エトワール・ガラ2016

Reportエトワールのいまをパリからお届け!

2016.07.21 UP

"エトワールのいまをパリからお届け!" Vol.4 ~ジェルマン・ルーヴェ インタビュー~

 


2013年のオペラ座ツアー『天井桟敷の人々』のコール・ド・バレエで来日したのが、ジェルマンの日本初体験。
ファッションに興味を持つ若者らしく、表参道や原宿、そして秋葉原でのショッピングを楽しんだという。その次のツアーの時は、彼はガルニエ宮での公演『フォール・リヴァー伝説』に配役されていたので、居残り組だった。この時に初めてレオノール・ボラックと組み、ドゥミ・ソリストとしてパ・ド・ドゥを踊ったそうだ。そのレオノールと共に今夏、日本の舞台で踊ることになったことを彼はとても喜んでいる。ガラのメンバーの一人、ユーゴ・マルシャンと彼は学校時代からの大親友。二人で一緒にエトワール・ガラに初参加することにも心を弾ませる、とても素直な23歳の若者。
私生活では眼鏡をかけ、はにかみ屋の文学青年といった風貌の彼は、ダンスを披露する前に日本のバレエファンの心を掴んでしまうかもしれない。



― バカンスを調整してエトワール・ガラに参加

「バンジャマン・ペッシュが座長を務めるこのガラについては、とても良い評判を耳にしていました。オペラ座のダンサーが参加するガラの中でも知名度が高く、素晴らしいエトワールたちが参加するプレステージの高いガラですよね。ダンサーなら誰でも参加したい!って、夢を見るガラです。
だから、バンジャマンからレオノールと二人で、と、声がかかったとき、すぐに バカンスの予定を変更しましたよ。これに参加できることは、すごく光栄なことだと思っています。エルヴェ・モローの怪我ゆえにですが…スジェのダンサーには、よくあることなんですね、誰かの怪我によって、チャンスが訪れることは。
僕にとって何が素晴らしいかというと、ソリストとして踊る僕を日本の観客に初めて見てもらえることなんです。良い印象を残せるようにしたいです。エリザベット・プラテルが校長のオペラ座バレエ学校で学んだ、フランス派のダンサーである僕のクオリティをお見せしたいと思っています。」


― 日本で踊る3作品について

「バンジャマンは僕とレオノールの二人にとても相応しい演目を提案してくれました。
1つ目は『くるみ割り人形』の最後のパ・ド・ドゥ。技術的に盛りだくさんで踊るのはなかなか大変ですけど…。
それから『ロミオとジュリエット』。1つの作品の中の3つのパ・ド・ドゥを3組の異なるカップルが見せる、というアイディアは観客にとってとても興味深いものになるのでないでしょうか。僕とレオノールという若くてフレッシュな組み合わせから始まり、次がユーゴとドロテというキャリアの異なるミックスカップル、そして最後のパ・ド・ドゥを踊るのがマチューとアマンディーヌという優れたエトワール二人の組み合わせ、というのは。僕とレオノールが踊るのはロミオとジュリエットが初めて出会うパーティの場なので、二人ともドレスアップしています。2つ目のバルコニーのパ・ド・ドゥではそれに比べて軽い衣裳となり、3つ目の寝室のパ・ド・ドゥでは…というように衣裳が変化するのも、観客の目を楽しませることでしょう。
衣裳といえば、僕が踊る最初のパ・ド・ドゥではアイマスクを付け、赤いジャケットを着て、モンタギュー家の人間であることを隠していますね。それがジュリエットのふとした動きでジャケットが開いてしまう…この偶然を観客が理解できるように見せるって、結構難しいんですよ。このドラマの重要なポイントを、一瞬のうちに、しかも、ごく自然に見せる必要がありますからね。偶然ジュリエットの手がジャケットに引っかかって、前が開いてしまったという瞬間が、観客の目にクリアでなければなりません。だから、ちょっとしたこととはいえ、仕事は複雑なんです。
『くるみ割り人形』と『ロミオとジュリエット』。どちらもオペラ座で僕とレオノールが二人揃って初役で踊っている作品です。
Aプログラムの『グラン・パ・クラシック』は、ブエノスアイレスであったイザベル・ゲランのガラで、マリオン・バルボーと踊ったことがあります。今回はローラ・エケと踊るとバンジャマンから知らされた時、ちょっと感動しました。なぜって、彼女は僕が学校にいる時にすでにスジェで、今ではエトワール。こうしたダンサーと踊れる機会をもらえたことも、とても嬉しいですね。この作品はアカデミックなテクニックを見せるタイプの踊り。学校時代からやってきたことなのでそれは問題ないのだけど、身体的にとてもハードなんです。パ・ド・ドゥもヴァリエーションも結構な長さがあるので…。でもローラとは気も合うし、パートナーとして組みやすいダンサーですから、うまくゆくのは間違いありません。」


