5/26(月) 19:00~21:00
『ようこそ、Bunkamuraへ!×シブヤ大学』のコラボレーション企画、『オープン!ヴィレッジ』の授業レポートです。『オープン!ヴィレッジ』はBunkamuraがプロデュースしている6つの施設を軸に、様々なジャンルの文化・芸術の楽しさを、シブヤ大学の協力のもとに紹介していく全6回の授業。
2限目となる今回は、Bunkamura1Fにある劇場シアターコクーンを教室にした『繭(コクーン)から生まれる熱いドラマ ~シアターコクーンの挑戦~』です。シアターコクーンは、1989年に開館した総客席数747席の中規模劇場。舞台から1階最後列の客席までが24mというコンパクトさで、舞台と客席の一体感、臨場感を味わえる施設です。この劇場から、数多くの名作が生み出されてきました。
参加された生徒のみなさんは、まず舞台を正面にして着席。一旦、幕が下りると、シブヤ大学の授業コーディネーターの“おやびん”こと佐藤さんと今回の進行を務める“村人”、企画制作室の宇津木さんが登場。『オープン!ヴィレッジ』や授業内容について説明がありました。お二人とも、大勢の生徒さんの前でスポットライトを浴びて、さながら舞台挨拶のよう。
説明が終わって幕が上がると、舞台上にはいつの間にか椅子がずらりと並んでいました。最初の授業プログラムである”座学”は、客席ではなく、舞台の上で行います。ということで、生徒さんたちも舞台上に移動。これだけでも貴重な体験ですね。
全員が着席したところで、企画制作室の室長でプロデューサーの松井さん、シアターコクーンで上演された公演のプログラム編集なども手がけられている、ライターの市川安紀さんが登場。座学がスタート。
最初に劇場の基礎知識から勉強します。松井さんのお話で印象的だったのが、シアターコクーンの特徴を表す際によく使われる“熱い空間、やわらかい劇場”というフレーズ。優れた作品を上演するだけではなく、新しい切り口で冒険心あふれるスリリングな舞台を、作家・演出家・役者などのクリエイター陣とスタッフ、さらにお客さまも交えて一緒に作っていくという意味での”熱い空間”。さらに、座席の中央から前を桟敷に変えたり、舞台上に客席を持ってきたり、作品にあわせて自由に変化させるという意味での“やわらかい劇場”。“ハコ”ありきではなく、“ヒト”、そして“作品”ありきということ。それがシアターコクーンという劇場なんですね。
また、舞台の運営に関して、芸術監督制度を導入しているのもシアターコクーンの特徴の一つ。初代に串田和美さん、99年から現在、蜷川幸雄さんが務め、プログラム構成や演出にも、それぞれの個性が反映されているのも大きな魅力です。ただ、松井さん曰く、常に冒険する心、チャレンジする精神を忘れないのは、オープン当初から変わらない持ち味とのこと。
基礎知識の後は、今回の授業のために編集された動画コンテンツを見ながら進行。シアターコクーンで上演された演目から、コンセプトやこだわりを具体的に学びます。
動画コンテンツは、主に蜷川幸雄さんが芸術監督になられて以降の演目を中心に、“変化する劇場”、“表現する舞台”、“挑戦する作品”という、3つのセクションから構成。
“変化する劇場”では、例えば、『マクベス』で、お客さまが客席で合図にあわせて緑色の傘を差すという、観客を巻き込んだ長塚圭史さんの演出などが紹介されました。“表現する舞台”では、舞台にプールを作って水を流したセット作りや、舞台奥の搬入口が開いて外に通じている構造を利用した演出などが紹介されました。最後の“挑戦する作品”では、10本のギリシャ劇をひとつにまとめ、休憩を含めて10時間以上という上演時間だった『グリークス』(この時のカーテンコールはお客さまから出演者への拍手だけでなく、出演者からお客さまへの拍手も行われたそうです)や、一つの作品を異なる演出家で見せた公演などの事例が映し出されました。他にもプロデューサーのお仕事の内容、蜷川さんってどんな人?など、話題が広がりました。
それぞれの公演の演出方法や舞台の仕組みなどを詳しく聞いていると、一本の公演に本当に多くの人々が関わっているんだということがわかります。出演者、スタッフ、観客、あらゆる人の想いがこの空間で一つになって、とてつもない感動を生み出すんですね。
舞台の上という非日常空間での座学はここで終了。一旦休憩です。
授業は後半に入ります。ここから進行役として劇場運営室の長谷川さんが合流。普段、裏方として活躍されているスタッフを交え、授業は前半の“座学”から後半の“実技”にシフト。『楽屋ツアー』と『2階席ツアー』の二手にわかれます。その前に授業の前日まで上演されていた『殺風景』の搬入・仕込みの様子を定点カメラで捉えた映像を特別上映。3日間で50時間にわたる劇場仕込み。延べ190人が関わったそうです。これが3分にまとめられた映像はかなりレア。早送りで多くの人やモノがめまぐるしく動く様子は、まるで舞台が生き物であるかのようでした。
