エトワール・ガラ2016

Reportエトワールのいまをパリからお届け!

2016.06.29 UP

"エトワールのいまをパリからお届け!" Vol.3 ~レオノール・ボラック インタビュー~

 

今春、オペラ座で『ロミオとジュリエット』のジュリエットを初役で踊ったレオノール・ボラック。この時に大好評を博した彼女が踊るジゼルをぜひ見てみたい、と期待したオペラ座ファンは多かったのだが…。
彼女は7月に始まるフォーサイスのトリプル・ビルで踊られる新作『Blake Works1』のクリエーションに参加していたので、『ジゼル』との両立はスケジュール的に不可能だった。
スジェに上がるコンクールで自由曲に選んだフォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』をエネルギッシュに踊り、巧みなテクニックとモダニティを証明したレオノール。振付家が共に仕事をしたくなるのももっともなダンサーなのである。
古典大作も現代作品もオペラ座が任せられる、若いながらも大きな可能性を秘めたプルミエール・ダンスーズ 。日本でパ・ド・ドゥを披露する『ロミオとジュリエット』については、語り尽くせないほどの思い出があるようだ。



― エトワール・ガラに参加が決まって

「バンジャマン(・ペッシュ)からエトワール・ガラへの参加が提案された時、実は少々困ったことがあったの。というのも、この時期、バリで3週間のバカンスを予定し、その滞在中の1週間はボランティア活動で現地の子供たちに英語を教えることにしていたので。シーズン中はダンスのためにすべての焦点を自分に置いて生活しているでしょ。休暇中は自分以外のための何かをしたいと思っていて、もともと人道的活動に興味を持っていたので、初めての経験としてこれにはちょっと興奮していたんです。
でも、かの名高いエトワール・ガラに参加 というのは、絶対に逃せないチャンス!!大きな喜び!!だから、バカンスもボランティア活動も、来年に延期することにしました。それに私の今の年齢(26歳)というのは、可能な限りダンスの経験を積むべき時期でもあるのだから。
ガラのメンバーは知り合いばかりです。例えばローラ、オードリック、マチューと共に、私もマクレガーの『アレア・サンズ』の創作メンバーでした。それにハンブルク・バレエ団の二人(シルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコ)とは、ずっと前にイタリアのシラクーザであった「アレッシオ・カルボネ ガラ」の時に一緒だったのよ。」


― ジェルマン・ルーヴェと踊った念願のジュリエット役

「エトワール・ガラで踊る演目の1つは、『ロミオとジュリエット』の舞踏会での出会いのパ・ド・ドゥ(マドリガル)です。パートナーはジェルマン・ルーヴェ。私のヴァリエーションからこれは始まります。ジュリエットは踊りたいと夢見ていた役の1つ。今春、その夢を叶えることができたのよ。夢見ていることが実現すると、時に失望することがあるものだけど、これはその逆で、想像していた以上に強い経験ができました。
プロコフィエフの音楽がとにかく素晴らしくって、心を掴まれてしまう…音楽がすでに物語を語っているので、身振りなどに気をとられる必要なく、音楽に導かれて踊るだけでよかったんです。私もジェルマンも二人とも初役だったけれど、とても良い反響を得られて…。
実は予定より、10日近く早く初舞台が来てしまったの。ゲネプロに予定されていたダンサーが怪我をし、急遽私たちが踊ることになったので。あまり考え込んだりする間もなく、舞台に出ていった…という感じ。
幸いなことに、舞台で踊る準備ができていると感じられるようになった時期だったので、上手くゆきました。今シーズン踊った作品中、もちろん『ロミオとジュリエット』が私の一番のお気に入りです。本当に素晴らしい時間が過ごせました。
予定ではジェルマンと2回公演があるだけだったのに、最終的にはゲネプロも含めて7回踊ることになって…おかげで人物をとことん探ることも出来ました。」
                       

