2015.03.13 UP

プロダクションノートvol.7公開!

手塚眞さん、浦沢直樹さん、長崎尚志さん、 シディ・ラルビ・シェルカウイさんのコメント

 『プルートゥ』東京公演には、手塚眞さんを始めとする手塚家や手塚プロのみなさん、浦沢直樹さん、長崎尚志さんが、それぞれ一度ならず、劇場に足を運んでくださいました。原作者のみなさんは、この舞台をどう思われたのか。初日の乾杯の席での手塚眞さんと浦沢直樹さんのスピーチ、千秋楽終演後の長崎尚志さんのコメントを紹介します。

 

『プルートゥ』

手塚眞さん  (関係者への祝辞のあと)たいへん短い期間でこれほど複雑なステージを組みあげたことに、驚嘆しています。非常に複雑なストーリーをどのように扱って頂けるのかと、たいへん興味深く見守っていたのですが、素晴らしいステージ・アートになっていました。(原作が)漫画の演劇というのは、いろいろあるんですが、コスプレ・ショーのような安っぽいものになってしまうものが多いなか、これはまったく違います。大人向けの素晴らしいステージアートが完成したと思って、たいへん感激いたしました。(後略)

浦沢直樹さん 浦沢です。2、3回泣いちゃいました。素晴らしかったです。ありがとうございます。この原作である『地上最大のロボット』は、僕にとって特別な作品です。5歳くらいの時に、初めて読んだんですが、僕、幼稚園に行けなくて、家に閉じこめられていて、親が「これでも与えておけばいいたろう」とポンと与えたのが『地上最大のロボット』で、これを毎日、毎日、毎日、読んでいました。読めば読むほど「なんて不思議な物語なんだろう」と夢中になって、まだ(人生)5年くらいの歴史しかないのに、「こんなドラマ初めて読んだ!」と思っていたんです。そして漫画を描くようになってからも、いつもその思いを自分の糧にしてきました。2003年、(手塚)眞さんの許可を得て『プルートゥ』を描き始めましたが、今年がちょうどプルートゥと出会って50年目なんです。50年目にこのような素晴らしい形で花開いて、ほんとにうれしく思います。僕は手塚先生の魂のようなものを損うことなく、プルートゥを形にできないかな、ということだけを考えて『プルートゥ』を創りました。そして今、また正しく手塚先生の魂が、ここに甦っていると、僕は今日観て思いました。なんか、素敵なバトンが渡されている感じがしました。ありがとうございます。

長崎尚志さん  『プルートゥ』の舞台化なんて、できるわけがないと思っていましたが、最初にこの件でシェルカウイさんとお会いした際に、「この人は天才かもしれない」と思ったんです。この漫画は、すべてが伏線でつながるめずらしい構成になっていて、最後までいくと、きちんと円になる構造なんですが、彼は僕が言う前に、自分でそのことを言い出したんです。とてもよく読み込んでいる。これならヘンなものにはならないと思いました。 実際に舞台を観て感じたのは、まず漫画というものを軽くみていない、尊敬してくれている人の作品であることがわかったのと、役者さんがすごくうまいということ。しかも原作にほとんど忠実で、よく3時間でまとめられたと、その構成力にも感服しました。(上田大樹さんの)映像がすごいことは以前から知っていましたが、今回は予想以上でした。さらに、今の時代だからこそ、この作品をやる意味があったんじゃないか、ということも感じました。とにかく、あまりにもよくできているので、ビックリしています。「なんだかとんでもないものができちゃったぞ!」という感じですね。

そして初日を終えたラルビは、原作への愛と忠誠心に溢れた今回の舞台化について、その真意を次のように語りました。

シディ・ラルビ・ シェルカウイさん  たとえば、早く親離れしたいと思っている子どものように、原作から独立した作品を創作することもできたでしょう。でも、僕は、『プルートゥ』を親から切り離したいとは思いませんでした。むしろ、親に会ってみたかった。この舞台を、浦沢さんと長崎さんに見に来てほしかったのです。『TeZuKA』を創った際は、手塚治虫さんのお子さんである手塚眞さんや手塚るみ子さんにお会いできたことが、ほんとうにうれしく、感動的でした。でも同時に、手塚治虫さん自身に会ってお話を伺うことは永遠に叶わないということを痛感し、彼がこの世にいないことの悲しさに打ちひしがれました。だから、『プルートゥ』では、同じような悲しみを味わいたくなかったのです。

自分のためだけでなく、原作にかかわった人たちのための舞台を創り、彼らが創り上げた芸術を、世界に紹介したいとも思いました。最初から、これほど原作のビジュアルを使うつもりではなかったのですが、(上田)大樹と話し合いを進めるうちに、原作のビジュアルを使うことによって、ストーリーの本質により近づくことができると考え、多用することにしました。

漫画の舞台化というのは、小説や戯曲の舞台化とも、楽曲やオペラ(楽譜+台本)のそれとも異なり、ビジュアルを伴った基準が原作に存在します。この独特のコンセプトが、今回の経験を通して非常に好きになりました。漫画は、立派な芸術です。漫画を舞台に「翻訳」していくのは、非常に興味深い試みであることを知りました。

通常、漫画はひとりで読むもの。でも今回は、客席にいる750人で一緒に読みました。みんなで一緒に漫画の流れを楽しむという発想が、すごく気に入っています。『TeZuKA』のときも、同じようなことを部分的に取り入れましたが、今回は大樹と話して、さらにそれをステップアップさせようと取り組んだ面があります。その意味でも、『プルートゥ』は非常にうまくいきました。

できることなら、もっと長編の『プルートゥ』を創りたい。原作が大好きなので、多くの場面カットをしなければならないのが、とてもつらかったんです。それから、いつか浦沢さんが演劇への関心を高めて、舞台化を前提とした漫画を描いてくれるのではないかということも、ちょっと期待していたりします(!)

 

文:演劇ジャーナリスト 伊達なつめ  撮影:小林由恵