エトワール・ガラ2016

Reportエトワールのいまをパリからお届け!

2016.06.14 UP

"エトワールのいまをパリからお届け!" Vol.2 ~ユーゴ・マルシャン インタビュー~

 日々新しいことを吸収し続けている22歳の若きソリスト 、ユーゴ・マルシャンの成長ぶりが逞しい。
今年1月にプルミエ・ダンスールに昇格し、ソリストとしての活躍が次々と続く彼。『ロミオとジュリエット』のロミオ役、海外でのガラ出演、そして目下はオペラ座でフォーサイスの創作ダンサーとしてクリエーションに参加中だ。
ちょっと前まではエネルギーいっぱいの若者という印象が強かった彼だが、最近はそれに加えて存在感が増した感がある。
エトワール・ガラでの来日を前に、近況を語ってもらおう。

 
― オペラ座でのシーズン最後の公演は、7月4日から始まる3作品で構成された『ウィリアム・フォーサイス』

「この中で、僕は創作『Blake Works』を踊ることになっています。このタイトルは、James Blakeの曲を使っていることからついたものです。フォーサイスの作品は2年前に『パ・パーツ』に配役されたけれど、彼との創作に参加するのは今回が初めて。数名のソリストがいて、パ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワ、パ・ド・カトルなどがあって…。今創作の真っ最中で、実験的に色々試している段階なんです。フランソワ(・アリュ/プルミエ・ダンスール)と一緒に、ソロをやっているところで、またレオノール・ボラックとのパ・ド・ドゥも少しあるのだけれど、この先もまだまだまだ変更の可能性があるので最終的にどうなるのかわかりません。決定されていることは、何もないので…。もちろん作品はフォーサイスのスタイルで、彼ならではの特殊な動きが延々と続きます。とはいえ彼の仕事は常にリニューアルされているので、過去のどれかに似ている、といえる作品ではないですよ。こうして創作に参加できるのって、最高ですね。そして先週、『アプロキシメイト・ソナタ』も怪我で降板したダンサーに代わって、ぼくが踊ることが決まりました。2つめのパ・ド・ドゥで、今のところはオーレリア(・ベレ)がパートナーだけど、これもどうなるか。ソロも少しありますよ。公演の直前に突然配役されることを多く経験してきているので、1か月前に演目が追加されることはまったく問題ありません。この作品のリハーサルはすでに始まっていたので、他のダンサーたちとの遅れを取り戻すべく、今振付を覚えているところなんですよ。」

― ドロテ・ジルベールを相手に、4月は『ロミオとジュリエット』で初役に挑戦

「4回の公演があって、これは本当に素晴らしい経験でした。肉体的にとてもハードな作品なので、4回踊れればもう十分です。とにかくハード!! 毎回全力投球だったので、終わるたびに空っぽの状態でした。身体的に、精神的に、そして感情面でも、とことん疲労の極限までゆきました。公演後、回復には毎回2~3日必要だったんですよ。舞台上で強烈なものを体験した後なので、そのあと一種落ち込みというか、そう言った感じの状態になってしまって…。だから次の公演前までにカンターをゼロに戻す、といった作業が必要でした。そうでないと、まっさらな状態で次の公演に臨むことができないし、前の舞台同様の強いものを演じることができなくなってしまいますからね。幸いなことに、4公演は回復の時間が取れるように上手く間隔が空いていました。」


― 徐々に増えていく国際的な活躍の場

「5月はニューヨークでYAGPのガラに参加し、その後はモスクワでブノワ賞の候補者としてガラ公演で踊りました。ニューヨークで踊れたことは、とても嬉しかったですね。たくさんの人と出会いに恵まれ、それに反響もよくって、素晴らしい時間が過ごせました。モスクワではボリショイ劇場の舞台に立てたのですからね!このおかげでインターナショナルなダンス・シーンというものに開眼しました。他のカンパニーのダンサーの踊りをみて、他のカンパニーがどのように機能するのかを知って。今後、こうしたガラにどんどん参加したい、他のカンパニーで踊ってみたい、オペラ座以外の世界を知りたい、という気にさせられて、とてもエキサイティングな経験となりました。バレエの世界はパリ・オペラ座だけじゃないんだ、ということは以前から頭の中ではわかっていたけれど、それを身をもって感じたんです。国際的舞台で自分の場が持てるようになるというのは、ありがたいことです。自惚れとかそういうことではなく、それによってもたらされることがとにかく大きいことなので。NYでも、モスクワでもオニール八菜とともに『エスメラルダ』のパ・ド・ドゥを踊っています。これはオペラ座では踊ったことがないけれど、八菜とはこれまでにあちこちのガラで一緒に踊ったことがあります。これは舞台上でとても大きな喜びを得ることができるので、二人とも大好きなんですよ。何度も踊っているので振付が体に染みついているので、今では、どこで緊張を解けるのかとかそうしたことも分かってきていて…。これまでは二人でビデオを見ながらという稽古だったけど、今回ニューヨークで踊るにあたっては、フローランス・クレールにしっかりとコーチしてもらってから出発しました。」