― 一人のジュリエットに二人のロミオ

「7公演のうち、3回はマチアス・エイマンがロミオでした。彼のパートナーが降板したので、突然私が彼と踊ることになったからです。30分間彼と稽古して、さあ舞台へ!と、こんな感じだったので無事に終わったとはいえ、初回はとっても大変でしたね。
なぜってパ・ド・ドゥはたくさんあるし、二人のストーリーを語るというのに、舞台にでる前に何も一緒に築いたものがないという関係で…。それに私はジェルマンとの舞台を終えて10日も経っていた時だったので、まさに試練でしたね。だけど二人が初めて会って…、というストーリーを地でいった舞台だから、とても自発的で自然にできたとも言えます。
とても難しい初回だったとはいえ、評判はよかったですね。マチアスと二人して手探りで物語を築くことができたといえます。未知の二人が知り合って、若さゆえの躊躇いがあり、互いの探り合いがあり…、とてもリアルな方法で舞台を進めることができたんですね。マチアスという素晴らしいアーティストと踊れたのは、とてもうれしいことでした。
ジェルマンのロミオとマチアスのロミオでは差し出してくるものが違うので、私も異なる対応をすることになって…。私が見せたいジュリエット像の基本は変わらないけれど、マチアスとの舞台はジュリエットの別の面を探れるチャンスともなりました。『ロミオとジュリエット』、これは私のこれまでのバレエ人生の中で、最高の作品です。」
 

― レオノールによるジュリエット像

「私とジェルマンをコーチしてくれたのは、クロチルド・ヴァイエでした。彼女は素晴らしいコーチで、リハーサルはとても順調に進みました。実は始まる前、ちょっと心配だったんです。
ジュリエットは私が長いこと夢見ていた役なので私の頭の中にはすでに役柄についての考えがあったので、もし、クロチルドからジュリエットはこうしなければ!と押し付けられることがあったらどうしようって。でも、そんなことは全然なく、私のいうことに彼女は耳を貸してくれて…。ヌレエフの意思に従って私を導きつつ、時に私に自由を与えてくれたんです。彼女が描くジュリエットと私のジュリエットは似たようなヴィジョンでした。
ジュリエットってまだ14歳のまったくの子供。ロマンチックな夢みる少女とかではなく、ちょっと少年のようなのね。まだまだ男性のことなんて考えていないから、例えばパリスとの結婚にしても、彼がどんなに美男子でも、それが何なの!って感じで、まだ遊んでいるほうが楽しいの。そんな時にロミオと出会って、愛することを知って…それからは、あらゆる決断をして、事を運んで行くのは彼女なのね。
ロミオはどちらかというと、ぼーっと夢見がちな男の子で、彼女がどんどん引っ張っていって、イタリアの当時のルネッサンス期の家族や宗教に対して逆らうことになるのね。若さもあるけど、強さもあるというコントラストのある女性。
『ロミオとジュリエット』のバレエ作品は、ロマンティックにまとめられてることが多いけど、ヌレエフ版は当時の暴力的な面も反映していれば、性への目覚め、原作の持つ下品さも、すべてバレエに盛り込まれているでしょう。力強いシェイクスピア作品へのリスペクトがあります。
私もジェルマンも二人とも初役。だから、正式に稽古が始まる前から私たちスタジオで稽古を始めて、時間のロスのないようにしました。この作品のパ・ド・ドゥはよくある男性が後ろから女性をくるくる回すというようなタイプではなく、互いの均整で成り立っていて、互いに体を任せ合うことが多いんですよ。二人揃って初役ということで、ストレスはあったにしても、こうして一緒にこの愛を誕生させるという真の体験をすることができました。」


