授業レポート

4限目:東急シアターオーブ

ココロを揺さぶる球体オーブ
~あなたのミュージカルぎらい、なおします! ~

7/13(日) 14:30~16:30

『ようこそ、Bunkamuraへ!×シブヤ大学』のコラボレーション企画、『オープン!ヴィレッジ』の授業レポートです。『オープン!ヴィレッジ』はBunkamuraがプロデュースしている6つの施設を軸に、様々なジャンルの文化・芸術の楽しさを、シブヤ大学の協力のもとに紹介していく全6回の授業。4限目は、渋谷ヒカリエ11階にある東急シアターオーブを教室にした『ココロを揺さぶる球体(オーブ)~ あなたのミュージカルぎらい、なおします! ~』。ミュージカルが好きな人はもちろん、ミュージカルはちょっと苦手...という人にも、ミュージカルの魅力や楽しみ方を学んでいただく授業です。

東急シアターオーブは、2012年7月に渋谷ヒカリエの11階にオープンした、Bunkamuraが運営する施設の中では最も新しい劇場。主に海外から招聘したミュージカルを中心に上演している総席数1,972席の劇場です。照明ブリッジや持込機材の設置に高い自由度があり、舞台、照明、演出など、本場のミュージカルをそのまま楽しめるのが特徴。東急シアターオーブが入る渋谷ヒカリエは、渋谷駅東口駅前に位置する複合商業施設で、ショッピング施設やさまざまな飲食店が入居しています。渋谷の街を一望できる近未来的とも言える建物は、渋谷の代表的なランドマークの一つ。

東急シアターオーブ

東急シアターオーブのホワイエからの眺望

渋谷ヒカリエ

授業の前半は、第一会場となる渋谷ヒカリエの8階にある多目的スペース「8 / COURT」での座学です。カラフルな椅子が印象的な会場に、シブヤ大学の授業コーディネーターの"おやびん"こと佐藤さんが現れ、いつものように『オープン!ヴィレッジ』および授業について説明。その後、今回の進行を務める"村人"、舞台芸術事業部の和田さんが登場。劇場や、本日の授業の進行について説明をしてくださいました。

東シブヤ大学授業コーディネーターの佐藤さん

舞台芸術事業部の和田さん

ここで座学のナビゲータが紹介されます。舞台芸術事業部 担当部長の海野さんとエンターテイメントライターの浮田久子さんのお二人。海野さんはミュージカルの本場、アメリカのブロードウェイでお仕事をされていた経験もおありとのこと。浮田さんはさまざまな芸術に精通され、雑誌やラジオなどのメディアで活躍されています。座学は、お二人によるトークショーの形式で進行。ミュージカルの魅力について、ブロードウェイについて、スライドショーを交えながら楽しく学びました。

舞台芸術事業部の海野さん

エンターテイメントライターの浮田さん

「音楽や映画は好きだけれど、ミュージカルはあまり見ない...」、という方がよくおっしゃるのは、「演技をしている役者さんが、突然歌ったり、踊ったりするところが苦手」ということ。しかし、海野さんによれば、「"演技"、"歌"、"踊り"が三位一体となった、玉手箱のような楽しさがミュージカルの最大の魅力」。優れた演技はもちろん、さらに歌って踊れる力のある役者さんが物語を奏でてくれるエンターテイメント、それがミュージカルということなんですね。また、ミュージカル形式の映画やテレビもたくさんありますが、「やはり劇場で生で見るのは、全く違う迫力があります」、とのこと。役者と同じ会場、空間の中での一体感、やり直しがきかないという緊張感の中で感じる迫力は、画面を通してではなく、生だからこそ伝わるんでしょうね。

さらに浮田さんは、「劇場で舞台を見る時は、自分の視点で楽しめることもミュージカルの大きな魅力」と続けます。必ずしも、主軸となる登場人物だけに感情移入する必要は無く、自分の好きな俳優、好きなキャラクターに注目してみることが出来ると。好きな視点で自由に見られる、まさに自分が監督になるような感覚ですね。

