おすすめの作品紹介<その1>

ただいま名古屋市美術館で好評開催中のだまし絵展。展覧会担当の保崎学芸員におすすめの作品を紹介してもらいました。

デ・スコット・エヴァンズ 《インコへのオマージュ》

まるで本物そっくりに物を描く。それだけでも「だまし絵」になりうる素質はありますが、手を伸ばしたら掴めそうなぐらいになれば、「絵に描いたモチ」といえども傑作になるかもしれません。箱や棚のように奥行きのあるものの中に、リアルな物が置いてあれば、3次元の感じが強まって、より手も伸ばしてみたくなるというもの。エヴァンズというアメリカの画家は、「インコの剥製箱」を描きました。インコや板の質感表現も見事ですが、手前に割れたガラス面があることによって、より本物のケースらしさ、奥行き感が強まっているのがポイントです。右下の張り紙には、このインコは生前フランス語を喋ったという説明があります。実はこの作品には「真似事が上手なのは、この画家もインコも同じ」というメッセージが隠されているそうです。だまし絵は、画家にとって自分の腕前をアピールする格好の手段だったんですね。

デ・スコット・エヴァンズ
《インコへのオマージュ》
1890年頃 油彩・キャンヴァス
フレズノ市博物館(カリフォルニア州)


コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ
《狩りの獲物のあるトロンプルイユ》
1671年 油彩・キャンヴァス
イクセル美術館(ブリュッセル)

コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ《狩りの獲物のあるトロンプルイユ》

壁に掛けた絵の前にカーテンがある、という光景は、17世紀のオランダの邸宅では特別なことではなかったようです。絵を見るときにはまずカーテンを開くという習慣につけ入ったのが、このだまし絵。半開きのカーテンの向こうに、「狩りの道具と獲物をおいたテーブルの絵」があるという設定です。わかりにくいですが、画面の周囲にはちゃんと額縁が描かれています。描かれたカーテンだけでも十分に「だまし絵」ですが、おもしろいのはここから。「テーブルの絵」があまりにリアルなので、ウサギやら鉄砲やら、あたかも本当の物が目の前にあるような感じがします。つまり、カーテンの向こうにあるのが「一枚の絵」なのか、静物画を装った「静止劇」なのか、区別がつかなくなってくるのです。ぜひ絵の前に立ってみてください。額縁の奥に手が吸い込まれて、ウサギの手を"むにゅっ"と掴めてしまいそうな気になりますよ。


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