― 『Blake Works1』で、フォーサイスの創作に初参加

「今シーズン(2015~16)を振り返ると…最初の作品はバンジャマン・ミルピエの創作で、これに参加できたのはとても良い経験でした。ユーゴ(・マルシャン)とのパ・ド・ドゥは、とても美しくって…。これは踊るのがとても快適な作品だったわ。
その後、マクレガーの創作『アレア・サンズ』に参加し、その時は同時にクリストファー・ウィールドンの『ポリフォニア』にも配役されていました。ミルピエとは、もう1つの創作『La Nuit s'achève』も。今シーズンは大勢のコレオグラファーとの仕事を経験していますね。ロビンスの『ゴルトベルク変奏曲』も踊りました。新しい作品も多数経験できたといえますね。
今は、7月5日から公演の始まるフォーサイスの新作のクリエーションの真っ最中です。以前、『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』をオペラ座で踊ったとき、第4配役だった私は、フォーサイス本人と触れ合う時間がなかったんだけど、それが今、スタジオで毎日彼と一緒に仕事をしているんですよ!作品が生まれるのに立ち会って…。彼って、私たちダンサーの提案から多くインスパイアされる人。だから、この『Blake Works1』は私たちの作品という言い方もできて…これはすごいことだわ。
クリエーションに参加しているのは、昨年末のガルニエでの公演「クリストファー・ウィールドン/ウェイン・マクレガー/ピナ・バウシュ」を観て彼が選んだダンサーです。そしてスケジュール的に合うダンサーも。最初のリハーサルでは大勢いたダンサーも、徐々に減っていっています。この創作参加に私は随分と前から選ばれていたし、フォーサイスの「トリプル・ビル」では、『Of any if and』にも配役されているので、残念だけど『ジゼル』の公演からは外れたわけなんです。ジゼルはジュリエットの次に私の夢の役なので、次回踊れることを期待しています。
創作に参加するというのは、自分に振りつけられる作品を踊れる、つまり、私の身体言語に合った作品を踊れるということで、素晴らしいチャンスといえます。」


― 昨年のコンクールの結果、プルミエール・ダンスーズへの昇格が決定

「このコンクールでは、自由曲にジェローム・ロビンズの『アザー・ダンス』を選びました。課題曲もロビンズでしたが、これは偶然なんです。というのも課題曲がわかるのはコンクールの3週間位前。だから課題曲を知ったときには、もう自由曲の準備を始めていたんです。振付家は同じでも、作品が異なるので…。
なぜ自由曲にロビンズを選んだかというと、私はネオ・クラシックの身体言語がとても好きなの。それにコンクールの環境は少々特殊でしょ、背景もないし…。ストーリーのある作品を舞台装置のないところで踊るって、難しいと思うの。例えば『パキータ』のヴァリエーションは素晴らしいけれど、背景もなく、さらにピアノ演奏でとなると、どんなものかしら…。
それに対してロビンズの作品にあるのは、もともと衣装と舞台上のピアノということが多いので、 コンクールの状況でも作品の美しさが失われることがないと思うんです。音楽はきれいで、ゆらめくような動き…私がダンスで好きな滑らかさに溢れているんです。彼の作品はテクニックも必要とされるけれど、テクニックだけを見せる作品ではないの。いずれにしてもコンクールって快適な時間を過ごせる機会だとはいえないけれど…。でも、それももう終わり!
もうコンクールをしなくてもいいというのは、グッドニュースだわ。昇級については、それを自覚するまでけっこう時間がかかって、つい最近やっと意識できた、という感じなんです。昇級を知った時にまず第一に思ったのは、もう二度とコンクールをしなくていいんだ!ということなんです。これは恐怖そのものだったので…。
エトワール任命というのは、芸術監督が変わるという今においてはプライオリティではないと思います。それに空きがあるのか、という問題もありますね。いずれにしても、舞台に立つ時は良いものを観客に見せたい、という思いが優先するので、任命云々などを考えながらでは仕事になりません。最後のご褒美を期待して踊るのでは、バレエの心を失ってしまうと思います。それにストレスにもなりますね。私はストレスを感じると、踊れなくなってしまうので…。
幸いにも最近舞台ではストレス管理できるようになっています。私生活では今だにストレスによって、不安定になってしまうけど…」


― 新芸術監督オーレリ・デュポンとの関係

「私、彼女の就任を知って何がうれしかったかというと、芸術監督という権威のあるポストに女性がついたことなんです。経験がないとはいえ、彼女はディレクションという仕事に必要なことをすぐに理解し、素晴らしい実力を発揮するだろうと信じています。何年か前に、コンクールの自由曲の指導をお願いしたのが、彼女との初めてのコンタクトでした。
一昨年末に私はジェルマンと『くるみ割り人形』に初役で配役され、この時の私たちのコーチがオーレリ。彼女も、とても素晴らしいコーチです。私たちを安心させ、心を鎮めてくれました。技術面、芸術面だけでなく、メンタルのコーチングというのも私たちには必要なんですね。とりわけ、こうした大役を初めて踊るときには、大きなストレスを抱えてしまうのだから、誰かが自信を与えてくれて、緊張から解き放たれて舞台に出て行けるようにしてくれないと…。これってすごく大切なこと。
『くるみ割り人形』のときも私たちの初日が予定より早まったのだけど、オーレリのおかげで、二人とも心穏やかに舞台を務めることができました。エトワール・ガラでは再びジェルマンとこの作品の最後のパ・ド・ドゥを踊ります。私たち二人にとって、これは初めて踊ったエトワールの役だったので、この感動に満ちた経験を再び日本で!と考えただけで気持ちが高ぶります。
パ・ド・ドゥはとてもハードなのだけど、また踊れる機会が得られたのは本当にうれしいです。」


