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2015.12.16 UP

キャストの皆様よりコメントをいただきました!

串田和美(演出・美術・脚本)
漂流する芸人/おもに国際警察官らしき男を演じる
 普通の演劇の概念とは違うものを作ろう……ということはいつも思っていることですが、今度はとくにそれを最初から狙っていましたし、そのようになったんじゃないかなと思います。残念ながら「こういうものを作りました。このように見てください」とは言えません。設計図があるなら「もう8割がた、できました。あとは屋根を葺くだけです」と言えるけれど、屋根がいるのかいらないのかもわからないものを作っているから。役者さんたちも知らないものを作っていくわけですから、不安を持ち、試行錯誤しながらも、それを楽しみに切り替えて一緒にやってきました。ベテランの方ほど、経験していないものを作ろうと一生懸命考えて、それに向かって頑張ってくれたと思います。
 開幕直前の今は、ガ〜ッと混ぜ物をした中から、ふわっと姿が見え出してきたところ。初日もまだまだ、お客様の前に出す寸前まで何かが起こるだろうと思います。この作品に取り組んだ当初に言っていたのは、「『ひょっこりひょうたん島』をそのままやるわけではなく、今から50年後のある記憶、できれば100年後の記憶として振り返れるような作品にする。その記憶とはいったい何だろう? そんな舞台を作りたい」ということ。その思いは今も頑固に変えていません。感性豊かなお客様に自由に観ていただいて、いろんなものを発見していただけたら嬉しいなと思っています。

 

井上芳雄
漂流する芸人/おもにマシンガン・ダンディを演じる
 メンバーの中から湧き出てくるものを待つ、というか、信じる。それが今回の串田さんのやり方で、そう理解してからは楽しくやってきました。自由というのは手掛かりがなくて厳しいことでもあるけれど、自分はそれが嫌いじゃないな、と。とくに緊張や不安感はないですね。演劇なんてもともと自由なもので、本来はどんな形であってもいいわけですから。ただ、本当に言葉通りにそれに挑戦するというのは、ものすごく大変なことだなと思います。とにかく今回の舞台は、得体の知れない感じは強いです(笑)。
 この舞台のマシンガン・ダンディは“自分は何者なのか”“自分と相手とは何が違うのか”といった、生きていれば誰しも感じる哲学的なテーマを背負っています。でもそんな大仰じゃなく、その思いを芝居で楽しく、おかしく届けたい。井上ひさしさんがずっと書いていらっしゃったことに通じるんじゃないかなと思いますね。お客様に時間と空間を共有してもらって、一緒に漂流している気持ちになってもらえれば。たぶん毎回、違う舞台になると思うので、僕たちも、そこで生まれるものを見逃さないようにしたいなと思います。

 

安蘭けい
漂流する芸人/おもにサンデー先生を演じる
 稽古場では、串田さんが「こんな感じ……みたいな」とイメージを言葉にされるのですが、その“みたいな”の範囲が劇場に入って舞台に立つ中でどんどん狭くなってきて、作品の世界観がより明確になってきています。これから初日までの短い期間にギュッと絞り込まれて、固まってくるのだろうなと。串田さんも「この時間がすごく大事だから! ミラクルみたいな時間なんだよ」とおっしゃっていたので、どんな舞台に出来上がるのか私自身もすごく楽しみにしているんです。
 不思議なプロローグから始まって、本編が始まった時に、きっと「あっ、そう来るのか!」と思われるのではないかと思います。初日の、その瞬間の反応がすごく楽しみでもあり、怖くもあります。でも演じている我々は確固たる自信を持って、串田さんのスピリッツを私達のからだに取り込んで、井上ひさしさんの描かれた世界を伝えていかなければと。60年代に人形劇が訴えていたテーマが、今まさに響く時代になっているので、そういったメッセージもお伝えできるよう頑張りたいと思います。

 

山下リオ
漂流する芸人/おもに博士を演じる
 20代から70代までのキャストが揃い、この一ヶ月半ほどの稽古期間でしっかりとした関係性を築くことができました。そんなところも舞台に表れてくるのではないかなと思っています。私が演じるハカセくんは、皆とはちょっと離れたところで冷静な分析ができる子です。 感情より先に情報を口にしちゃうところがあって、すごく頭がいいからか、時々「ンン!?」と理解できない部分も(笑)。そんな、ただの天才じゃないところが見ていて面白いんじゃないかなと思っています。正直、今でも「これでいいのかな?」と思ったりしていますが、串田さんが「その迷いを持っていていい舞台だから」と言ってくださったんです。毎回違うものになると思うので、どんな反応が返ってくるのか、楽しみと不安の両方があります。最後に「バカバカしいなあ」と笑える方もいれば、泣いちゃう方もいらっしゃると思うんです。時々自分も演じていて、なぜだかわからないけれど泣きそうになる時があるので。本当に予測のつかない、自由さが大事な舞台です。お客様にも自由に受け取っていただいて、楽しんでいただければと思います。

 

小松政夫
漂流する芸人/おもにトラヒゲを演じる
 串田さんの緻密な計算、細大漏らさずの演出方法によって作られた、これまで体験したことのない舞台になりました。僕らがやる喜劇というのは結構おおまかなもので、笑い飛ばして次に行っちゃう、とかだけど(笑)、こちらはもうラグビーのように、完全なるフォーメーションで動くからアドリブなんてできません。僕の飛び道具、いわゆる昔ウケたギャグは、稽古場では十分に出してきましたが、最終稽古までにどれかが採用されればいいな、という感じですね。アレが出るかも…という予感だけは持っていていただいても結構です(笑)。『ひょっこりひょうたん島』は荒唐無稽な話ではあるけれど、私に言わせれば、これはメルヘンです。メルヘンをぶち壊すようなことはできませんからね。お客さん、それぞれが心に持つ『ひょっこりひょうたん島』を思い浮かべて来ていただければ、きっと「懐かしいな、いい時代だったんだな〜」という思いが心に残るんじゃないでしょうか。人形劇を見たことのない年代の人も「何かが胸にじんとくる、いい光景だな。いいものを見たな」と思っていただけたらいいですね。

 

白石加代子
漂流する芸人/おもにドン・ガバチョを演じる
 串田さんは今もまだ緻密に詰めて、考えていらっしゃる。若い頃にはそういう作品作りもありましたが、それこそ人生の終わりのほうでこうした経験ができたことは、ちょっと得したなと感じますね。稽古の間、役者たちも右往左往しましたけど、豊かな時間だったなと思います。
 この物語では、ドン・ガバチョの“底抜けの明るさ、いい加減さ”が、危機的状況において救いになっているんですね。なのに自分の中にはそういった部分が探してもみつからず、なかなかたどり着けない。でも姿形からすっとんきょうな感じにしてくださっているのと、一役だけじゃなくほかの役も演じるところが、どこかの芝居の一座の余興のような風情でもあるんですよ。役を掘り下げてどうこうとは考えなくていいしつらえになっているので、一色にならず、客観的に楽しむことができて良かったなと思います。毎ステージ、いろいろ違ってくると思いますので、できれば何回も観てください(笑)。時間をかけて作った舞台です。どの日も、ありきたりなところへは漂着しないと思いますよ。