原作となる漫画「上を下へのジレッタ」は、1968年に「漫画サンデー」に連載された、数多ある手塚治虫漫画の中では珍しい、知る人ぞ知る異色中の異色作で、そのため“非話題作”とも称される“幻の傑作”です。マスコミ社会を舞台に、様々な角度から湧き出る人間の欲望を風刺し、今では現実となったヴァーチャル・リアリティの世界を“ジレッタ”と称して独特の表現で創り出すなど、作品には手塚らしい文明批判がしっかりと込められており、更に抜群の先見性も外さず見事に描かれています。書かれた当時は夢物語でしかなかった「妄想の共感」が、決して絵空事とは言い切れなくなった今、観客の目に映るものは現実か、妄想か…。
“ジレッタ”が、二次元の世界から三次元の世界にどう飛び出してくるのか、ご期待ください。
演出は気鋭の若手脚本家・演出家、倉持裕
本作に鋭い感性で着眼したのが、今、演劇界の次世代を担う若手の中心人物として注目を浴びている気鋭の脚本家・演出家の倉持裕。幼いころに読み、衝撃を受け、主人公のキャラクターが自身の作品世界に多大な影響をもたらしているという本作を、自らの手で戯曲化し演出も手掛けます。現実(日常)と非現実(非日常)の混沌とした世界を、ユーモアのセンスを利かせた絶妙な会話(台詞)と綿密に計算されたストーリー展開で観客を虜にする倉持が、どのように“ジレッタ”の世界を具現化するのか。更に“妄想歌謡劇”と銘打ち、ストレートプレイにとどまらない、音楽劇とは一味違う、歌とダンスを取り入れた新しいジャンルの演劇を打ち出します!
強烈な個性を放つダークヒーローを演じるのは、横山裕
自称・天才TVディレクター。脚本、小説、評論も手がける多才な人物。つねに野心満々で、己の欲望に飲み込まれて破滅するエゴイスト、門前市郎…
そんな強烈なダークヒーローを演じるのは、歌手だけでなく、ドラマ、舞台、映画、バラエティと多方面で活躍する横山裕。
バラエティ番組などで見せる明るい一面から一転、演者としては硬軟演じ分ける色気と狂気を持ち合わせる横山が、強烈な個性で誰しもを惹き付けてしまう門前をどのように演じるのか、期待が高まります。
妄想の世界を彩る、個性豊かなキャストが結集
横山と共にこの妄想の世界を彩るのは、不器量な容姿のため覆面歌手として活動していたが、空腹になると絶世の美女に変身するという歌手・小百合チエに中川翔子、チエの恋人で、妄想の世界である“ジレッタ”を生み出す作品のキーパーソン、山辺音彦に人気バンド在日ファンクのリーダーで近年俳優としての活動も目覚ましい浜野謙太、門前のブレーンであり、元恋人で、別れた後もなにかと世話を焼いてしまう間リエに本仮屋ユイカ、門前が再起をかけて来日させたアメリカの大物ミュージカルスター、ジミー・アンドリュウスに馬場徹、門前の宿敵のライバル、大手芸能プロダクション社長に銀粉蝶、門前の依頼でジレッタのスポンサーとなる有木足に竹中直人など、豪華なキャストが集結致しました。
【コメント】
今回の原作である『上を下へのジレッタ』に出会ったのは、もう三十年以上前、僕がまだ小学生の頃でした。作中の『ジレッタ』と呼ばれる荒唐無稽で少しエロティックな妄想世界にドキドキしたのを覚えています。その興奮と、『ジレッタ』を利用して成り上がろうと動き回る主人公・門前の魅力は、いつまでも頭から離れず、今の僕のドラマツルギーは確実にその影響を受けています。混沌から生まれる面白さへの興味、エンタメの主人公は常に能動的であれという信条などは、すべてこの『ジレッタ』からの影響だと思うのです。
巨大メディアのテレビがかつての勢いをなくし、ネットが世界を席巻する今、現実よりも妄想に耽ろうとする人間たちを描いたこの『ジレッタ』は、むしろ発表当時よりも批評性を増し、観客の目に生々しく映ることでしょう。
主人公の門前を演じる横山裕さんには、目的達成のためには手段を選ばず猛進する野心家の顔と、プライドの高さゆえに傷つきやすい顔の両面を、楽しんで演じ分けてもらえたらと期待します。