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2026.02.05 UP

【特別対談】ホテルを舞台に「アーティストとクライアントの関係」を考える《フィガロの結婚》~美術を担う建築家・隈 研吾とスポンサー・高砂熱学工業 社長 小島和人が語る!

高砂熱学 Presents 鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×隈 研吾《フィガロの結婚》(2026年2月19~23日、めぐろパーシモンホール 大ホール)について、美術を担当する隈 研吾氏(建築家)とスポンサーを務める高砂熱学工業株式会社小島和人社長が和気藹々と語り合った(2026年1月14日、隈研吾建築都市設計事務所)。

――先ず高砂熱学工業の“自己紹介”をお願いします。御社がパフォーミングアーツの支援をされる意義は何なのでしょうか?

小島社長(以下「小島」)「私たちは1923年の創立時、空気の温度・湿度・気流・清浄度を整える『空気調和』がこれからの社会に欠かせない技術になると考え、その開発に挑んだところから歩みを始めたベンチャー企業です。
以来、高層ビルや商業施設、工場、音楽ホールなど、多様な建物に応じた最適な環境を提供するため技術研鑽を重ねてまいりました。これまでは『建物環境』を主なフィールドとしてきましたが、創立100周年を機に掲げたビジョン『環境クリエイター®』には、従来の枠を超えて社会課題の解決に取り組み、よりよい地球社会を目指したいという思いを込めています。
また、文化・芸術・スポーツ・地域貢献などの領域でも社会に恩返しをしたいという思いから、未来に挑む人や活動を支援する『アースショットプログラム』を立ち上げました。そうした取り組みの一環として、昨年の《ドン・ジョヴァンニ》に続き、《フィガロの結婚》にも協賛させていただきました。近年は、社員が誇りをもって働ける環境づくりや採用面など、さまざまな場面でブランディングの必要性を感じており、その点においても本協賛は大切な取り組みの一つだと考えております」

――隈さんは《フィガロの結婚》に、どのようなイメージをお持ちですか?

隈 研吾氏(以下「隈」)「やはり貴族社会に対する批判精神、すごい毒があるのに、楽しくやっているところがいいなと思うのです。毒を毒としてそのまま見せると気持ちがつらくなるばかりですが、それを楽しくやっているという点に僕はモーツァルトの時代、18世紀が持つある種の健康さというのがあると思い、そこにすごく惹かれます」

小島「まさに恋愛をめぐる大騒動でありながら、権力やジェンダーなど、様々な視点が描かれる作品です。隈先生がおっしゃった通り、これを楽しく明るく観られるというのは、本当に楽しみです」

――隈さんは今回の舞台設定を、ご自分で設計を手がけられたザ・キャピトルホテル 東急のロビーとしました。

「僕がモーツァルトにすごく感情移入してしまうのは、やっぱり芸術家といいながら、お客商売だからです。発注者やクライアントがいて仕事をしている。世の中からは建築家も芸術家みたいに思われていますが、やはりお客商売なのです。芸術家の部分と、クライアントに使われる身の部分の二重性を持っているところで、『モーツァルトも苦労してきたのだな』と共感します。発注先の下で苦労している悲哀もモーツァルトと一緒に噛みしめてみたい、と思っています。二重三重の意味で発注者、クライアント、芸術家の関係が入り交じっているところが今回の面白さです」

――ホテルの中では様々な人間の欲望が渦巻いており、《フィガロの結婚》に最適の舞台という気もしてきました。

「そうですよね。《フィガロ》の時代設定の邸宅は、僕らにとってあまりに遠くの存在になり過ぎているけれども、ホテルは僕らにとってもすごく身近です。建築が持っている、ある種の制度、ちょっと難しいのですが、建築は社会のシステムを象徴する器なので、眺めているとシステムが透けて見えてきます。そういう意味でもホテルは、オペラの設定にピタリはまるのではないかなと思ったのです」

小島「ザ・キャピトルホテル 東急は、当社が空調の加工に携わらせていただいていることもあり、私にとっても親しみ深い場所です。今回、その場所がオペラの舞台に起用されると伺い、その発想に心が躍りました。どのような世界観になるのか、とても楽しみにしています」

――建築家の隈さんがオペラの舞台制作に関わるのは、分野を超えた試みのような印象もあります。

「そうですね。今は僕らの仕事の境界がどんどん壊れていく時代だと思っています。縦割りの社会が消えて、ある意味、デジタルで全部が同じプラットフォームの上に乗っかったみたいな時代になってきました。僕らも今までの建築のやり方をしていてはダメだなと考え、会社の中でもどんどん自由にやろうと動き始めたときに今回のお話があって『これはきっと面白いことができるのではないかな』と思いました。建築業界って、やっぱり変わらなきゃいけない時代ですよね」

小島「当社も空調を通じて快適な空気を提供することに留まらず、『地球環境のカーボンニュートラル』への貢献がますます重要になると感じています。これから訪れる時代は大きな変革と可能性に満ちており、エンジニア集団として、非常におもしろい局面を迎えていると思っています」

――文化施設は隈さんも多く手がけてこられました。

「文化施設は僕らの柱の一つで、世界中で色々やらせていただいています。オペラ座をはじめ、都市の中ですごく重要な場所です。ある意味、都市の文化を発信する基幹となるのがオペラ座であり、オペラはそういう意味で、その都市の持っているすべての文化のコンデンサーみたいな役割を果たしていると思います。日本でもオペラのポジションが、これからどんどん高くなってくると面白いかなと。今回の《フィガロの結婚》では、ある種の社会テーマを反映したようなことができると面白いと思っています」

小島「当社社員にも、私たちが今後どのような存在価値を発揮していけるかを考えるヒントになればと思っています。そして、『次は別のオペラも観に行ってみよう』『モーツァルトを聴いてみよう』といった気持ちにつながっていけば、これ以上嬉しいことはありません」

――ありがとうございました。

聞き手&編集=池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®

特別対談のダイジェスト動画はこちら
(Bunkamura公式YouTubeチャンネルへリンクします)

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