら、どんな姿に化けていくのか?ただ一つ言えることは、化け者であることには違いない。
そうして青年と老婆との頑なな共同生活は、当然のように、限界へと近づき…。