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『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』稽古初日レポート
2023.09.29 UP
16歳の渡辺えりを演劇の道へと導いた、テネシー・ウィリアムズ作『ガラスの動物園』。感銘を受けてから52年、満を持して憧れの作品の演出を手掛ける。しかも、別役実が『ガラスの動物園』の後日譚として書いた『消えなさいローラ』との二本立てで上演。世界初の試みとなる。
稽古初日、はじめに上演台本・演出を務め、『ガラス~』ではアマンダ役を、『~ローラ』ではローラ役(吉岡里帆、和田琢磨とのトリプルキャスト)を担う渡辺えりが上演にあたっての想いを語り始めた。
「16歳の時に観た『ガラスの動物園』(1971年、長岡輝子演出)は本当に笑えて、本当に泣けたんです。観ているうちにアメリカの家庭が日本の家庭、そして私の家族の物語に見えてきた。それで号泣して、観終わってもしばらく席から立てませんでした。“私もこれから生きていくことができるんだ”と思わせてくれた舞台です。親子・姉弟、本当に仲が良くてお互いに愛し合っているのに、どうしても行き違いやすれ違いが生まれてしまう……。それは現代社会、世界情勢にも言えることですよね。今回はそういうことも大切に演出したいと思っています」
2020年に上演された『消えなさいローラ』(渡辺えり演出)で渡辺と共演した尾上松也は、今回『ガラス~』でトムを、『~ローラ』では前回に続いて葬儀社を名乗る男を演じる。3年前から想いを共にしてきた渡辺に温かい眼差しを向け、時に頷きながら耳を傾けている。そして話しながら感極まる渡辺に共鳴するかのような表情を浮かべる吉岡里帆。今回、ローラ役を演じる彼女も学生時代から舞台に立ち、俳優を志して上京、渡辺と同じく演劇への思い入れは深い。母アマンダと娘ローラを演じる二人の心が通じ合う瞬間を見た気がした。『ガラス~』でジムを演じる和田は渡辺と同郷(山形県)で、且つ、松也とは旧知の仲。吉岡同様、渡辺の演出を受けるのは今回初めてだが、緊張というよりも穏やかな居住まいなのが印象的だ。
二つの作品への熱い想いと演出について、約1時間半たっぷりと語った渡辺。つづいて『ガラス~』の本読みに入った。全員が台本を開いた瞬間、場の空気は一転。背筋が伸びる。4人は真摯に丁寧に、役の感情をそれぞれ込めながら台詞を読み進めていく。初めての本読みにもかかわらず、早速ところどころに渡辺の演出が入る。松也や吉岡や和田から渡辺に訊ねる場面もあり、自然と役についてのディスカッションへと繫がっていった。渡辺の熱意、そしてカンパニーの覚悟のようなものが伝わってくる。16歳の少女が味わった、あの深い感動を一人でも多くの観客に届けるべく、稽古は始まった。
文:金田明子