エトワール・ガラ2016

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2016.07.06 UP

バンジャマン・ペッシュ来日トークイベント レポート

 8月の「エトワール・ガラ」開幕に先駆け、2005年の初回から本公演のアーティスティック・オーガナイザーを務めるバンジャマン・ペッシュが来日。オーチャードホール内の特設会場にてファンを招いてのトークイベントが行われた。
この日の朝来日したばかりのペッシュは、日中いくつかの取材を精力的にこなしたのちのイベント出演となったが、そんな疲れは露ほども感じさせない持ち前の気さくな笑顔で登場、約1時間にわたるトークを繰り広げた。舞踊評論家の守山実花氏の司会進行(通訳は岡見さえ氏)のもと、話題は今年2月のパリ・オペラ座引退にあたってのアデュー公演に始まり、24年間在籍したオペラ座生活への思い、自身が身をもって体感してきたオペラ座の変化、そして「エトワール・ガラ」へと移っていく。ここでは、本公演に関するコメントのいくつかをご紹介!
 
● 「エトワール・ガラ」は2005年に始まり、今年5回目を迎えます。このプロジェクトがここまで継続してきた要因はなんだと思いますか?

 第1回の「エトワール・ガラ」の準備自体は2003年から始まりましたが、当時を思い起こすと、まさか13年後の今も続けることができているとは想像していませんでした。今日のような結果が得られているのはさまざまな要因が複合してのこと。一つには出演するダンサーたちや作品、振付家の選択といったものが評価を受けているのだと思います。また、主催のBunkamuraとフジテレビ、そして何よりとても強い興味を持っていてくださる熱心な観客の皆様の支援があってこそ。これらすべての要素がどれ一つ欠けても今のような状態にはなっていないでしょうし、私自身、このようなプロジェクトを続けていくエネルギーや勇気を持ち続けられなかったのではないかと思います。やはりこれほどのプロジェクトを成功させるには、多くの犠牲を払い、多くの努力を要しますし、12人の個性あるダンサーをまとめるのも大変なことですから。すべての要因が合わさることによって今日を迎えられているのです。


● 「エトワール・ガラ」の素晴らしい点はいくつもあると思いますが、その一つにプログラムの多様性が挙げられます。プログラムを作る上でペッシュさんはどんなことを心がけているのでしょう?

 プログラムを作り上げる時のコンセプトは非常にシンプルです。私の頭の中には常にたくさんのアイデアがあって、ダンサーたちにそれを持っていき、彼ら自身が何を踊りたいか、日本で見せたいものは何かといったことを聞き、相談しながら作っていくのですが、その時大事にしているのは、新しいもの、日本の皆様がまだご覧になったことのないもの、という点です。というのも、日本ではたくさんの公演がありますし、それらと似ているものをお見せすることを私たちは望んでいないので。作品選びには、ダンサーたちの意思に加え、もちろんアーティスティック・オーガナイザーとしてのヴィジョンも必要です。たとえば興味のある新しい振付家……今回はリアム・スカーレット(英国ロイヤル・バレエ専任振付家)の新作を上演しますが、そういった自分のアイデアがダンサーたちに受け入れられ、プログラムが決まっていくという流れです。


● エトワールたちだけでなく、若いダンサーを新たに紹介してくださるのもこの公演の大きな魅力です。
 今回はレオノーラ・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェの3名が初参加しますが、こうした若手を選ぶ時のポイントは? 