― 9月に開幕する来シーズンの予定

「何を踊ることになるのか、僕はプルミエ・ダンスールなのでまだ何も予定はもらっていません。それに芸術監督もオーレリ・デュポンに変わるので、配役の政策のようなものだってこれまでとは異なることになるのだろうし…。謎だらけです。今、クラシック作品をたくさん踊りたい時期なんだけれど、来シーズンのプログラムにはあまりクラシック作品がないですね。 年末には『白鳥の湖』がオペラ・バスティーユであって、同時にガルニエではコンテンポラリーの公演があります。僕たちダンサーは基本的には演目を選べないので、どちらに配役されるのか…。全くの仮定としてで言うのだけれど、もし自分で選べるのなら 絶対に『白鳥の湖』!プリンス役!なぜって、ヌレエフの3幕バレエを踊れる肉体的なパワーを備えている年齢だし、それによって進歩するべき年齢でもありますからね。この2~3年はコンテンポラリーよりクラシックに重点を置いていきたいのです。例えばコンテンポラリーで、もしも年末にキリアンの作品を踊る、というようなことになったら、果たして自分にできるだろうか、という疑問もあります。彼の作品は素晴らしいけど、まだ一度も接したことがないので…。それにコンテンポラリー作品は、キャリアのもう少し後になってからでも発見することができるし、それに芸術的な面での成熟があった方がいいと思うので、もう少し先になってからと思っています。」


― 今後踊りたいクラシック作品

「ぜひとも踊りたいと願っているのは『オネーギン』です。レンスキー役だって配役されたら嬉しいとは思うけど、踊ってみたいのはやはりオネーギン役ですね。最初はとてもスノッブで全てに無関心という人物が、人間的に大きく変化するというのが面白い。こうした ストーリーのあるバレエが好き。だから、『椿姫』も踊りたいんです。どちらの作品も音楽は素晴らしいですし、もし踊れる機会があったら嬉しいですよ。オーレリだって『椿姫』を踊るのが好きだったのだから、彼女によるプログラムがスタートしたら(注:2017-18シーズンより)、ひょっとしてレパートリーに戻ってくるのではないか、って期待してるんです。クラシックといっても、『ジゼル』はとても綺麗なバレエには違いないけれど、踊ってみたいと夢見る作品ではありません。少し古臭く感じるし、非現実的で。僕はロミオ役のようにしっかりとしたパーソナリティがある作品を踊るのが好きです。」

― 仕事をしてみたい現存コレグラファー

「オペラ座に誰か振付家が来ることがあるなら、好奇心あふれる僕としては、オーディションに参加したいですね。来シーズン、クリスタル・パイトの創作がプログラムされています。彼女の作品は信じがたい美しさに溢れていて、素晴らしい。でも、とてもハードなようだし、全く知らないスタイルなので果たして僕にできるのかどうか、と、自分のキャパシティに思いを巡らせてしまいます。不安もあります。そういう点でも刺激的だと言えますね。フォーサイスとの仕事は、今後もあるといいと願っています。また、今回のエトワール・ガラでお見せする『感覚の解剖学』を創作したマクレガーとも…。ミルピエの作品はオペラ座で『Clear, Loud, Bright, Forward』と『La Nuit s'achève』を踊っているのですが、彼と一緒に仕事をするのは好きなので、機会があるのであればぜひ!」

 オペラ座・バレエ学校時代に『スカラムーシュ』『ヨンダリング』『ペッシュ・ドゥ・ジュネス』の公演で来日したが、第3ディヴィジョンだった彼は代役だったのでずっと舞台裏にいたそうだ。2013年のオペラ座のツアー『天井桟敷の人々』では、まだコール・ド・バレエだった。
今夏、ソリストとしての初来日となるエトワール・ガラで全力投球する彼のダンスを堪能できるのは、日本のダンスファンの特権と言っていいだろう。
目下フォーサイスの創作に参加する傍、エトワール・ガラで踊る演目の稽古も徐々に進めているというユーゴ。彼の舞台に期待しよう。


(取材・文 濱田琴子)