東京フィルハーモニー交響楽団 ニューイヤーコンサート2020

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2023.12.01 UP

指揮者:三ツ橋敬子 インタビュー

獅子舞、升酒、凧、着物、福袋、お年玉……お正月ならではのお楽しみがめいっぱい詰まった東京フィルのニューイヤーコンサート。才能豊かな若きソリストを迎えたプログラムの聴きどころや、お楽しみ企画の舞台裏について、指揮の三ツ橋敬子さんにお話を伺いました。


2021年公演より (C)K.Miura

◆着物姿でたすきがけをして指揮台へ

――三ツ橋さんは2021年に次いで、東京フィルのニューイヤーコンサートにご出演となりますが、前回はいかがでしたか?

2021年はコロナ禍による制限が多かった時期で、毎年恒例だった獅子舞や枡酒の販売などができず、少し残念な部分はありましたが、そういう時期だからこそ、華やかな新年のコンサートを楽しみに、たくさんのお客さまにお越しいただいて、私も感激しました。

――着物姿で指揮台に上がったのは、三ツ橋さんがはじめてだったそうですね。

はい、前回はオーケストラの楽団員の皆さんにも内緒にしていて、本番でいきなり着物姿で登場したので、どよめきが起こりました(笑)。しかも、舞台上で「フンッ」とたすきがけをして指揮台に上がるという。たすきもYouTubeで作り方を見て、自分で太いゴムをチクチク縫って作って、ひとりでたすきがけができるよう練習をして臨みました。

もう20年以上も前になりますが、師事していた松尾葉子先生がセントラル愛知交響楽団で、能演出による『ドン・ジョヴァンニ』を指揮されたとき、私も名古屋まで聴きに行ったんです。そのとき松尾先生が着物にたすきがけをして指揮していらしたのが本当にカッコよくて。いつか機会があったら、私も着物で指揮してみたいとずっと思っていたので、実現して嬉しかったです。

――今年も着物姿でご登場いただけるとのこと、楽しみにしています!

私だけでなくソリストのおふたり、そしてお客さまをお迎えする会場のスタッフも着物を着られるそうですね。どんな着物をコーディネートしていただけるかは当日のお楽しみなので、私もワクワクしています。



◆感性豊かで、可能性に満ちたふたりのソリスト

――プログラムについてお伺いします。まず1月2日は箏奏者のLEOさんをお迎えして、宮城道雄(池辺晋一郎編)による管弦楽のための「春の海」。この作品については、どのような印象をお持ちですか?


聴くとやっぱりお正月だなって、もう身体に染み込んでいるような感覚がありますよね。お正月らしさを存分に味わっていただくとともに、箏とオーケストラがどのように融合していくのか、生ならではのサウンドで楽しんでいただけたらと思います。

LEOさんとは以前、テレビ朝日の『題名のない音楽会』でご一緒させていただいたことがありまして、そのときはSixTONESの皆さんが出演して、彼らの曲をオーケストラ・アレンジで歌うという企画でした。そこに箏も入っていただいたので、J-POPの王道のような曲をどうやって演奏されるのかなと思っていたのですが、LEOさんはとても感覚が豊かでいらして、臨機応変にいろいろなところに寄り添いながら、音楽を作っていってくださいました。そんなLEOさんと、今回は箏の名曲で共演できるのが楽しみです。

――LEOさんの自作曲「松風」も、箏という楽器で、あらゆるジャンルの音楽をボーダーレスに表現するLEOさんらしい作品ですよね。

そうですね。ソリストがご自身で作った作品には、その方の得意な技巧や、その方ならではの感覚がものすごく凝縮されているので、別の作曲家のコンチェルトを演奏するときよりも、さらに熱量が上がるんです。そういった意味でも、ぜひご期待いただければと思います。