 この公演では毎回、未来のエトワールたちを紹介したいと考えています。それはとても大事なことです。私はこの「エトワール・ガラ」をダンサーたちの一つの通過点――さまざまな経験を積んで、成熟を重ねていく、そんな場にしたいと思っている。そしてオペラ座の未来を代表する彼らは、日本の皆様に新しい風を運んでくれると思うのです。
レオノーラ・ボラックとジェルマン・ルーヴェは、すでにパリでたくさん共演しているペアですが、これからこの二人によってさまざまな素晴らしいダンスが踊られていくだろうと期待していますし、日本の皆様にもぜひご覧いただきたいと思いました。
今回出演する若手3名の中では一番成熟してきている段階にあるのがユーゴ・マルシャン。彼は非常にフランス的なスタイルを持っています。エレガンス、純粋さ、気品といったものをその身に備えた、いわば希少な真珠のようなダンサーです。成熟期に差し掛かっている今、このガラに参加してもらうことで、彼自身もさらなる自信を得ることができるでしょうし、彼自身の芸術をさらに開花させるための契機にもなると思います。
 私にとって彼らは本当に、「オペラ座の未来を担っている」と言える存在たち。こうしたダンサーを紹介していくことも、アーティスティック・オーガナイザーとしての役割だと考えています。自分自身を振り返っても、21歳くらいからマニュエル・ルグリの座長公演に加えてもらい、多くの経験を積むことができました。ですから、今の私の立場としては、これから育っていく未来の才能を見つけること、彼らに機会を与えること、そして日本の観客の皆様にご覧いただくこと、それが重要な仕事だと思っています。

● 今の彼らにどのような作品を踊らせたらよいか、ということも非常に熟考されたのでは。

 その一つにBプロの『ロミオとジュリエット』があります。今回は3組のカップルが3つの場面の抜粋を踊るという形でお見せすることにしました。レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェという最も若い二人が踊るのは最初のパ・ド・ドゥ「マドリガル」です。その次の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」はドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャン。そして「寝室のパ・ド・ドゥ」はアマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオが踊ります。なぜこのような構成にしたかというと、それぞれ違う年齢、段階にいるダンサーを同じ作品を通してご覧いただくことによって、アーティストの成熟やキャリアというものを皆様にお見せすることができるに違いないと考えたからです。3種3様の踊りをぜひお楽しみください。


● 最後に出演ダンサーの紹介をお願いします。

 シルヴィア・アッツォーニは、2005年からこのガラでコラボレーションしていますが、彼女はイタリアのダンスの継承者であり、彼女がベストパートナーであるリアブコと踊るノイマイヤー作品は、素晴らしい無二のものです。
エレオノラ・アバニャートとも、このガラを最初から一緒にやっています。今、ローマ歌劇場バレエの芸術監督も務めていますが、彼女は非常に広い芸術的ビジョンを持った人。たくさん一緒に踊ってきましたが、こうした素晴らしい資質を持つ人と仕事ができるのは幸せだと感じています。
オードリック・ベザール、ローラ・エケ、アマンディーヌ・アルビッソンは前回に続く2度目の出演です。日本の皆様に彼らの進歩、芸術的な発展を、このガラの連続性の中でぜひご覧いただきたいと思い、再び招きました。
ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオに関しては、もはや私が語るまでもないでしょう。彼らは今、成熟の真っただ中にいて、舞踊という芸術のすべてを理解する頃ですし、技術的にも何でも出来、身体的にも恵まれ、まさに絶頂期にあると言えます。本当に「エトワール・ガラ」にふさわしい二人です。
そして、先ほどお話ししたオペラ座の未来を担う3人を皆様にご紹介できることも、とても楽しみにしています。


 イベントの最後に設けられたご来場者からの質問コーナーでも、一つ一つの質問に対し、真摯に誠実に、また時におちゃめな面ものぞかせつつ受け答えをしていたペッシュ。彼の芸術的な視点の持ち方や温かみのあるその人柄を実際に目の当たりにすると、ダンサーたち誰もが彼に厚い信頼を寄せ、コラボレーションを共にし続けている理由がわかる気がする。そしてもちろん、「日本にはもう30回は来日していると思う。そろそろ日本語を喋ってもいいくらいですよね(笑)」というペッシュが、いかに日本の観客を大切にしてくれているかが、言葉の端々から感じられたこともファンにとっては嬉しい限りだろう。
オペラ座を辞し、次なるステージへと歩み始めたペッシュの一つの集大成とも言うべきこの5度目の「エトワール・ガラ」は出演ダンサーも作品ラインナップもますます進化を遂げているよう。開幕が待ち遠しい!

 

(取材・文 石井三保子)