イギリス×日本×ベルギー国際共同製作 シディ・ラルビ・シェルカウイ振付最新ダンス作品

「テ ヅカ TeZukA」

2012年2月23日[木]―2月26日[日]

Bunkamuraオーチャードホール

ロンドンレポート

©Hugo Glendinning

 9月6日。ロンドンのダンスの殿堂サドラーズウエルズ劇場で、『テ ヅカ TeZukA』世界初演の幕があいた。フランスやイタリアのように、日本のマンガ・アニメが浸透している国とは、かなり事情が異なるイギリスでの公演。満員の観客の興味は、主に今年度のローレンス・オリビエ賞最優秀新作ダンス賞など、各賞総なめで絶好調の振付家シェルカウイと、絶大な人気を誇るミュージシャンでDJのニティン・ソーニーというビッグネームに集中しているようだ。

©Hugo Glendinning

 冒頭、舞台下手のオルゴールから『鉄腕アトム』のメロディーが流れてくる。その傍らには、黙々と書をしたためるベレー帽の人物。舞台中央には、天井から反物ほどの幅のロール・ペーパーがつり下げられ、その前で少年がマンガを読みふけっている。ページを繰るようにロール・ペーパーがめくれると、そこには鉄腕アトムが。少年はアトムに誘われるように、コマで仕切られた手塚マンガの世界に入ってゆく。

©Hugo Glendinning

 バクテリアについて語るブラック・ジャックとピノコや、華麗なヌンチャクさばきで武勇を誇示するどろろ。官能的なデュエットが狂おしい『MW』の結城美知夫と賀来巌に、閉ざされた世界で恐怖におののく奇子(『奇子』)... ... 。シェルカウイは多彩な手塚マンガのキャラクターを登場させ、タブーを恐れず人間の持つあらゆる側面を描き続けた、偉大なる手塚治虫のスピリットに応えようとする。さまざまな出自や国籍からなる個性豊かなダンサーたちは、シャープな身体と豊かな演技力で、各キャラクターをユニークに体現。ときに見せる全員がピタッとユニゾンになって踊る群舞も、パワフルで美しい。紙、墨、筆などの質感を活かした各素材の使い方と、変幻自在で緻密かつ雄弁な映像(上田大樹)、東洋と西洋が混在する多様な音楽(ニティン・ソーニー)。すべてが見事に融合した完成度の高い舞台に、ロンドンの観客は大歓声を送っていた。
 が、これは多重構造を持つこの作品の、ほんの一面にすぎない。基底にある、手塚を生んだ日本と手塚を喪った後の現在の日本へ向けられたシェルカウイの想いが、ボディー・ブローのように効いてくる。実にヘビーな衝撃作だ。

文:伊達なつめ(演劇ライター)