ミュージカルの魅力についての熱いトークはもちろん、座学で盛り上がったのはやはりミュージカルの聖地、ブロードウェイのお話。ブロードウェイとは、日本で言うと明治通りや国道246号などと同じで、ニューヨークのマンハッタンを南北に通る道の名前だそうです。その一角に40もの劇場が密集していて、毎晩さまざまなミュージカルが上演されている、それがいわゆる"ブロードウェイ"と呼ばれる場所。劇場のみならず、稽古場やレストランもたくさんあり、その地域全体がミュージカルを盛り上げる仕組みになっているそうです。稽古場も多いので、トップスターが普段着で稽古場に通う姿が見られることもあるとのこと。そういうフランクな雰囲気もアメリカならではですね。

また海野さんが携わっていらっしゃる、海外のミュージカル作品の招聘に関するお話も非常に興味深かったです。海野さんが招聘作品を選ぶ際に基準とされているのは2つ。まず日本人には出来ない内容であること。さらに自分だけではなく、性別・年齢を問わず、多くの人が見て楽しいと思える作品であること。この2つが大事だそうです。ミュージカルの本場で無ければ成しえない迫力と感動があり、さらに誰もが楽しめるエンターテイメント、それがシアターオーブで上演されている作品ということですね。

他にもブロードウェイで作品が上映されるまでのプロセス、実際のオーディションの様子など、内容は盛りだくさん。ちなみにミュージカルというと、どうしてもチケット代が高いイメージがありますが、ブロードウェイのミュージカル作品に関しては、日本での上演は海外ツアーということもあって、現地で見るより安いそうです。
ということで、ミュージカルの楽しさ、ブロードウェイの魅力をしっかり学ぶことができました。現在東急シアターオーブで上演中の『BRING IT ON』についても映像を交えて作品を解説いただきました。『BRING IT ON』は、チアリーディングに青春をかける高校生の恋と挑戦を描いた物語。参加型ミュージカルということで、その説明の際は、生徒さんたちと一緒にダンス。生徒さんたちのテンションも上がってきたところで、座学を終了。その『BRING IT ON』がまさに上演を終えたばかりの、東急シアターオーブに移動します。

日曜日の授業ということで、渋谷ヒカリエにはたくさんのお客さまがご来館。その中をシブヤ大学の生徒さんたちが移動します。ツアーのように旗を持って先導してくださっているのは、毎回授業をお手伝いいただいているシブヤ大学のボランティアのみなさん。

第2会場となる東急シアターオーブ。移動したのは15時20分ごろ。『BRING IT ON』の上演が終わったのは15時。まだまだ上演後の熱気が残っていました。そして海野さんによるアナウンス。「現在、客席の照明が落ち、ミュージカルが開演する直前の状態を再現しています。それではまずパフォーマンスをご覧ください」。

東急シアターオーブ

突然、会場に音楽が流れ、舞台上にキャストが登場。『BRING IT ON』のパフォーマンスがスタートします。実はこれ、生徒さんたちに知らされていなかったサプライズなんです。今日の授業のために『BRING IT ON』のキャスト、スタッフが上演後そのまま残り、本番と全く同じ演出で7分間のパフォーマンスを演じてくださったのです。心地よく響く歌声、キレのあるダンス、思わず声を上げてしまうほどの高いジャンプ。驚きのプレゼントに生徒さんたちもテンションは最高潮に。

パフォーマンス終盤では、舞台上のキャストが客席に下りてきて生徒さんと一緒にダンス。『BRING IT ON』では、上演終了後のカーテンコールの際に、キャストとお客さまが一緒にダンスをする時間が設けられているそうです。これはアメリカのツアーでは実施していない、日本限定のプログラムとのこと。まさにその特別な時間を体験できたというわけです。

さらにさらに、最後はキャストのみなさんと一緒に客席で記念撮影。本場ブロードウェイのキャストが目の前にずらり。すべて『オープン・ヴィレッジ!』のためだけのスペシャル・プログラム。二度とない貴重な体験となりました。

