NOTE制作ノート
2022.02.28 UP
Vol.1『FINDING MY OWN VOICE ―自分だけの声を探して』
"Speak with your Feet Kaz!!” (足で話すんだよ)
19歳でNYに行ったばかりの頃、ブロードウエイのショウ『ノイズ&ファンク』*のダンサー養成のトレーニングの際に何度も言われた言葉。
いつも踊る時には、この言葉を大切に踊っている。
当時教えてくれていたテッド・リーヴィーという先生は、とてもエモーショナルな方でタップの歴史やタップダンサーがどのように踊りを現代に伝えて来たかという話を
踊りながら僕らに伝えてくれて、時には辛い黒人たちの差別の歴史について話をし過去の亡くなったタップダンサーの話をすると涙を流していた。
テクニカルなことではなく、自分の身体の中にあるPassion(情熱)を伝えることが大切なんだと何度も言われ、そしてタップダンサーにとって一番大事なことは、サウンドでありリズムで自分の感情を伝えることなんだということを学んだ。
毎日毎日汗をかきながら何時間も同じステップを繰り返し練習し、自分の感情をおもてに表現できるまで何度も踊った。
そして、感情を出し切ると、『イエ〜〜ス、カズ!それだよ。』と言っておもいっきりハグをしてくれた。
自分がタップを始めるきっかけになったグレゴリー・ハインズも、彼がスタジオで練習していた時に偶然に通りかかったところ、
『カズ、靴持ってるか?』と声をかけてくれて2時間一緒にずっと踊ったことがある。
いろんな音楽をかけたり、音楽なしでも会話のようにセッションが続く。
踊っているうちに、グレゴリー・ハインズは僕にとっての憧れの存在ではあるけれども、僕は負けるわけにはいかないと勝手に思い込んで自分のエネルギーの全てを持ってぶつかっていくように必死で踊っていた。
今思えば、グレゴリーは彼なりの方法で僕にタップダンサーとはどうあるべきかということを、踊ることを通して、人種の壁を超えて教えてくれていたと思う。
ジャズやブルースと同様にタップダンスは元々はアフリカの生活の中に根付いていた踊りや音楽であったが、奴隷制により歌うことや踊ることを禁止されたことで、唯一自由だった足で音を鳴らすことからリズムを繋いで発達して来たと言われている。
黒人の彼らにとってタップダンスは常に生きていくために必要な手段であり喜びや感情の全てであり、生きるということそのものなのだ。
それでも、人種の分け隔てもなく、彼らは僕ら全てのタップダンサーに惜しみなく技術や知識を与えてくれた。多くの場合、一緒に踊ってセッションをするという方法を通して。
2003年、渡米して8年ほどが経った頃、NYで行われたタップフェスティバルでグレゴリー・ハインズ、セビアン・グローバー、ジミー・スライド、サラ・ペトロニオといった素晴らしい伝説のタップダンサーたちが出演するタップフェスティバルに出演した。
僕はそのプログラムで一番最初に踊ることになった。
僕は経験したことのないような大舞台を前にして、緊張を通り越してものすごい興奮を覚えていた。
特にまたグレゴリーにはそこで久しぶりに再会できること、しかも一緒の舞台に立てることを本当に楽しみにしていた。またとびきりの笑顔でハグしてくれるに違いないと。
その日の当日、ショウが始まる前のリハーサルでは、ほとんどのマスターたちはリハーサルをせずに踊る為、入念にリハをしているのは僕と数人の若手のダンサーたちだけであった。
本番直前になって、ようやくバックステージに入って来たマスターたちは、なにやら神妙な面持ちだった。抱き合って泣いている人もいる。
なかにはバックステージで泣いたまま、ステージに上がり踊っているダンサーもいた。
僕自身は、そのことを横目に自分のことでいっぱいいっぱいでとにかくやれるだけのことをやりきることだけを考えるしかなかった。
ショウが終わってもグレゴリー・ハインズは現れなかった。そしてその数ヶ月後にグレゴリーが天国へといってしまったことを知った。
その日の舞台での1日のことは、ずっと忘れることができない。今思えば、グレゴリーと近しいダンサー達はグレゴリーの病気のことを知り、そのことを胸に抱えて踊っていた。みんなお客さんの前で、それぞれの想いを胸に精一杯踊っていた。
それがタップダンサーとしてグレゴリーのためにできることの全てだったかのように、目には見えないいつも以上に大きなエネルギーを放っていたようにも感じられた。
グレゴリーは一緒にスタジオで踊った翌日に電話をくれた。早朝だった。
その時に自分が困っていた就労ビザの為の手紙を書いてくれるということで、すぐに手紙を用意してくれて、一つは直筆で僕へのメッセージも書いてくれた。
そこには彼なりのユーモアを交えた素敵な文章があり最後に『またすぐに近い将来一緒に踊ろう。Stay with it Kaz!』と書いてある。
「ずっとタップとともに歩むんだよ」という意味だ。
グレゴリーをはじめ、命をかけて踊りついで来た先人達の想いを身近で感じられたことは自分にとって何よりも変えがたい経験であり、Gift(贈り物)である。
みんなタップを心から愛し、タップダンサーを大事にしていた。
その繋がりこそが、僕が大好きなタップダンスだった。
僕はタップに出会えたこと、
そして尊敬するマスター達に出会えたこと、
タップダンサーであることを誇らしく思う。
胸いっぱいに感謝の気持ちを抱えて、今日もタップシューズを履いて踊ろう。
熊谷和徳
(*トニー賞を受賞した『ノイズ&ファンク』というショウのストーリーはアフリカからアメリカへと連れて行かれる奴隷船の中から始まり、黒人文化の歴史とタップの歴史を今に伝えるショウ。)