フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団の《ウェルテル》に出演するふたりの若手歌手が、ベルリン・ドイツ・オペラに初登場した。テノールのジェイムズ・ヴァレンティは《椿姫》のアルフレード役、メゾ・ソプラノのケイト・オールドリッチはカルメン役での出演で、共になかなかの好評を博している。ヴァレンティは、目下アンジェラ・ゲオルギューが重用しているテノールで、今回も彼女との共演が予定されていた。ゲオルギューは最終的にキャンセルしてしまったが、ヴァレンティはアニヤ・ハルテロス、ノラ・アンセレムといったスターたちと立派に舞台を務めている。来年4月のメット・デビューもゲオルギューとの《椿姫》だが、なるほど彼女好みの(?)イケメン好青年。声に甘いカラーがあり、繊細なウェルテルのイメージにはまさにぴったりである。近い将来、より注目を集めるようになるのではないだろうか。
一方オールドリッチは、すでにヨーロッパではキャリアを積んでいる歌手である。筆者が初めて彼女の名前を聞いたのは、2001年にブッセートで行われたヴェルディ没後百年祭でのこと。フランコ・ゼッフィレッリ演出の《アイーダ》(アムネリス役)で、彼女はデビュー直後とは思えない自信に満ちた歌いぶりを示した。その直後からドイツ、イタリアの中劇場に出演するようになったが、最近はより大きな劇場での活躍が増えている。ベルリンでのカルメンは、美貌とスタイルの良さもあり、まさに誘惑的なものだったが、彼女が貞淑さの典型であるシャルロットをどう歌うのか、実に楽しみである。ちなみにオールドリッチの声は、同郷アメリカの大先輩ジェニファー・ラーモアのそれを思わせる。ロッシーニを多く歌うあたりもそっくりだが(ペーザロ音楽祭での《ゼルミーラ》や、スカラ座での《セヴィリアの理髪師》が予定されている)、彼女の声は、さらに劇的な役を歌うスケールも備えているようだ。今後、ベルカント・オペラやフランスもので、豊かな資質を開花させてゆくに違いない。
ベルリン・ドイツ・オペラでは、さらに大野和士もこの2月にデビューを果たしている。演目は、ヴィットリオ・ニェッキの《カッサンドラ》と、R・シュトラウスの《エレクトラ》という特異な2本立て。《カッサンドラ》は、この公演のために準備したものと思われるが、両作品ともレパートリー公演とは思えない、完成された演奏であった。今欧州で活躍している日本人指揮者で、もっともプロフェッショナルな仕事をしているのが大野だろう――そう思わせるほど、彼の指揮は、ゆるぎない自信と圧倒的な説得力に溢れていた。
Text:城所孝吉(ベルリン在住音楽ジャーナリスト)
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ジェイムズ・ヴァレンティ
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ケイト・オールドリッチ
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