『楽屋ツアー』では、長谷川さんの誘導の元、舞台の裏に回ります。入り口には生徒さんたちの“着到板”がちゃんと用意されていて、ここで自分の札を探して裏返します。この時点で一気にテンションがあがります。楽屋には、普段見ることのできない光景がたくさん。ランドリーやお風呂場もあります(笑)。ここは多くの演出家さんや俳優さんが実際に過ごした場所。想像力がかきたてられます。また、『殺風景』で使われていたケータリングがそのまま置かれていて、これらは飲食自由。さらに撮影もOK。みなさん存分に楽しんでいらっしゃいました。ツアー中も長谷川さんがマイクで色々と説明してくださいます。生徒さんからの質問にも対応。先ほど映像で見た『殺風景』の搬入・仕込みは、大変そうに見えたかもしれないが実はかなり楽な方だった、という裏話も。ちなみに次のコクーン歌舞伎『三人吉三』は相当大変だそうです(笑)。
一通り楽屋の雰囲気を堪能した後は、舞台下の奈落と呼ばれる場所に移動。過去の公演では、この奈落そのものを舞台にしてしまう演出もありました。奈落から直接舞台前面の”迫り(セリ)”に移動。約30名を載せたまま、2mほどの高さをせり上がります。まさに役者になった気分っ。
一方、先に『2階席ツアー』を体験される生徒さんは宇津木さん、松井さん、市川さんらとともに2階席に移動。ここで、客席側の責任者である劇場運営室の室長・小泉さんと案内チーフの打越さんも合流。座学の時間にできなかった質疑応答を行いました。今回は、劇場をより知っていただくためのプログラムなので、演劇をよくご存知の方も多かったのか、生徒さんからマニアックな質問が飛び出しました。「舞台で使った水はどこに?」「外とつながった搬入口から一般の人が入ってくることは無いの?」「スタッフさんが考える“良い席”とは?」「役者さんとセット・装置との関係について」などなど。和気あいあいとした雰囲気の中、スタッフさんの本音もいろいろ聞けて盛り上がりました。
質疑応答の後はバルコニー席に移り、『楽屋ツアー』のみなさんが”迫り”からあがってくる様子を上から楽しんで終了。
『楽屋ツアー』と『2階席ツアー』、それぞれ交代に行った後は、最後のプログラム。『カーテンコール体験』となります。
生徒さんたちは全員舞台上に移動。ここで舞台監督も経験されている劇場運営室の内田さんが登場。カーテンコールのための実技指導が始まります。内田さんの軽妙なトークで和やかに進みますが、生徒さんたちからは緊張感が伝わってきました。
カーテンコールの際は照明が暗転、舞台上も真っ暗になります。しかも今回は一発勝負。入念に打ち合わせと練習が行われます。
練習が終了。舞台上が真っ暗になり、いよいよ本番です。生徒のみなさんの集中力が高まっていくのがわかります。舞台上では、立ち位置を決める蓄光テープによる“バミリ”だけが光っています。
そして本番。音楽がスタート。曲はトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」。デヴィッド・バーンのボーカルが聞こえたらカウントを数えて全員前へ。大きな緞帳が上がると、舞台前の客席にはスタッフや関係者がぎっしり集結、大きな拍手が会場に響き渡りました。生徒のみなさんは、練習通り左・右・正面に向かって深々とお辞儀。その間、流れるようにスポットライトが当てられます。みなさん堂々とした振る舞いで、見事に大成功っ。まさにこの場にいる全員の心が一つになった瞬間です。鳴り止まない拍手の中、やがて緞帳が下り、カーテンコールが終了。幕の裏の舞台上では、みなさん抱き合わんばかりの達成感に包まれていました。ブラボーっ。
緞帳が再び上がって、授業は終了。このとき会場のスタッフ&関係者もテンションが上がっていたのか、まさかのアンコールの拍手。さすがにそれはなし(笑)。興奮冷めやらぬまま記念撮影。これですべてのプログラムが終了。みなさん、お疲れ様でしたー。
お帰りの前にみなさんにアンケートをご記入いただいたのですが、今回も何名かの方にお話しをお伺いしました。
こちらはご自身もクリエイターであるという生徒さん。シアターコクーンは初めてとのこと。「まさかカーテンコールまで体験できるとは」と、今回の授業を満喫していただいた様子。カーテンコールも最前列だったそうです。素晴らしい思い出ができましたね。ありがとうございました。
こちらは大学生の生徒さん。演劇もやっていらっしゃるそうで、将来は舞台関連のお仕事に就くのが夢とのこと。表から裏からご覧いただいた劇場という空間の中に、将来のご自分の姿を想像されたのでしょうか。こういう若い方が、劇場を、そして日本の舞台芸術を支える力になってくださるんですね。
今回は、座学から始まって楽屋見学、カーテンコール体験まで、シアターコクーンという劇場の魅力を五感を使って存分に味わえました。たくさんのことを学ぶことができたという意味では“授業”なんですが、最後のカーテンコールが生み出した熱気を思い出すと、今回は、スタッフと参加者みんなで作り上げた、一日限りの“公演”であったとも言えると思います。これはやはり、“熱い空間、やわらかい劇場”と呼ばれるシアターコクーンでしか実現できない一体感ではないでしょうか。白くて丸い“繭”。だからこそどんな形、色にも変化できる。これからもシアターコクーンの挑戦から目が離せません。
前回に引き続き、出演者&スタッフのみなさん、ご来場いただいた生徒のみなさん、ありがとうございました。
文:中根大輔(ライター/世田谷233オーナー)
写真:大久保惠造