おすすめの作品紹介<その2>

ただいま名古屋市美術館で好評開催中のだまし絵展。展覧会担当の保崎学芸員にさらにもう2作品、おすすめの作品をあげていただきました。

ドメニコ・ピオラ 《ルーベンスの"十字架昇架"の場面のあるアナモルフォーズ》

正しい見方を知る人だけが、真の姿を目にすることができるという「歪み絵」(アナモルフォーズ)。真ん中にパイプのような円筒の鏡をおく、というのがこの絵の秘密で、鏡には十字架に磔にされたキリストの姿が映し出されます。結構荒っぽく描かれた絵のような印象をうけるのですが、鏡にはかなりしっかりした絵が浮かびあがるので、実際に見るとそのギャップに驚きます。こうした「歪み絵」、いったい誰が何のために描いたのか…お遊びにしてはずいぶん手が込んでいます。どうやら17世紀の修道士たちがこれを秘密裡に研究していたようで、「一見無秩序に見える世界に、神の秩序(真理)を見出す」という思想が背景にあるそうです。つまり「この世の真実を映す鏡」の喩えなのですね。
この絵の原画はルーベンスの作品で、今は「フランダースの犬」のラストで有名なアントワープの大聖堂にあります。よくこんな複雑な絵を元ネタに選んだなあと感心する出来栄えです。

ドメニコ・ピオラ
《ルーベンスの"十字架昇架"の場面のあるアナモルフォーズ》
17世紀 油彩・キャンヴァス ルーアン美術館


呉春・松村景文
《柳下幽霊図》
18世紀 掛幅(描表装)
エツコ&ジョー・プライス・コレクション(カリフォルニア州)

呉春・松村景文 《柳下幽霊図》

この展覧会のカタログをめくってみると、幽霊の絵が5つも含まれています。幽霊の絵には、ちょうど映画『リング』のように、画面の枠を超えて飛び出してくるようなものが多いからなのですが、この掛軸はちょっと違って、柳を描いた画面のなかに幽霊の絵が含まれているというパターンです。うつろな目に蒼白の肌、前歯を剥き出しにして髪を咬む口…この幽霊、実は日本の幽霊画の中でも屈指の恐ろしさだそうです。その恐ろしさを助長するように、重い空気が周囲を取り囲みます。揺れる柳によって不穏な風を感じ、霞の滲みによってじめじめとした湿度を感じます。この雰囲気作りが実に見事。展覧会には、河鍋暁斎が描いた必見の《幽霊図》もあり、どちらも海外から来てくれました。話題性では西洋に押され気味の日本のだまし絵ですが、なんの、これらの幽霊を見るだけでもきっと価値があると思います。


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