塩谷哲・手嶌葵インタビュー

塩谷 哲

1989年にオルケタ・デ・ラ・ルスのピアニストとして、ニューヨークで初めてのライヴを行なったときの、「その衝撃が忘れられない」と言う塩谷哲が、今度はオーチャードホールのステージで“ニューヨーク”を表現する。そこにはどんな思いが込められているのだろうか。


 
 

―― 塩谷さんの感じたニューヨークという街の印象は?

とんでもないエネルギーを持った街だと思います。何よりも、聴衆が音楽の楽しみ方をよく知っていて、ライヴで演奏している僕らのほうが、「ああ、音楽って楽しいんだ」と改めて感じさせられてしまうほどです。

―― そんな“ニューヨーク”をテーマにするに当たって、まず何を考えましたか。

本当に目指したいと思ったのは、今言ったような演奏する側と聴き手の関係性です。聴く側が音楽に対して貪欲さであり、貪欲であるからこそシビアなんです。だから、そのミュージシャンの持っている音楽性、そして人間性が伝わらないと本当に盛り上がらない。そういうところを今回、演じる側として出して行きたい、そして客席と同じ感動を共有したいと思っています。

―― 今回のゲストは、異例の取り合わせのように感じるのですが。

溝口肇さんのチェロの都会性に僕はニューヨークを感じますし、上妻宏光さんの三味線には純邦楽だけではないものがあって、それが様々な人がそれぞれの背景を背負って生きている街のイメージと重なる。そして手嶌葵さんの歌声は彼女独自の音楽を表現していて、日本という枠にとどまらない。そういう、彼らの中にある“ニューヨーク的なもの”をうまく引き出したいなと思っています。

―― 一流のミュージシャンたちを集めた、特別編成のソルト・アンサンブルも要注目ですね。

ホーンやストリングスを入れて、ピアノ・トリオ+小編成のオーケストラを構成しています。特に弦楽器があることで表現の幅がぐっと広がり、そこに3人のゲストの方々が入ることで、どんなサウンドでも作り出せる編成となっています。

―― 「スケッチ・オブ・ニューヨーク」、どんなステージにしたいですか。

2日間のステージを通して、僕がニューヨークで感じた感動をお客さんに伝えたいと思います。その感動というのは決して歌が上手いとか楽器が上手いとかいうことだけでなく、ミュージシャンが今そこで演奏しているというリアリティを感じるということなんです。自分が100%の表現して、ゲストの方とともに全員がひとつの音楽に向かっていくことで、そういうリアリティというものも生まれてくるのではないかと思っています。

手嶌 葵

“ニューヨーク”というイメージからすると、ゲストの中でもとりわけ異彩を放っているのが、スタジオジブリの映画『ゲド戦記』でテーマソングを歌った手嶌葵だろう。独特の存在感を持つ彼女の声がどうニューヨークにつながっていくのだろうか。話をうかがってみると、実は彼女の原点がそこにあったことがわかった。


 

―― 手嶌さんは、ニューヨークには?

行ったことはありませんが、小さいころからミュージカル映画が好きで、その音楽に惹かれてサッチモ(ルイ・アームストロング)やエラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイなどをよく聴くようになりました。だからニューヨークは憧れの街ですし、本場のミュージカルやジャズを間近で聴いてみたいですね。

―― 塩谷哲さんというミュージシャンにはどんな印象をお持ちですか。

『ゲド戦記』のレコーディングで初めて共演させていただきましたが、最初はすごく緊張していたのに、彼のピアノの音を聴いた瞬間にすっとリラックスできたことが強く印象に残っています。それと同時に、塩谷さんのピアノで歌うと、素直に「もっとがんばろう」という気持ちになれます。その後私の初めてのツアー「春の歌集の会」に参加していただいたりして、最初は私も新人でしたし、お互いの音楽を探り合うような部分も多かったのですが、何度か共演するうちに同じ気持ちになっていく瞬間があったと感じました。少なくとも私には(笑)。

―― 他のゲストの方々とは?

塩谷さん以外の方とは初共演になりますが、皆さん素晴らしいミュージシャンばかりなので、私もステージという特等席で、お客様と一緒に楽しめたらいいなと思っています。

―― どんな歌を歌う予定ですか。

サッチモの「What A Wonderful World(この素晴らしき世界)」やガーシュインの「Someone To Watch Over Me」などを歌います。こういうジャズのスタンダード・ナンバーを英語で歌えるということが、とても嬉しいです。私のニューヨークに対する憧れをせいいっぱい歌に込めて、お届けしようと思っています。楽しみにしてください。


手嶌葵の憧れ続けてきたサッチモの名曲、そして彼女のルーツとも言えるミュージカルのナンバーであった、ガーシュインのバラード。これらをどんな風に聞かせてくれるのか、考えるだけでもワクワクする! しかもそれさえもが、「スケッチ・オブ・ニューヨーク」のほんの一部に過ぎないのだ。溝口肇、上妻宏光、そして塩谷哲とソルト・アンサンブル。さて、彼らは、いったいどんな“ニューヨーク”を見せてくれるのだろうか。

text:今泉晃一
photo:高橋和彦

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