ウィーン国立バレエ団 2018年来日公演

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2018.04.19 UP

ウィーン発!キミン・キム&マニュエル・ルグリのリハーサルレポート到着!


パリ・オペラ座やABTからオファーが相次ぐ次世代のスター キミン・キム

 キミン・キムは世界のバレエ界でいまもっとも注目を浴びるアジア人ダンサーだ。
韓国にいる頃から、ロシア・バレエの著名な指導者であるウラジーミル・キムとマルガリータ・クリークに師事し、ロシア・バレエの基本を会得。まだ学生であった2011年にマリインスキー・バレエの研修生となったが、なんとその間に『海賊』のアリ役でマリインスキー・デビューを果たしているというから驚愕の経歴だ。
受賞歴も華々しく、ヴァルナ国際バレエコンクール1位、ペルミ国際バレエコンクールおよびユース・アメリカ・グランプリ国際コンクールのグランプリなど世界中のバレエコンクールを総なめにし、早くから国際的な評価を得ている。

 2012年11月、外国人としては初めてのファースト・ソリストとしてマリインスキー・バレエ団に正式に入団し、翌年には、同バレエ団のプリンシパル・ダンサーに昇格。その後はパリ・オペラ座バレエ団やアメリカン・バレエ・シアター(ABT)への客演を含め、逸材に世界中からのオファーが相次ぐ。つい先日、来月5月のABT『ラ・バヤデール』にもゲスト出演することが発表されたばかりだ。
キムの素晴らしさは次世代らしい超絶技巧を持ちながら、古典バレエの品格を完璧に備えていることだろう。回転数やジャンプの高さ以上に、その技術の美しさや、役柄としての在り方に重点を置いている現代では稀有な存在といえる。
そんなアカデミックにバレエの道を探求する彼を、マニュエル・ルグリが見逃すはずはなかった。一度キムの踊りを見れば、世界の頂点を知っているルグリが「ぜひ自分の『海賊』を踊って欲しい」とラヴコールを送ったのも納得できる。


真髄を求め献身する求道者のような二人が創る“本物”の世界

 3月下旬、ウィーン国立歌劇場でルグリとキムによる初めてのリハーサルが行われた。
キムはマリインスキー・バレエ団では何度も『海賊』のアリ役を踊っているが、ルグリ版ではアリ役が存在しないため主役コンラッドを演じる。ほぼすべての場面に出演し、通常アリが踊る場面も担うこの役。振付をさらうだけでも通常膨大な時間を要すると思うが、なんと3日のリハーサルで全幕の振付指導を終えていた。二人の相性が素晴らしく良いからこそ、成し得ることだ。

 キムは「憧れの人ルグリ」の教えを一言たりとも逃すまいと、凄まじい集中力で振付を自分のものにしていく。一方のルグリもオープンな心をもち、スポンジのように全てを吸収していくキムを前に、エンジン全開で自身の知識や経験のすべてを与えていく。

 ルグリ版の特徴のひとつに、ルグリが追加したオリジナルの踊りがあるが、その中でも2幕に踊られるコンラッドとメドーラのパ・ド・ドゥは特徴的だ。
『シルヴィア』の美しい旋律にのせて繰り広げられるアダージオは、抒情的でありながらヌレエフを思わせる複雑なステップで彩られている。難易度が高いリフトも多いが、ここでキムはサポートのレベルの高さを見せつける。「女性を美しく見せることが何より大切」と本人も語っていたが、ロシアの大バレリーナたちに鍛えられてきたサポートテクニックは、女性の動きにぴったり寄り添う。

 力強い振付が特徴のヴァリエーションでは、183センチという長身と長い四肢が生み出す跳躍の伸びやかさに目が奪われる。あれだけの高さと滞空時間を持ったジャンプを、しかも極上の美しさで繰り出すダンサーは他に思いつかない。

 バレエの真髄を求め献身する、求道者のような二人が世代を超えて出会い、創り上げる舞台はこれまで見たことのない“本物”が見られる予感がする。
流派や世代を超え、継承されるバレエ芸術の奥深さを体感できる舞台になることは間違いない。
 

Photos by V.Baranovsky(Don Quixote), Wiener Staatsballett/Ashley Taylor (Rehearsal)