― 来季2016~17に踊ってみたい作品

「最近プログラムに加えられた年末のイリ・キリアンの「トリプル・ビル」というのには、とても気持ちを惹かれます。彼の『かぐや姫』のときはコール・ド・バレエだったので、ぜひとも一度彼と仕事がしてみたいと思っているので。彼は現存のコレオグラファーの中で、私にとってベスト!もっとも、年末、私は『白鳥の湖』の方に決まっていて…
これはまだ何を踊るかわからないけれど、少なくともパ・ド・トロワを踊るでしょうね。シーズン開幕にクリスタル・パイトの創作があって、彼女との仕事も興味があるのだけれど、私はこの時の公演ではフォーサイスの作品を踊ることになっているので…。
来季のプログラムにはあまり興奮する作品がないというのが正直なところだけれど、その中でも、ぜひ踊ってみたいと思っているのは『ラ・シルフィード』です。ピエール・ラコットとは『パキータ』で一緒に仕事をしたときに、とても良い関係を築けました。これは来春のオペラ座の来日ツアーのプログラムでもありますね。
来日公演のプログラムにある『テーマとヴァリエーション』も踊ってみたいです。パ・ド・ドゥの音楽がとにかく素晴らしいので、ぜひ!と願っています。オペラ座で上演されたときは踊っていません。通常オペラ座ですでに踊ったダンサーがツアーで踊るのだけれど、私、誰かの代役でもいいのでリハーサルができたらうれしいわ。
パリでの『ラ・シルフィード』はシーズンの最後で、ケースマイケルの『Drumming Live』と同時なんですが、この両方の仕事ができたらいいですね。これまで私はケースマイケルの作品にはほとんど配役されています。去秋踊った『浄夜』は舞台装置も、シェーンベルクの情感あふれる音楽も素晴らしいものでした。この作品のように素足で髪をほどいて舞台上で踊るって…自由が感じられるので、とても好きなんです。より自分らしい!って感じられるから。」


― 自由時間があったら…

「まず第一にするのは、オペラ座に無関係な友達に会うことです。オペラ座という小さな世界に閉じ込められていたくないので。ここではいつも同じ人たちと一緒で、一種のミクロコスモス。たとえ良い友達がいようとも、時には別の顔をみて、ダンスではなく他のことを話せる機会が私には必要なんです。その間、ダンサーではない自分になれるのもいいですね。
お芝居を見にゆくのも好き。とりわけコメディー・フランセーズです。ちょうど『ロミオとジュリエット』が私のリハーサルと同じ時期にあったので、この時は娯楽的に楽しむというより職業的視線で舞台を見てしまいました。映画も見るし、読書もします。目下、ロマン・ガリの『La Promesse de l'aube』を読んでるところ。こうしたことで自分のアーティスト面を養っています。
仕事の後は自宅で猫のマリー・アントワネットと遊ぶんですよ。猫にしては馬鹿げてるくらい厳かでスノッブな名前だけど、かえってそれが面白いのでこう名付けました。ラグドール種なので、彼女が優雅にソファに寝そべる姿など、この名前、なかなか似合っていると思うんですよ!」


 レオノールが最後に来日したのは、コリフェ時代の来日公演の『椿姫』である。彼女がジョン・ノイマイヤーの目にとまって『椿姫』のオランピア役に抜擢された時は、まだカドリーユだった。が、この役が引き金となったのだろう、彼女はその後プルミエールまで順調に昇級することに。
今回は久々の来日、それもフランスでも名高いエトワール・ガラということで、興奮している彼女。マチュー・ガニオとの『カラヴァッジョ』の稽古も始まっている。日本は京都に日帰りで行った以外は東京しか知らないので、今回は名古屋、大阪で踊れることも来日の楽しみのひとつだそう。


(取材・文 濱田琴子)