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2025.10.17 UP
出演者座談会レポート公開!
宮田大と横溝耕一を発起人に、同世代のアーティストたちが中心となって開催されている室内楽フェスティバル「AGIO」。日本のクラシック界をリードする錚々たる面々が集結するとあって音楽的なレベルの高さはもちろんのこと、同世代ならではの和気藹々とした雰囲気も魅力です。
多忙を極めるアーティストたちですが、8月に松本で開催されている「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」でコアメンバーが顔を揃える機会があると聞き、松本までお話を伺いに行ってきました。
横溝耕一(ヴィオラ&ヴァイオリン)、宮田大(チェロ)、辻本玲(チェロ)、佐藤晴真(チェロ)、幣隆太朗(コントラバス)、そしてオンライン参加の辻彩奈(ヴァイオリン)による座談会をお届けします。
※辻本 玲・辻 彩奈の「辻」の正しい表記は”一点しんにょう”です。
◆対等にディスカッションし合える場
――横溝さんと宮田さんは、セイジ・オザワ 松本フェスティバルに毎年出演されているとのこと。ここでAGIOについて構想を練ることが多いのですか?
宮田:去年も松本で、(横溝)こうちゃんとふたりで呑みながらプログラムとかいろいろ決めてました。
横溝:そう、安い居酒屋でね。
――今回で3回目を迎えるAGIOですが、辻本さんは1回目から全回参加されています。AGIOという音楽祭の印象を聞かせていただけますか。
辻本:日本にもたくさんの音楽祭がありますが、先生と呼ばれるようなベテランのアーティストが中心となって、若手を引っ張ってくるといったケースが多いなかで、同世代が集まって室内楽をするAGIOのような音楽祭は珍しいのではないかと。
宮田:たしかに、僕たちも若いころは、先生から声をかけられて音楽祭に出ることが多かったですね。
横溝:室内楽というものには、ディスカッションが不可欠。もちろん、先生と一緒に演奏することで教えられるものもたくさんありますが、ざっくばらんに思っていることをお互いにぶつけ合えるという意味では、やはり同世代という関係性の方が、自分たちの目指す音楽を作りやすいのではないかと思います。
辻本:本当に遠慮なく「ここはこうじゃなくて、こうじゃない?」と言い合える場は、なかなかありません。
宮田:本番での裏切り行為(?)も生まれやすいですね。リハーサルとは違うことを、本番で「やっていいな」という気持ちになれる。AGIOはそういった化学反応を感じられる場です。
――1回目に続き2度目の参加となる辻さんはいかがですか?
辻:私と(佐藤)晴真くんは同い歳なんですけど、宮田さんや横溝さんたちは10歳くらい上なので、同世代っていうくくりは……。
横溝:やめていただきたいと。ごめんなさい!
辻:いえいえ(笑)。音楽祭というと、地方で開催されることが多いイメージですが、東京で数日間、みんなで集まって室内楽に取り組むことができる機会はとても貴重ですし、声をかけていただいてありがたいです。
――初参加となる幣さんと佐藤さんは、出演のオファーがあったときどう思いましたか?
幣:僕は室内楽が大好きなので、FacebookとかでAGIOの広告が流れてくるたびに「いいなあ」って思ってたんですよね。そうしたらある日、横溝くんが「今年のAGIOに出てくれない?」って連絡をくれて。「よっしゃー!」って電話口でガッツポーズするぐらい嬉しかったです。
佐藤:まだ3回目というのが驚きなぐらい、僕もいろいろなところでAGIOのことを見たり聞いたりしてきました。今回はじめて仲間に入れていただけて嬉しいですし、自分の出番がないコンサートも全部聴きに行きたいという思いです。
◆バックヤードでのおしゃべりも楽しみ
――AGIOの「ここが楽しみ!」というポイントを教えてください。
宮田:ステージ上で目配せして笑い合ったり、冗談を言い合ったり、アンサンブルのメンバー同士のなごやかな雰囲気が、自然と客席にも伝わっていると思います。終演後のサイン会でお客さまとお話しできたり、ファミリーコンサートではたくさんのお子さんに会えたりするのが嬉しいですね。お客さまも一緒になって盛り上がっていただける、参加型の音楽祭であるところがAGIOの魅力ではないでしょうか。
横溝:個人的には、浜離宮朝日ホールのバックヤードの空間がすごく好きで。ゆったりとしたオープンなスペースがあって、みんなでそこに集まっているんです。とくに男性陣は楽屋にいないで、ずっとわちゃわちゃやってる。一緒にお弁当を食べたり。その感じもいいなあって思います。
――どんなことをお話ししているんですか?
