るつぼ

Pointポイント

20世紀を代表するアーサー・ミラーの傑作!
狂気の〈るつぼ〉に巻き込まれる男の運命

 『セールスマンの死』『橋からの眺め』など今なお世界中で人気の高いアメリカの大劇作家アーサー・ミラー。その代表作『るつぼ』がシアターコクーンに登場する。演出を担うのはイギリスの人気演出家ジョナサン・マンビィ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)にてグレゴリー・ドーランなどの下で研鑽を積み、現在はRSCをはじめ英米各地で引く手あまたの俊英である。『ウェンディとピーターパン』(13年)、ジョナサン・プライス主演『ヴェニスの商人』(15年)など話題作を放ち、日本では佐藤健・石原さとみ主演『ロミオ&ジュリエット』(12年)の演出を手がけた。古典から現代劇まで精通するマンビィが「20世紀最高の戯曲」と惚れ込むのが、1953年に初演された本作『るつぼ』だ。
 下敷きになっているのは17世紀アメリカで実際に起きた「セイラムの魔女裁判」事件。突然何かに取り憑かれた少女たちが、住民を次々と〝魔女〞だと告発していく。背景には一人の少女の歪んだ恋心が潜んでいたが、人々の間に広がる疑心暗鬼、渦巻く欲望と不安、熱に浮かされ〈るつぼ〉と化す集団心理の恐ろしさを余すところなく描いた傑作だ。
 広田敦郎による新訳を得て、キャストも豪華かつスリリングな顔ぶれが揃った。少女に翻弄される男に堤真一、その妻を松雪泰子、魔性の少女に黒木華、正義を信じる牧師に溝端淳平と、この濃厚にして心かき乱される戯曲の世界を描き出すのにふさわしい布陣である。小野武彦、立石涼子、秋本奈緒美、大鷹明良らが作品を支え、岸井ゆきのをはじめとする少女たちが思春期特有の危うさをどのように体現するのか、期待は尽きない。
 ミラーは本作を当時アメリカに吹き荒れた反共産主義運動〈赤狩り〉の嵐に対する痛烈なアンチテーゼとして描いたが、「この 物語はいつの時代でも当てはまる。敵はいつも内にいて我々の心の淵に巣食っている」とも語っている。手に汗握り、自分自身の心の暗闇を覗き込むようなヒリヒリする観劇体験を味わいたい。

文・市川安紀

Storyストーリー

17世紀、マサチューセッツ州セイラム。ある晩、戒律で禁じられた魔術的な「踊り」を踊る少女たちが森の中で目撃される。その中の一人は原因不明の昏睡状態に。これは魔法の力か? 悪魔の呪いか? セイラムを不穏な噂が駆け巡るが、少女アビゲイル(黒木 華)は「ただ踊っていただけ」と主張する。彼女の真の目的は農夫プロクター(堤 真一)の妻エリザベス(松雪泰子)を呪い殺すことにあった。雇い人だったアビゲイルと一夜の過ちを犯したプロクターは罪の意識に苛まれ、以後、彼女を拒絶していたのだ。プロクターに執着するアビゲイルは、敬虔なエリザベスを〈魔女〉として告発。アビゲイルに煽られ、周囲の少女たちも悪魔に取り憑かれたように次々と〈魔女〉を告発していく。大人たちの欲と思惑もからみ合い、魔女裁判は告発合戦のごとく異様な様相を呈していった。悪魔祓いのためセイラムに呼ばれた牧師ヘイル(溝端淳平)は、自身が信じる正義のありかが揺らぎ始め─。

ここに注目!

物語の鍵を握るのは少女たちの集団心理。ジョナサン・マンビィと振付の黒田育世によるオーディションで選ばれた、岸井ゆきの、皆本麻帆らフレッシュな女優陣にも注目だ。少女ならではの震える感性と危うい純粋さが、プロクター夫妻を追い詰めていく。彼女たちは果たして正気か、狂気か。固唾をのんでその行方を見守りたい。

Jonathan Munbyジョナサン・マンビィとは

演出:ジョナサン・マンビィ(Jonathan Munby)

ジョナサン・マンビィ

イギリスの名門ブリストル大学で古典戯曲を学び、卒業後はブリストル・オールド・ヴィック劇場、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)を遍歴。数多の人気演出家のものとで研鑽を積み、その後、演出家として国内・海外で精力的な活動。2009 年には『The Dog in the Manger』にてヘレン・レイズ賞最優秀演出賞候補にノミネート。2012 年には、佐藤健・石原さとみ主演『ロミオ&ジュリエット』(赤坂 ACT シアター/シアター BRAVA!(大阪))の演出で、日本にも活動の場を広げている。2013 年12 月にはRSC の新作公演『Wendy and Peter Pan』を演出。

Castキャスト