ウィーン国立バレエ団 2018年来日公演

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2018.05.07 UP

マニュエル・ルグリ 記者懇談会
ルグリ&キミン・キム (マリインスキー・バレエ プリンシパル)公開リハーサル レポート


「私のバレエ団と一緒にまた日本に来られたこと、皆様に初めてご覧いただく演目があるということで、今回本当に幸せに感じております」
“バレエの申し子”マニュエル・ルグリは記者懇談会冒頭にそう語った。名門歌劇場のバレエ団を統括して早8年、ヨーロッパ屈指の実力を誇るカンパニーへと導いたカリスマだが、口調は穏やかで、質問者や通訳の目をじっと見て話す。

今回の来日公演は、ルグリのウィーンでの活動の集成と目される。5月9日(水)、10日(木)に行われる「ヌレエフ・ガラ」は、ルグリがパリ・オペラ座バレエ団時代に学んだ伝説のダンサー/振付家/芸術監督で、ウィーンでも活躍したルドルフ・ヌレエフの名を冠したガラ・コンサートだ。
「毎シーズン最終日に上演しますが、必ずソールドアウトになるくらいの成功を得ています。今年はヌレエフ生誕80周年にあたり日本でもやりたいと思いました。≪ヌレエフ・セレブレーション≫では『ライモンダ』のサラセン人の踊り、『白鳥の湖』のスペインの踊りといったキャラクターダンス性の強いものを半分、それから有名なヴァリエーションが半分というコレクションになっています」
ルグリ自身は『シルヴィア』より(振付:ジョン・ノイマイヤー)と『ランデヴー』より(振付:ローラン・プティ)に出演する。
「『シルヴィア』はパリ・オペラ座のレティシア・プジョルのオペラ座引退公演でも踊りました。『ランデヴー』はがらりと違って特徴のある作品なので、お楽しみいただければ」
新しい振付家を紹介することにも意欲的だ。
「ジョージ・バランシンやノイマイヤーといった超大御所の作品のなかにウィーンで活躍しているエドワード・クルーグ、ダニエル・プロイエットの秀作も散りばめています。バレエの世界の現在と未来を確かめる意味でも「ヌレエフ・ガラ」全体にご注目ください」

そしてルグリが振付を手掛け2016年3月に初上演された『海賊』の日本初演が5月12日(土)~13(日)に行われる。壮大なスペクタクルが展開される人気演目だが、「ストーリーが分からない」と感じたルグリは人物設定に変更を加え、新たな編曲も行い独自の版を創り上げた。
「3つの愛の形に仕立て上げました。1つはメドーラとコンラッドを中心とする男女の愛の物語。またサイード・パシャ(オスマンの提督)もラブストーリーの主人公という形で登場します。そしてビルバントと(恋人の)ズルメアの愛もストーリーに展開させ、いくつかの人間の物語が主役の二人に絡みます。

ロシア最高峰のマリインスキー・バレエのプリンシパル(最高位)であるキミン・キムがコンラッド役でゲスト出演するのも話題だ(5月12日18:30の回)。
「キムさんを選んだのは、マリインスキー・バレエでの経験があり、すべてのレパートリーに関して知識・経験、ベースがあって、対応力が高い教育を受けているからです。私にとってもキムさんにとっても今回はチャレンジですが、彼は音楽的センスがあって、頭も非常に良く、女性をサポートする役割も完璧にできるので大変期待しています」 

なお記者懇親会前にルグリ&キムによるリハーサルが公開された。キムは国際バレエコンクールで5冠を達成し、アジア人として初めてロシアの超名門のプリンシパルに昇進した新進スターだ。爽やかな顔立ちと身長183㎝と長身かつ均整の取れたプロポーションの持ち主で、立ち姿ひとつとっても優美で絵になる。そして跳躍や回転も滑らかで、いまや世界中のバレエ団から出演依頼が相次ぐ売れっ子なのも当然であろう。第3幕の最後でランケデムにさらわれたメドーラをコンラッドが助け出す場面では、ルグリがメドーラ、グルナーラ(メドーラの友人)、ランケデムの3役をこなしながらキムを熱血指導した。偉大なヌレエフの寵愛を受けたルグリから今をときめくキムへ――。バレエ芸術の神髄が伝承され、鮮やかに躍動する舞台の開幕は目前に迫っている。


 

文:高橋森彦
写真:瀬戸秀美