ビニールの城

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2016.10.26 UP

【合同取材レポート】串田和美×松たか子×森山未來

稽古場で「メトロポリス」の合同取材が開かれました。10名のインタビュアーに囲まれて、演出・美術の串田和美と松たか子、森山未來が、作品について、また今の稽古の様子を語ってくれました。

Q 原作の感想を教えてください。

森山 うーん…。原作は映画の予告編を観た程度。僕にとって「メトロポリス」とは手塚治虫さんの漫画ですね。映画が公開されて90年、今どのように表現できるか、チャレンジだと思います。

 私は映画を観ました。当時、この映画を作ろうとした現場の熱気を想像しながら。ここまでの技術があったらセリフも入れられたんじゃないかと思えるぐらい、緻密に突き詰めて作られた作品です。そんな当時の作り手たちのパワーをいただきながら、逞しい想像力を持って、2016年の「メトロポリス」に臨みたいです。

串田 二人とも、ん?という感じで喋りだしたのは、そういえば原作があったね!という感覚だから。稽古が進み、舞台「メトロポリス」は原作はこうでしたよ!と説明するものとは程遠い作品になっています。松さんが言ったように、映画には当時の様々な技術が駆使されていて。よく見ると遠くの人は絵で、止まっているものを揺らしているだけだったりするけれども、アナログな工夫からものすごい数の群衆を表していたんですね。一方、原作小説は映画とはまた趣が異なります。ストーリーは同じですが、言葉が多く描写も濃厚。それから百年が経ち、僕たちが彼らと同じ熱量で作品を作るとしたら、原作から相当離れなければいけないだろう、と。今、二人が言い淀んだ空気は、それを表しているんです(笑)。

Q 今のお稽古の状況とカンパニーの様子を教えてください。

森山 映画は建物の壮観さ、そこで働く労働者の数など、大きさや量などの規模が存分に表現されています。それを舞台でそのままやることは不可能で。ならば、たとえば誰もいない、もしくは誰かひとりしかいないのに、群衆が群れるように見せる。今、演者とお客さんがお互いに想像力を喚起させ合うような、そんな描写を模索している状態です。松さんはマリアとパロディの二役で、都市に君臨する役。すごく柔らかいけど、ずっしりしている。松さんは役そのままに、カンパニーに君臨しています(笑)。

 キャストの皆さんは地に足のついた、とことん掘っていくことができる人たち。みんなが一箇所に向かって、掘り続けています。個性はそれぞれで、未來くんをはじめ優れた身体能力を見せてくれる人たち、趣里ちゃんは、ちょこちょこほじくるタイプかな(笑)、飴屋(法水)さんみたいに立っているだけで何かを発しているような人もいれば、どんなことでも何とかしてくれる頼もしい先輩方…。皆さんを見て、すごいなぁって思う日々です。

串田 僕はこの「メトロポリス」を脚本にする時、潤色の加藤直さんに「完成図ではなく出発点のホンを書いて欲しい」とお願いしました。たとえば山に登るための地図、ガイドブックみたいな。集合した人たちがみんなでそのホンを片手に、「あっちじゃないか」「いや、こっちだ!」と言いながら頂上を目指す。

森山 気づいたら樹海にいるぞ!出口はどこだ!(笑)。串田さんの作り方の噂は事前にちらほら聞いていて。決めないとか、途中で作ったものを全部壊しちゃうとか(笑)。それは作る作業としてとても健全だと思うし、脚本もアイディア本としてあり、取捨選択するのも自由。もしかしたら松さんがC3POになるかもしれない(笑)。僕も柔軟に対応できる姿勢を持ち、意見を提示するスタンスで稽古しています。

 思っていた以上にホンから何から変わるのだけど、その変化もそういえばそうだよねって納得できるんです。

森山 本番もね。舞台って、初日に完成しなければいけないものという意識が、作り手にも観客の皆さんにも、特に日本にはある気がします。でも舞台に作品をあげてお客さんに観ていただくことで、初めてわかることもある。初日は作り手が何を届けようとしているのか、その思いを受け取ってもらう瞬間。そこからもっといろんなものを構築していく考え方があっていい。本番も大いに変わっていってもらいたいと思います。

 私は変更があっても、平常心でやりたいなと思うタイプ。同じようにやったつもりでも変わったら面白いし、怖くもある。それが舞台の魅力ですよね。

串田 今回は歌、踊り、動き、芝居など、ジャンル分けできない、わけわからない要素がたくさん入っています。これまでに見たことない表現で、お客さんに何か知ってる!という感覚が生まれたらいいな、と。あと人間がバラバラになったら?とか、分身できないかな?とか。キャストの皆さんと一緒に、限りない表現を探していますので、楽しみにしてください。

文:三浦真紀 撮影:明緒