――いっぽうの1月3日には、14歳のトランペット奏者、児玉隼人さんが登場して、アーバンの「ヴェニスの謝肉祭」による変奏曲を披露します。

トランペットの重要なレパートリーで、超絶技巧の手に汗握るスリリングな場面が聴きものですが、そういった技巧的な部分だけでなく、メロディもとても美しい作品です。トランペットの豊かな音色とオーケストラとの掛け合いをご堪能いただければと。

児玉さんは14歳という年齢が信じられないぐらい、立派なアーティストでいらっしゃいますが、若いソリストとご一緒すると、大人の想像を超えるような展開が起きることが多くあって。まだオーケストラとの共演経験が少なかったりすると、はじめは緊張して遠慮がちに演奏していたのが、リハーサルを重ねるごとに飛躍的に伸びていくんです。そういう姿を見るたび、若い力に刺激を受けています。



◆お客さまが演奏作品を決めるオンライン投票受付中!

――毎年恒例のお楽しみ福袋プログラムは、お客さまの投票によって、30曲の候補の中から演奏する作品を決める人気企画。今年はオンラインでの事前投票の受付が12月24日の23時59分までとのことで、それから集計をして演奏する作品が決まり、リハーサルをして、年始の本番に間に合わせるのは大変ではないですか?


私が出演した2021年からオンラインでの事前投票に変わったのですが、それ以前は本当に本番までどの作品になるか分からないので、30曲すべてをリハーサルしていたそうです。2020年に指揮された円光寺雅彦先生から、「三ツ橋はラクでいいな」と言われました(笑)。

――それは壮絶ですね……。30曲の候補は、オーケストラにとっては、いつでも演奏できるような定番のレパートリーなのでしょうか?

東京フィルは「午後のコンサート」というシリーズで、誰もが知る有名曲を日頃から多く演奏しているので、だいたいは慣れていると思います。ただ、「あれ、そういえばこの曲は久しぶりだよね」という作品も中にはあるので油断できません。

――どんな作品が人気ですか?

オンラインでの事前投票で毎年必ず上位になるのは『スター・ウォーズ』関連の作品ですね。ほかにも人気曲がありますが、それだけで決めてしまうと面白くないので、本番までどれになるか分からないランダムな要素も残してあります。ある年は会場の客さまにサイリウム(光るスティック)をお渡しして、「『花のワルツ』がいい人」「『ダッタン人の踊り』が聴きたい人」という呼びかけに応じて振っていただいて決めたり、ある年はサイコロを振って決めたり。あらかじめ5曲程度に絞った候補の中から、どの作品になってもいいようにスコアを用意しておいて、決まったら舞台袖からステージマネジャーさんがスコアを持って出てくるという。かなりスリリングな企画です。

――もうひとつのお楽しみ企画「お年玉抽選会」は、ご来場のお客さまの中から抽選で「ラデツキー行進曲を指揮できる権」が当たるというもの。これもドキドキですね。

希望者だけでなく、お客さま全員のチケットの半券を箱の中に入れて、舞台上で抽選を行ないます。毎年、このためにチケットを買って来てくださる方もいらっしゃるほどの人気企画。小さなお子さんから、MY指揮棒持参して臨む本格派まで、さまざまな方がいらっしゃって盛り上がります。

――そしてコンサートの最後は、こちらも毎年恒例となっているラヴェルの「ボレロ」。

東京フィルほどたくさん「ボレロ」を演奏しているオーケストラはないかもしれませんね。私も何度も指揮させていただいていますが、オーケストラのメンバーそれぞれの個性が出るので、毎回たまらなく楽しいです。2021年のときからは、メンバーが変わったパートも多いので、また違った「ボレロ」をお聴かせできると思います。

――お正月らしいスペシャルな要素が盛りだくさんのニューイヤーコンサート。お話を伺ってますます楽しみになりました!

本当に華やかで豪華なコンサートですよね。こういう特別な機会が、オーケストラ・コンサートを生で聴いていただくきっかけになったらいいなと思います。素晴らしい新年のスタートとして、お客さまの思い出に残るコンサートになるようがんばりますので、ぜひお越しください。


2021年公演より (C)K.Miura

取材・文:原 典子