「シャネル&ストラヴィンスキー」
アナ・ムグラリスインタビュー

シャネルの精神は、こうして受け継がれる…アナ・ムグラリスが語るシャネル

 ストラヴィンスキーのパトロンであったシャネル。ふたりに恋愛関係があったかは今となっては謎のままであるが、「シャネルの別邸にストラヴィンスキーが住んでいた」という史実をもとに製作されたのが『シャネル&ストラヴィンスキー』だ。ふたりの秘めたる恋が、シャネルN°5、ストラヴィンスキー〈春の祭典〉のクリエイションに影響した…というストーリーである。

 シャネルを演じるのは02年以降、シャネルのモデルとしても活躍する女優アナ・ムグラリス。これまでも数多くの女優がシャネルを演じているが、アナが演じるシャネルは徹底的に強い。そして圧倒的な美しさで、女性でもほれぼれしてしまう大胆さを兼ね備えている。

「シャネルはフランスや世界のファッションを体現するメゾンですが、フランスの歴史や伝統を引き継いでいるメゾンでもあります。いわゆる一般的なファッション・ブランドとは違う側面を持っているんです。シャネルが理想としたのは、モダンな女性です。シャネル亡き後も、メゾンが発表するものは、いつでもその部分を意識しています。私がシャネルで仕事を始めるときに、『自分なりのシャネルのエスプリを表現してください』というふうに言われました。ですから、これまで何年もかけてこの映画の準備をしてきたようなものですね。歴史上の人物を演じる時には、資料を読み込んだり準備に時間がかかるものですが、今回はモデルとしての長年の積み重ねがあったので、自分の役どころや作品のテーマを理解することができましたし、より自由に演じることができました」

 どんな作品に出演するときも、女優として感じたことを監督に提案するというアナ。セリフに関しては、演じる俳優が実際にセリフを口にした時に“自然かどうか”にポイントを置いているという。本作ではシャネル全面協力のもと、シャネルのプライベートワードローブが映画のために開放されたり、カール・ラガーフェルドが特別にデザインしたドレスが使用されている。アナ自身が提案したことと言えば…

「今回、スタイリングを担当した方はパールなどネックレスを使うことを好んでいました。でもシャネルは、もっと多様なスタイルを持っているので、そればかりにならないようにアイディアを出しました。あとはスカートの丈を少し短くしたことですね。最初に提案されたものが当時は一般的な長さだったとしても、前衛的なシーンが多かったので、少し短い方がいいと思ったんです」

物語では、シャネルとストラヴィンスキー、そしてストラヴィンスキーの妻カトリーヌの三角関係が描かれているが、アナが共感するのはシャネル、それともカトリーヌ?

「私はシャネルの生き方に共感します。というのも、あの時代は徹底的な男社会。男性は愛人を持つことも普通でしたが、妻は夫に対して服従するしかなかった。妻は夫から逃げられなかったのです。そんな風潮のなかで、シャネルは自分の行きたい方向へと突き進んでいたのです。実際のシャネルも結婚という制度に否定的でしたし、孤児院で育ったという彼女の生い立ちから、彼女の周りの人間もまた、彼女には結婚を望んでいなかった。その状況のなかで、自分の気持ちを強く持って、やりたいことを貫いたシャネルには強さを感じます」

女性の社会進出を、自らの手で切り開いたと言えるシャネル。「残酷な部分もあるけれど、それは彼女が鎧のようなものを身につけなければ生きて行けなかった部分もあったからだと思う」と語るアナ。彼女が表現する“シャネル”に注目である。

Text:山下由美 Photo:小島由起夫


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