― オペラ座の舞台でのベスト体験

「これは、答えるのがとても簡単な質問ですね。もちろん『ロミオとジュリエット』!!この役を踊れたことは、本当に素晴らしいことでした。実はヌレエフのこのバージョンって、あまりよく知らなかったんですよ。学校時代に一度見たことがあっただけ。それも劇場の上の方の後ろの席だったので、あまり印象に残ってなくって…。
今回『ロミオとジュリエット』に配役されたのを知った時、せいぜい代役か、マキューシオかパリス…というように思っていたのだけど、蓋を開けたらロミオ役で、しかも二度も舞台がある!というので嬉しかったですね。レオノールも僕も初役なので、リハーサルの初期はかなり大変でした。とても大掛かりな長時間の作品ですからね。でも役を演じるというのは、意外と難しいことではありませんでした。というのも他の役を演じるダンサーたちに周囲を固められ、プロコフィエフの音楽があって…おかげでとても自然にロミオになれるんです。
それに僕もレオノールも役の年齢に近いという利点があったし、僕はもともと少しぼ~っと夢見がちな面や、ぶきっちょな面があって…若いゆえに自分が何をしたいのかがわかっていないという意味での不器用さですね。というわけで、ごく自然にロミオになれたので楽でした。もっとも最後の死の場面、ここは表現するのがやはり難しかったですね。クラシック・バレエの文化において、パ・ド・ドゥは愛情とか、リリカルなものが多いので。愛する人の死という恐ろしいことに直面した時って、内側でとても強いものを感じていても、外にはそれが見えないということがありますね。悲しみでうちのめされた状態。悲しみで気が狂いそうという…こうしたことを見せることは、とても難しい仕事でした。
でも、この作品を経験したことで、踊る役のパーソナリティを探るという仕事の面白さを知りました。」


― シーズン2015~16を振り返って

「シーズンの開幕昨品だったバンジャマン・ミルピエの創作に参加できたことは、素晴らしい思い出です。彼の作品って踊るのがとても快適なんですよ。音楽は美しく、衣裳もいいし、振付も身体的に気持ちよくって…。この『Clear, Loud, Bright, Forward』の創作には、コール・ド・バレエばかりが参加したことがオペラ座では珍しいことでしたね。年齢的にも30歳以下がほとんどで…。この時もレオノールと一緒でした。オペラ座で僕が一番よく組む相手が彼女なんです。身体的にもあうし、人間的にもダンサーとしても彼女のことは大好きですから、オペラ座が僕たちを組ませてくれることにすごく満足しています。
『ジゼル』では収穫祭のパ・ド・ドゥを踊りました。上手くいきましたが、これはテクニック面で僕の得意とするダンスではないんです。この振付は、勢いが良くって、どちらかというと小柄で力強いダンサー向け、僕と反対です。こうしたタイプの振付より、『白鳥の湖』のような踊りの方が僕には踊りやすいです。2014年の3度目のコンクールの時、『白鳥の湖』のスローなヴァリエーションを自由曲に選びました(注:結果、コリフェからスジェに昇格)。若いダンサーとしてはテクニック的にしっかりしているという面を見せるタイプのものがいいと思って…。この時に、自分にどういうタイプが似合うのかが見えたんですね、どちらかというと夢見がちなパーソナリティという…。それで今シーズンのコンクールでは、ロビンスの『アザー・ダンス』を自由曲に選んだのです。
2015年の年末公演は、2つの作品が上演されていたのですが、僕が踊ったのは『ラ・バヤデール』ではなく、ウェイン・マクレガーの『Alea Sands』でした。僕に珍しくコンテンポラリー作品で、良い経験ができました。今は、シーズン最後の作品となるフォーサイスの創作『Blake works』に参加しています。James Blake の音楽で踊る…快適な作品です!」


