ビニールの城

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2016.10.15 UP

稽古場レポート&稽古場風景写真が到着!

稽古場レポート

 この日の稽古はムーブメントから。コンテンポラリーダンスのダンサー&振付家・山田うんが、キャストを3〜5人のチームに分けて、それぞれに動きをつけていく。ロボットのような機械的な動きや、風のように柔らかい動きが錯綜し、時間差で様々なことが起こる。スピードがまちまちだったり、分身のように入ってきたり。チームのメンバーは常に変化し、同調し、ペースが変わって不規則になる。荷物を持つ動き、人の間をくぐり抜けて徘徊する人、ベルトコンベアみたいな列…。俯瞰で見ると、まるで有機的な生命体のようにも見える。


キャストはチームごとに振りを繰り返し練習し、体に入れていく。
「フレーダーの(森山)未來さんは、ずっと存在していてもいいのかも。同調しつつ、止まり、徘徊する。そして、どこかで父親フレーデルセンの(大森)博史さんと出会う」と山田が言うと、大森は「Oui」と返事。山田は「ムッシュ博史がここに来て、未來さんと一瞬肩を寄せ、解散する。飴屋(法水)さんと(大方)斐紗子さんがやっているように」と指示。森山は「ムッシュとすれ違ったら、こっちに行きますね」と提案。森山がいろいろなところに顔を出し、ダイナミックに動き、誰かと接点を持ち、すれ違うことで意味が出る。森山と対照的に、松(たか子)は時折登場して、凛とした存在感を放ちながら歩き、止まる。アクロバット技を見せる佐野(岳)、バレリーナのようにしなやかな趣里らが登場し、不規則に、出会いと別れ、すれ違いなどの人間関係が紡がれる。

 


 2時間半が経ち、これまで練習したパーツをつなげて通した。8分間のシークエンスは街の雑踏のようでありながら、『メトロポリス』の世界観をそのまま表すようにも見える。串田(和美)は「すごいね。台本にはないけれども、こういうシーンを作ってもいいね」と、また新たなひらめきを得たようだ。


 その後は読み合わせの稽古。冒頭の、フレーダー(森山未來)が謎の六道衆(大石継太・さとうこうじ・内田紳一郎・真那胡敬二・大森博史・大方斐紗子)によって「我らが都市にようこそ!」と迎えられるシーンは、ファンタジックで禅問答のようなセリフが続く。そもそも六道衆とは何者なのか?
 串田は、「6人はフレーダーを面白がりつつ、ちょっと自虐的。ダウンタウンの住民は街をゴミ溜めといいながら、そこで飲むのは楽しいと自慢したりする、その感覚。“我らの都市”と言うけど、フレーダーの想像する都市とはかけ離れている。6つの脳細胞が本人を無視して議論し始める、自分たちだけで遊んでいるみたいな意識になれば」。
 その言葉から、理屈じゃなく説得力を持たせるにはどうしたらいいのかと全員が頭を悩ませる。大石が「雑音がいっぱい入って、もっと会話している感じにしたら?」と提案すると、串田が「確かに律儀になっているから、もっとワイワイやってもいい。一度セリフを取っ払って、ざっくばらんにやってみよう」。
 すると、自由気ままに、まるでジャズの即興みたいな会話がうねりだした。「そこのムッシュ、ヘイ、ユー!」とラップが入り、「ようこそ、ここへ♪」と懐かしのメロディが飛び出し、全員でワチャワチャ騒いだかと思うと、急にささやき声になってフレーダーの森山を翻弄する。フレーダーが一言発すると、怒鳴る人、笑う人、同じセリフを繰り返す人と、何が何やらのカオス状態。森山は苦笑しつつセリフを返す。その稽古を見ていた松が、思わず「頑張れ!」とエールを送った。勢いに任せて演じたせいか、終わった後は、みんなゼイゼイと息切れが激しい。「こういうことだね。もっと役割分担を整理したら良くなるね」と串田。


 串田の稽古場は、これでよし!と留まることがない。常に最善を目指して、自由に変化し続ける。本番ではこの稽古を礎に、きっと今まで見たことのない『メトロポリス』が繰り広げられることだろう。

 

文:三浦真紀 撮影:明緒