圧倒的なパフォーマンスに、生徒さんのみならず、スタッフも興奮冷めやらぬ中、授業は後半のプログラムに進みます。ここで新たな村人、劇場運営室の佐藤さんが登場。東急シアターオーブという劇場の特徴や魅力をお話いただきました。まずは、オーブ(球体)という名前の由来。渋谷ヒカリエが建設されたのは東急文化会館の跡地。東急文化会館は、最新の文化や娯楽を提供するための施設として建設され、屋上にはプラネタリウムがあり、丸い半球が飛び出した形が象徴的だったそうです。このコンセプトと姿勢をしっかり受け継ぐ、という意味を込めて、新しい劇場に"オーブ(球体)"と名づけられたとのこと。また、シアターオーブは、ミュージカル劇場ということで、音楽の豊かな反響を残しつつ、台詞の聞き取りやすさを実現しているとのこと。舞台の上には、演出用の鉄パイプが60本も吊り下げられており、さまざまな照明に対応できる柔軟な構造で、ブロードウェイなど海外からどんな内容・演出のミュージカルが来ても、そのまま再現できるそうです。今までの授業で3つのホールを見てきましたが、本当にそれぞれ独自の工夫がなされています。

劇場運営室の佐藤さん

劇場について学んだ後は、バックステージツアー。客席から舞台に上がり、舞台の裏側を歩きます。激しいアクションを行う『BRING IT ON』では、床が柔らかな素材になっているので、傷つけないように気をつけながら歩きます。パフォーマンスが終わったばかりの舞台裏は、まだ2週間も公演が残っているので、衣装もすべてそのまま。短いながらも贅沢な時間となりました。

続いて浮田さんと海野さんが再び登場。あらためて劇場についてお話しいただきます。「ブロードウェイの劇場の規模は大体1,000席~1,200席。最も大きい劇場でも1,800席ほど。東急シアターオーブは2,000席と大きく、設備も充実しているので、これからもアメリカ、ロンドン、フランスの優れたミュージカル作品をどんどん上演していきます」と海野さん。さらに、「例えばアメリカ国内外のツアー公演から、ブロードウェイで上演されるヒット作品が生まれるように、東急シアターオーブで新しいミュージカルを作り、それがブロードウェイで上演されるような流れを作りたい」と夢を語ってくださいました。そのために、渋谷という街がブロードウェイのように、劇場、稽古場、レストランなどエンターテインメントが凝縮された街になるのが理想とのこと。「ミュージカルを楽しむお客さま、ミュージカルを製作し、プロデュースするスタッフ、みんなで盛り上げていきましょう」という海野さんの熱い想いに、会場の熱も上がります。

最後は質疑応答の時間。「海野さんがミュージカルにハマッたきっかけは?」「海外のキャストやスタッフとのコミュニケーションはどうやって?」「ミュージカルのプロデューサーになるにはどういう資質が必要?」「作品を選ぶときに個人の好き嫌いは反映させる?」など、いつも以上に質問がたくさん飛び出し、まさに参加型の授業となりました。村人の熱い想いは生徒さんたちにしっかり伝わったようです。これですべてのプログラムが終了。みなさんお疲れ様でした。

今回もアンケートをご記入いただいている生徒さんに直接お話を伺いました。

ミュージカル大好きという生徒さん。東急シアターオーブは初めてとのこと。「『BRING IT ON』は見たいと思っていたので、今日はパフォーマンスを見られて大感激でした」と喜んでいただきました。

「音楽やライブは好きだけれど、ミュージカルはちょっと敷居が高い気がして...」という生徒さん。ミュージカルの魅力をしっかり感じていただいたようで、「これから『BRING IT ON』のチケットを買って帰りますっ」とのこと。ありがとうございました。

こちらはミュージカル以外にも映画や舞台などをご覧になるという生徒さん。「舞台裏を見れたのがとても貴重でした」とのご感想。ミュージカルならではの魅力をお聞きしたところ「とにかく楽しくて元気になれるところです」とのこと。

今回は、『BRING IT ON』の本番の一部分を生で観られるというサプライズに興奮した授業でした。個人的には、村人のみなさんのお話を聞いて、ミュージカルとは"誰でも楽しめる"エンターテインメントであるということをあらためて感じました。"誰でも楽しめる"というのは、ただわかりやすいということではなく、"見る側を喜ばせる、あらゆる要素が詰まっている"ということ。さらにその中には、演じる人、作る人、観る人の、さまざまな"夢"も詰まっています。だから、感動できるし、元気になれる。みんなで楽しめる、みんなで作る、エンターテインメント。そんなミュージカルの素晴らしさを全身に浴びた授業でした。

前回に引き続き、出演者&スタッフのみなさん、ご来場いただいた生徒のみなさん、ありがとうございました。

文:中根大輔(ライター/世田谷233オーナー)
写真:大久保惠造