横溝:ここには書けないことばかりです(笑)。
宮田:同世代じゃなきゃできない話ですね。
◆4人の女性ヴァイオリニストが集う「弦楽八重奏」
――ここからは、それぞれの公演ごとにお話を伺っていきましょう。まずはオープニングを飾る「弦楽八重奏」。辻さん、荒井里桜さん、南紫音さん、松田理奈さんという4人の女性ヴァイオリニストが集う華やかなコンサートです。
横溝:メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲で4人のヴァイオリニストにご登場いただくわけですが、まだ誰がファーストを弾くか決まってないんですよね。
宮田:4楽章あるから、楽章ごとにファーストを弾く人が交代するのはどうかな?
辻:それは違うんじゃないですかね。(笑顔でバッサリ)
宮田:はい、すみません! そのほうが平和かなと思って……。
辻:誰がどのパートになっても平和なので大丈夫です(笑)。実際、ファースト以外のパートを弾くとすごく勉強になるんですよね。1回目のAGIOでは、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」のセカンドを弾いて、その後、別の演奏会でファーストを弾く機会がありましたが、セカンドを経験することで実感できたことがたくさんありました。セカンドが支えているからこそ、ファーストが気持ちよく弾けるんだなって。
横溝:すごく楽しそうにセカンド弾いてましたね。
――このコンサートでは、メンデルスゾーンのほかに、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(室内楽版)もプログラムされています。
横溝:今回は六重奏なので、オーケストラのコンサートとはまた違った聞こえ方を味わっていただけるのではないかと思います。通常はヴァイオリンとヴィオラのソリストがひとりずつ立ちますが、室内楽版ではふたりのヴァイオリニストのソロをどちらも聴けたり、なかなか面白い編曲になっています。
◆土曜の夜にリラックスして聴く「映画音楽」
――1日目の夜公演は、ピアニストの山中惇史さんを迎えての「映画音楽」です。
宮田:「AGIO」という言葉には「くつろぎ」という意味がありますから、土曜の夜にちょっとお洒落な雰囲気でリラックスしていただけたらなと思って企画しました。
横溝:僕も(宮田)大ちゃんも映画好きなんですけど、昔の映画を観ていると、作曲家の内面から生み出されたメロディが、名シーンとともにすごく心に残るじゃないですか。そういう意味では、もはや映画音楽というジャンルを超えて、クラシック音楽として残っていくものなのかもしれませんね。
宮田:モリコーネとジョン・ウィリアムズは、以前、僕と山中くんで演奏した版があります。今回はどのように音楽の旅ができるか楽しみです。山中くんの編曲は、原曲の題材を使った作曲とも言うべき素晴らしいものなので、ぜひご期待ください。
◆注目の気鋭による「ブラームスのピアノ五重奏」
――2日目は、昼公演に「ブラームスのピアノ五重奏」、夜公演に「シューベルトのピアノ五重奏」が予定されています。まずブラームスは、辻さん、荒井さん、横溝さん、宮田さん、そしてピアノの阪田知樹さんという編成。
辻:私はブラームスのピアノ五重奏、はじめて弾くんです。阪田くんとはブラームスのヴァイオリン・ソナタを3曲レコーディングしているのですが、今回はデュオとはまた違った世界を見せてくれるのではないかと。
――共演の機会の多い辻さんから見て、阪田さんはどんなピアニストですか?