― 来シーズンと新芸術監督オーレリ・デュポン

「9月からの新シーズン、何を踊るのかはまだ知りません。例外は、年末の公演で、僕は『白鳥の湖』組であることはわかっています。つまりイリ・キリアンのトリプル・ビルではない、ということで…彼の作品が好きなので、これは少々残念ですね。
新芸術監督となるオーレリは、僕とレオノールが『くるみ割り人形』を初役で踊った時に、2ヶ月がかりでコーチしてくれたんですよ。彼女が作るプログラム(2017~2018)には、きっとクラシック作品が増えるだろうと予測しています。 それもオペラ座らしい古典の大作が。そしてペックやウィールドンなどアメリカの振付家の作品が減って、イリ・キリアンなどヨーロッパの振付家の作品が増えるのではないかとも思っています。」
 

― オペラ座外での活動

「今年1月、アニエスbのメンズショーにモデルとして出演しました。アニエスってアーティストに興味があるデザイナーだからでしょうか、ダンサーの僕を気に入ってくれたようで6月末のショーにも僕を希望してくれたのだけれど、あいにくとすでに他の予定を入れていたので…。
パリのCityというモデルエージェンシーのメンズ部門に属しています。写真が残るし、若い時にモデル活動をするのも悪くないだろうと思って…。でも、オペラ座の仕事を優先するので、モデル活動はほとんどできないというのが実情なんですけど。
イタリアン・ヴォーグ誌のファッション撮影は楽しかったですね。写真の主役はモデルのイザベル・フォンタナだったけど、ダンサーとして彼女にどう身体を動かすのがいいのかとか教えたりして、良い経験でした。
アール・デコ美術館で開催されている『fashion forward』展で流されているビデオの撮影にも、参加したんですよ。これは振付家のクリストファー・ウィールドンがADを務めたモード展で、レオノール、オニール・八菜、ユーゴ、マルク・モローと一緒でした。あいにくと僕たちが写ってる部分はほとんど使われてなくって…でも、プロジェクトそのものが楽しいもので、こうしたことがたまにあるのは息抜きになっていいですね。
でも、まずはダンスが第一。それに僕は身長が184cmしかないし、特にモデル体型ではないので…ジェルマン・ルーヴェという人間として、一人のダンサーとして希望される撮影ならともかく、アクセサリー的にダンサーの身体を必要としているといった女性モードのファッション写真撮影などに、アノニマスな形で参加することには興味がありません。」
<※ジェルマンのinstagramではモデル撮影の様子なども紹介されています!ぜひご覧になってみてください! https://www.instagram.com/germainlouvet/?hl=ja (外部サイトにリンクします)>


― 一番の趣味は映画鑑賞

「昨日はポール・バーホーベンが監督でイザベル・ユペールが主演した『Elle(エル)』を見ました。スリラーとカテゴライズされている映画なのだけど、ちょっと外しがあるスリラーといえるでしょうか。ユペールの演技が見ものです。映画の最初には、ちょっと彼女、下手だなあと思わせる演技をするのですよ。
他に最近見た映画というと、ナビル・アユチ監督の『Much Loved』。いろいろなタイプの映画を見ます。映画館のパスも持ってるくらい、よく行きます。俳優の演技を見るのは、パレエにも役立ちますね。例えばゼフィレッリ監督の映画『ロミオとジュリエット』。もちろんレオナルド・ディカプリオ主演の映画も見たけれど、ゼフィレッリのはヌレエフがバレエを創る際にとても影響されたという映画なんです。俳優の演技に注意を払いながら見ました。無名だけど16~17歳くらいの若い俳優が演じていて、この映画の人物像の提案を僕のロミオ作りに多いに役立たせました。」


ガルニエ、バスティーユに次ぐオペラ座の3つ目の舞台として生まれたトロワジエム・セーヌ。場所はオペラ座のサイトの中、というバーチャル・ステージだ。様々な演目の中が並ぶ中、一際優雅な映像を楽しめるのはJacob Sutton が監督し、ジェルマンとオニール・八菜がガルニエ宮のグランフォワイエや屋根を舞台に踊る 『ascension』である。<https://www.operadeparis.fr/3e-scene/ascension (外部サイトにリンクします)>ジェルマンのダンスとフレッシュな美貌に触れる良いチャンスなので、一度クリックしてみることをお勧めする。
彼とオニール・八菜というのも良い組み合わせで、バンジャマン・ペッシュによるレッスンDVD「パリ・オペラ座エトワールが教えるヴァリエーション・レッスン」(新書館/8月上旬発売)にも二人がデモンストレーション・ダンサーとして選ばれている。特別映像は、舞台衣装をつけた二人が踊る『眠れる森の美女』の第三幕のパ・ド・ドゥ!!発売を楽しみに待とう。

(取材・文 濱田琴子)