待望の新演目。新脚本で『佐倉義民傳』がコクーン歌舞伎に登場!
渋谷、夏の風物詩となったコクーン歌舞伎。第十一弾は待望の新演目『佐倉義民傳』だ。公演に先駆け、演出家の串田和美、中村勘三郎が出席し製作発表が行われた。
『佐倉義民傳』が演目に決まったのは、名古屋で『法界坊』公演を行っていたときのこと。串田や勘三郎らが集まり相談していたところ、さまざまな話の流れのなかで「『佐倉義民傳』は?」と中村橋之助が言い出し、話が進展していったという。『佐倉義民傳』は、名主・木内宗吾が圧政に苦しむ領民のために江戸へ出て将軍へ直訴を行った、という歴史的事件を扱った作品。1851年に『東山桜荘子』として江戸中村座で初演され、連日大入りの公演となった伝説がある。
串田 「実は、僕もこの演目に決まったことはびっくりしているんです。昔、前進座で『義民伝』をやっているのを見たことがあって、それがとても印象に残っていたので『あのようなものが、できるんだろうか?』と。ただ性分としては難題を突きつけられた方が『やってやろう』という気持ちがわくので、今はこれを現代に成立させる方法、新しい表現方法を見つけるのが楽しみです。最近はあまりこの演目はかからなかったようですが、ある時期は毎年のように上演されて、自由民権運動のひとつのシンボルのようになっていた時代もあるようです。時代によって、こういう作品をとても大切にする時期があって、それが波のように繰り返されているのだと思います」
勘三郎 「うちの親父も何度かやらせて頂いているのですが、親父からの言い伝えで『この芝居は、当たるか、外れるかのどちらかだ』と(笑)。以前、木内宗吾を演じたのですが、私とは全く正反対の性格で本当に穏やかな人。彼を演じた一ヶ月間は、女房も弟子も言っておりましたが、非常にいい人間だったそうです。今度の芝居をどうとっていただくかは、お客様次第ですけれど、私が宗吾さんをすごいなと思うのは自分の立場をわきまえているということ。直訴といっても一揆をおこすわけではなくて、理想主義者で平和主義者なんですよ。そういう部分を表現していけたらいいなと思っています」
今回上演されるのは、初演の三世瀬川如皐が描いたものに加えて、今までは登場しなかった人物なども登場するコクーン歌舞伎版『佐倉義民傳』。鈴木哲也により新脚本が用意される。
串田 「味付けに関しては、宗吾のリアルな心情を表す、これまでにあったような非常に歌舞伎的と言えるシーンに加えて、もう少し乾いた、歴史を語っていくような客観的な表現をうまく混ぜていけたらいいなと思っています」
勘三郎 「コクーン歌舞伎で『佐倉義民傳』をやろうというのは、今まで全くなかったアイデアですけど、佐倉義民傳に関する郷土史を読んでいたのが2月11日で、木内宗吾が亡くなったのも2月11日だった。偶然といえばそれまでですけど、私としては木内さんが『やりなよ』と言ってくれたように思えたのです」
すでに10回の公演を行ってきたコクーン歌舞伎チームは「出演者も、スタッフも非常にいいチームワーク」(勘三郎)。
「コクーン歌舞伎は、生き物として成長している。歌舞伎というものは昔のものではなく、むしろ今の時代を表現するのにとても向いているんです。歌舞伎こそが今の芝居なのだと、僕は勝手に思っていて、だからこそずっと続けてこられたと思います」(串田)
「(演出は現段階ではかためず)やわらかい部分はまだまだ残しておきたい」と言いつつも、次々とアイデアが浮かんでいる様子の串田。演じる木内宗吾への思いがあふれる勘三郎。すでに名作が生まれる予感は充分。2010年コクーン歌舞伎の『佐倉義民傳』をお楽しみに!
文:山下由美
写真提供:松竹株式会社