辻:ピアノの曲だけなく、ヴァイオリンや室内楽に関する知識が本当に豊富なので、話しているだけで学ぶことが多いです。デュオで演奏しているときは、阪田くんが曲の骨格を作ってくれるので、それに自然に乗れる感じ。目の前だけでなく、長い目で見た流れをうまく作ってくれる音楽家だと思います。
辻本:顔だけ見ると無愛想な感じもしますが、じつはすごい社交的。N響に弾きにきたときとかも、「玲ちゃん」ってめっちゃ絡んでくるんですよ。
横溝:知り合いじゃない人にも、すごい話しかけてくるよね。
――五重奏以外に、村松崇継の「Earth」(宮田・阪田)、シューマンの「幻想小曲集」作品73(横溝・阪田)、ブラームスの「F.A.E.ソナタ」より第3楽章「スケルツォ」(辻・阪田)というデュオも聴くことができます。
宮田:AGIOでは毎回、日本の作曲家の作品を1曲は入れるというコンセプトを大切にしているので、今回は僕の大好きな村松崇継さん作曲の「Earth」にしました。いつも僕は演奏するときに、そのとき感じたことを物語のように追いながら弾いているのですが、とくに「Earth」は物語を感じる曲です。
横溝:シューマンの「幻想小曲集」は、もともとクラリネットとピアノのために書かれ、ヴァイオリンやチェロなどいろいろな楽器で演奏されています。とても美しい曲なのですが、ちょっとダークな部分というか、切なさみたいなものがあるので、ヴィオラで演奏するのが合うような気がして。その後に続くブラームスの「F.A.E.ソナタ」の哲学的な部分にも通じるものがあるのではないかと思います。
◆コントラバスに注目!「シューベルトのピアノ五重奏」
――シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」はコントラバスが入って、荒井さん、横溝さん、宮田さん、幣さん、阪田さんという編成です。
横溝:コントラバスが入った室内楽って、隠れた名曲はたくさんあるんですが、音楽祭のプログラムのメインにもってくるような曲はあまりなくて。やっぱり日本のお客さまが好きな「ます」にしようということになりました。AGIOでは、ファミリーコンサート以外でコントラバスが入る編成ははじめてになりますが、昨今はコントラバス奏者のレベルがどんどん上がっていることもあり、ぜひ入ってもらいたいと思って。いちばんに幣くんに声をかけました。
幣:ありがたいことに「ます」は本当にいろいろな方々と弾かせていただいて、もう30〜40回ぐらいになるかもしれませんが、何回弾いても飽きることがないんですよね。いつも同じように弾くのは好きじゃないので、このメンバーとなら新しい「ます」を作れるのではと期待しています。阪田くんは独自の世界観をもった、インスピレーションが湧き出てくるような音楽家なので、一緒に演奏するのが楽しみです。
――宮田さんと幣さんのデュオによる、ロッシーニのチェロとコントラバスのための二重奏曲についてはいかがでしょう。
幣:大作曲家がコントラバスのためのオリジナル曲を書くこと自体珍しいですし、コントラバス弾きにとって最重要のレパートリーであり、いちばんカッコよく映える曲。この曲を優秀なチェリストと弾くのが夢なんです。チェリストはコントラバス弾きに駆り出されて、みんなこの曲を弾いたことがあるはず。
佐藤:父が趣味でコントラバスをやっていて、昔から駆り出されていましたね(笑)。
――そのほかに、ハイドンのピアノ三重奏曲「ジプシー風」を、荒井さん、宮田さん、阪田さんのトリオで。
宮田:ヴァイオリンとピアノの掛け合いが話しているような感じで、魂の叫びを感じるところもあれば、急に変わってかわいらしくなったりもする。曲調がコロコロ変わる曲です。ロッシーニも「ます」も、ひとつの曲のなかでいろいろな面が見えるという意味では共通しているかもしれません。
◆「ファミリーコンサート」は「動物の謝肉祭」
――そして3日目の朝は、0歳から入場できる「ファミリーコンサート」。プログラムは前回と同じサン=サーンスの「動物の謝肉祭」ですが、メンバーがガラリと変わります。
横溝:クラリネットのコハーン(・イシュトヴァーン)は2度目なんですが、前回は「突然怒ってステージを降りる!」というサプライズがありまして。これはカッコウの鳴き声を2階席から演奏するための演出だったのですが、僕たちもびっくりして……お客さまも同じように驚かれたと思うので、そこが反省点ですね(笑)。ここは今回、コハーンとよく詰めておきたいと思います。
――幣さんは象ですね。
幣:象さんは楽しいです。子どもたちが演奏を聴いて、僕たちが想像もしないようなところからインスピレーションを受けて、音楽が好きになったり、将来のなにかにつながっていったらいいですよね。
辻:子どもの前で演奏すると、そんなところに興味をもつんだ! とか、そんな素直な反応をしてくれるんだ! とか、私たちも新鮮な気持ちになります。子どもたちに聴いてもらえるのを心待ちにしています。
◆フィナーレは圧巻の「魅惑のチェロ・アンサンブル」
――音楽祭を締めくくるフィナーレは「魅惑のチェロ・アンサンブル」。1回目のAGIOから、辻本さんと宮田さんを中心としたチェロ・アンサンブルは、いちばん最初にチケットが売り切れる人気公演です。
辻本:浜離宮朝日ホールでチェロ・アンサンブルをすると、すごく響きが気持ちよくて、弾きやすいんですよね。チェロに適したホールだと思います。
宮田:これまでAGIOのチェロ・アンサンブルは4人でしたが、今回から5人になったことで、より豊かで迫力ある響きを感じていただけるのではないかと。
――佐藤さんは今回が初参加になりますが、いかがですか?
