松尾スズキ唯一の時代劇が新キャストを得て
よりリアルに、かつ時代に合わせ進化を遂げる
大人計画の松尾スズキが十八代目中村勘三郎(当時は勘九郎)にあてて書いた、松尾にとって唯一の時代劇で、かなり実験的な作品でもあった『ニンゲン御破算(当時は御破産)』。この伝説的な舞台が15年の時を経て、大幅にキャストを変更し、タイトルも1文字変更し、待望の再演を果たす。松尾いわく「“御破産”はクラッシュのイメージですが、今回はリセットするという意味の“御破算”にしました。全体的にちょっと複雑な構成の時代劇だったので、再演ではよりテーマをくっきりさせ、老若男女が素直に楽しめる、わかりやすくリアリティのある時代劇にするつもりです」とのこと。
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物語は江戸時代、それも幕末の頃。芝居好きで自らも狂言作者になることを夢見ている加瀬実之介は、侍の身分を捨て、人気狂言作者の鶴屋南北、河竹黙阿弥に弟子入り志願する。しかし二人から「あなた自身の話の方が面白そうだ」と言われ、実之介は自らの半生、そして周囲のニンゲンたちの物語を語り出す……。
実之介を演じるのは、初演時の勘三郎とちょうど同年齢となる大人計画の看板役者・阿部サダヲ。阿部は「勘三郎さんにしかできないセリフまわしがあった印象なので、きっとそのままはやらないでしょうから、前回とはかなり違った作品になりそう。まっさらな気持ちで取り組めそうな気がしています」とコメント。その阿部が演じていた灰次役には『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』(2016)で難しい二役を見事に演じ分けていた岡田将生が扮する。「松尾さんの作品にまた呼んでいただけるなんて、すごくうれしかった。初演での阿部さんとは違うところを目指しつつ、前回の舞台を観ている方々にも認めていただけるよう、新たなチャレンジとしてがんばります」と意気込む、岡田の新境地に期待は高まる。お吉役は『ふくすけ』(2012)『キレイ』(2014)で松尾作品との相性の良さが印象的だった多部未華子。多部も「舞台で時代劇に挑戦するのは初めてなのでどうなるかまだ想像がつきませんが、今回も素敵な作品になるようにがんばりたいと思います」と語り、また新たな魅力を発揮してくれそうだ。さらに「今回、初演の時とは違う役を演じるので、ちょっと予想ができなくて。実は松尾さんの作品に出るのも久しぶりだったりするので緊張します」と語る黒太郎役の荒川良々ら大人計画メンバーに加え、平田敦子やノゾエ征爾ら小劇場のツワモノ勢も参加する上、もちろん初演に引き続き松尾自身も鶴屋南北役で登場する。新キャスト、そして2018年という時代に合わせ、松尾がいかにバージョンアップしてくるか、刮目して待ちたい。
田中里津子
あらすじ
頃は幕末。加瀬実之介(阿部サダヲ)は、人気狂言作者・鶴屋南北(松尾スズキ)、河竹黙阿弥(ノゾエ征爾)のもとへ、弟子入りを志願していた。大の芝居好きで、成り行きとはいえ、家も侍分も捨て、狂言作者を志している実之介。「あなた自身の話のほうが面白そうだ」と南北に言い放たれた彼は、自分、そして自分の人生に関わってくるニンゲンたちの物語を語りだした―。もともとは元松ヶ枝藩勘定方の実之介は奉行から直々の密命を受けていた。それは偽金造りの職人たちを斬ること。幼馴染みのお福(平岩紙)との祝言を済ませた実之介は、偽金造りの隠れ家へ向かい、職人たちを次々に殺めたのだった。その様子を目撃していた、マタギの黒太郎(荒川良々)と 灰次(岡田将生)の兄弟は殺しのことは黙っている代わりに自分たちを侍にしてくれるよう、実之介に取り引きを持ちかけた。そこへ駆け込んできた娘が一人。黒太郎たちの幼馴染みで、吉原へ売られていく途中のお吉(多部未華子)だった。ちょうどその頃、実之介は、同志の瀬谷(菅原永二)や豊田(小松和重)から、悪事の責任をすべて負わされて切腹を迫られていた・・・・・。
コメント
『ニンゲン御破算』はそもそも15年前に中村勘三郎(当時は勘九郎)さんにあてて、歌舞伎に対して真っ向勝負みたいな気持ちで書いたものだったのですが、今回は思いっきり考え方を変えて阿部の主役でやらせていただきます。それに伴い、それぞれのキャストに合わせて書いた部分や細かいギャグなどはどんどん書き換えますし、タイトルも一文字(産→算)変え、クラッシュするイメージの“御破産”からリセットするという意味で“御破算”にしました。全体的にちょっと実験的で複雑な構成でしたが、再演ではよりテーマをくっきりさせ老若男女が素直に楽しめる、リアリティのある時代劇にするつもりです。江戸の文化を僕流にアレンジし、怒涛のエンターテインメントに仕上げます。
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