「ゼロ時間の謎」公開を前に、主演のメルヴィル・プポーとパスカル・トマ監督が来日。それぞれが、本作にかける思いを語ってくれた!
パスカル・トマ監督 「観終わっても、犯人は誰か言っちゃダメだよ!」
――アガサ・クリスティーのような有名作家の作品を映画化するうえで、苦心するところは?
原作の知名度に関わらず、文学はイリュージョンの芸術で、映画は現実の芸術です。文学では、読んだ人それぞれが理想のキャラクターを想像している。けれど、それを映画で表現するとなると現実に直面し、キャストやロケする場所を実際に選ばなければならないのです。ただ、クリスティーの原作は、登場人物や舞台など素材が豊かなので、映画化することに魅力を感じました。
――キャストやロケ地はどのように選ばれましたか?
資産家の叔母の別荘を表現するため、7カ所で撮影を行いました。メインで使われている館は、ディナールというブルターニュ地方の最も美しいところにあります。そこはアガサ・クリスティーが休暇を過ごしたという記録が残っている場所で、ほぼ間違いなく原作の「ゼロ時間へ」を執筆したところであると言われ ています。そこに、イタリアやイギリスから最高級の家具を運び込みました。キャスティングも、そのセットに負けないよう、色んなジャンルの人を集めています。メルヴィルやキアラのように幼い頃から活躍している俳優、ダニエル・ダリューのような大女優。原作のファンにも、楽しんでみてもらえると思います。
――撮影中、印象に残った出来事はありますか?
キアラがピアノを弾くシーンがありますが、当初はプールサイドで撮影する予定でした。ところが雨が降り出して、仕方なく室内で撮影することにしたのです。そうしたらメルヴィルやローラも素晴らしく、スタッフのみんなが魅了されるようなシーンになりました。撮影の途中に雨があがったのですが、最終的には人工的に雨を降らしてシーンを完成させました。
メルヴィル・プポー 「ひとりひとりが警視になった気分で楽しんでくれたらいいな!」
――本作への出演を決めたきっかけはなんですか?
たくさん理由はあるのですが…まず今までは作家性の強い作品に出ていたのですが、今回のような少しハリウッドのようで、ヒッチコックのような…クラシックな雰囲気のある映画に出るということは新境地かな?と思ったことです。それからギョームという、複雑なキャラクターを演じることにも興味がありました。あとは共演者です。キアラのように昔からよく知っている女性や、ダニエル・ダリューのようなキャリアのある人…みんな大好きな俳優ばかりです。
――ギョームを演じるために準備をしたことや、気をつけたことはなんですか?
撮影に入る前は、テニスのチャンピオンらしく見えるように肉体を鍛えました。貴族出身の“いいとこのお坊ちゃん”は、ゴルフとか乗馬とか大抵スポーツをやっているので、そういうことをやっていそうな肉体をつくるというアプローチです。演じているときに気をつけたことは、二つの顔を提示することです。これはミステリーですから犯人が途中でわかってはいけない。だから本当のことを言っているように嘘を言い、嘘を言っているようにみせかけて本当のことをいう…という。これは共演者のみんなが努力したことです。
監督はやはり自分の作品だけに、思い入れは相当。「時間の制限がなければ、作品について何時間だって語れるよ」と監督。一方、メルヴィルは「どんな時でも現場でユーモアを忘れず、家族のような雰囲気のなかで撮影ができた」と証言している。事件は一転二転し、最後まで犯人が誰なのかわからない。サスペンスの魅力満載の本作をぜひご覧いただきたい。
text:山下由美
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