佐藤:チェロ・アンサンブルはこれまであまりやってこなかったジャンルで、参加する機会をいただくようになったのは、ここ2年ぐらいなんです。チェロは音域が広い楽器ということもあり、低音域の重厚感から高音域の華やかさまで、同じ楽器で和声が作れて、バランスのとれたアンサンブルができるんだなと気づいて、より面白いと感じるようになりました。
――メンバーには期待の若手も入っていますね。
辻本:毎回違うチェリストと一緒に演奏できるのも楽しみです。今回は清水陽介くんという、2002年生まれの若いチェリストとはじめて共演します。
宮本:14歳で単身ハンガリーに留学して、去年スロバキアのブラチスラバ国際チェロ・コンクールで優勝した話題のチェリストですね。若手といえば、ポッパーの2つのチェロのための組曲という、プログラムのなかでいちばん大変な曲を、佐藤くんと水野優也くんのデュオでやってもらいます。歳上はお休み。
佐藤:がんばります……。
――宮田さんのソロで、サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番を演奏されますね。
宮田:いちおう自分がソロパートを弾きますが、オーケストラパートを弾く4人のチェリストの方が大変なのではと思います。とくにヴァイオリンのパート。
――それは誰が弾くのですか?
宮田:まだ決まってないけど、若い人にがんばってもらおうかな……。
――今日は皆さんお揃いのシャツを着ていることもあり、なんだか部活みたいですね。
辻本:まあ、チェリストは群れたがる性分といいますが、こうやってわいわいがやがや仲がいい雰囲気をお客さまにも感じていただいて、みんなが楽しいコンサートになればいいなと思います。
宮田:チェロという楽器の宣伝活動ですよね。
◆音楽人生を豊かにする室内楽の魅力
――では最後に、室内楽の魅力についてあらためてお伺いしたいと思います。AGIOは、近年日本でも活況を見せている室内楽シーンをリードする音楽祭として、回を重ねるごとに存在感をいっそう確かなものにしていますね。
横溝:最近は学生も含めて、室内楽に取り組む人が本当に増えてきました。15〜6年前、僕らが大学生だった頃よりも、その熱量ははるかに高まっています。昔と違って、今はソロ、室内楽、オーケストラというフィールドの垣根がなくなって、すべてオールマイティにできないといけない時代になっています。この人はソリスト、この人はオケマンという先入観を取っ払って、単純に良い音楽家を集めたら、AGIOという音楽祭ができました、ということなのだと思います。
辻本:室内楽に取り組むことによって、長い音楽人生を考えたときに、絶対に到達点が変わってくると思うんです。ずっとソロだけ、ずっとオーケストラだけやっているより、室内楽をちゃんと勉強して、その仕組みを理解することによって、音楽人生が豊かになるということは、若い人たちもわかっているのではないでしょうか。だからこうして室内楽が発展しているのかなって。
辻:室内楽は言葉を介さなくても、音楽で会話できるところに醍醐味があるといつも思っているので、そんな私たちのステージでのやり取りを見て、聴いて、お客さまにも一体感を感じていただけたら嬉しいです。
――ありがとうございました!
取材・文:原 典子
