「舞劇 楊貴妃」世界初演レポート!

傾国の美女の新たな伝説

 1年あまりの準備期間を経て、「舞劇 楊貴妃」が全貌を現す日が、ついにやってきた。世界初演の夜、ざわめくロビーでは、中国語もけっこう聞こえてきて、“国際プロジェクト”を改めて実感した。物語のスケールも大きい。楊貴妃の物語を中心にしながら、全盛を誇った唐の国の混乱という歴史のうねりも描いていく。開演前の舞台には淡い金色の幕。楊貴妃と謝阿美を象徴するように、大小の牡丹の花が2輪描かれている。シックな色合いで華麗な牡丹を描く、中国と日本のほどよいミックスが、すでにここにある。

 

 冒頭の阿美の旅立ちから、舞台は唐の都・長安へ。玄宗皇帝の宮廷では、女官たちの「楽器の舞」や男性たちの「太鼓の舞」、国際色豊かな各国使節の踊りなど、華やかな宴が展開して、あっというまに、1200年前にタイムスリップ。でも、目を奪われるのは、何と言っても楊貴妃だ。真紅の衣裳をひるがえし、大勢の女官をひきつれて現れた楊貴妃は、まさに咲き誇る大輪の牡丹。金色の鳥たちをバックに、「金笛の舞」を優雅に舞う。チェン・ファンユアンは、しなやかな身のこなしで楊貴妃の美と気品を余すところなく表現。挨拶にやってくる阿美は、淑やかな中にも若さがあって、初々しい。ソン・ジエの可憐さが目を引く。男性たちも負けていない。阿倍仲麻呂と李白は、国を憂える思いを切れのよい動きできっちりと見せる。1幕の白眉は「貴妃酔酒」と「貴妃出浴」。カップをくわえたままで踊る楊貴妃は、あでやかになまめかしい。

 2幕は反乱の兆しで始まる。角のある獣のような者たちに囲まれた楊貴妃の苦悩、反乱軍に立ち向かい、楊貴妃を守ろうとする阿美、いよいよ追手に迫られて、最後の決断をしなければならない玄宗皇帝と楊貴妃と阿美。三人がかばいあうシーンでは涙があふれそうになる。ラストで純白の衣をまとった楊貴妃の姿には、冒頭で、遣唐船に乗り込む阿美の姿が重なる。演出・振付のジャオ・ミンは、傾国の美女の芸術家としての側面を強調し、阿美を創造して国も立場も超える深い友愛のドラマを生み出した。森山良子の歌う主題歌が二人の稀有な女性への賛歌に聞こえた。服部隆之の音楽は二胡や琵琶を使い、伝統と現在、中国と日本、東洋と西洋をミックスして、ドラマに広がりを与えている。音楽だけでなく、シンプルでスタイリッシュな舞台美術、エレガントな衣裳など、日中共同制作の成果は大きい。

 大変な集中度で舞台を見詰めていた観客席から、熱い拍手が沸いたのは、言うまでもない。カーテンコールではテープが吹き出す特別演出も。ジャオ・ミンはクルクル回転しながら登場、ダンスも披露してくれた。日本側プランナーも舞台に登場して、世界初演を共に喜びあった。この感動が、大阪へ、そして11月には上海で、さらに世界へと広がっていく。きっとさらなる進化を続けながら。

  text:沢美也子
photo:下坂敦俊(下段左)

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