27年ぶり 情熱前面に・・・
清水邦夫のこの長い題名の戯曲は、82年に蜷川幸雄演出により日生劇場で初演されたが、上出来とは言えない舞台だった。それを気にしていた蜷川が新しい演出で27年ぶりに再挑戦した。その結果、初演よりも格段に刺激的な群像劇が生まれた。
これはきわめて多義的な作品である。北陸のデパートで人気を集めていた少女歌劇団が戦災で消滅。その事態を受け入れられない元スターの風吹景子(三田和代)のために、相手役の弥生俊(鳳蘭)らが再集結し、「ロミオとジュリエット」を上演する、というのが大筋。だがここには同時に蜷川と清水がコンビを組んだ劇団櫻社の解体(74年)という現実のドラマが二重焼きになっている。
さらにこの舞台では60年代から70年代にかけての過激な政治闘争で倒れていった若者たちの姿も重ねられ、舞台では銃弾の音が鳴り響く。
初演ではこの多重性の中心にある切実なリアリティーが希薄だったが、今回の蜷川演出は登場人物たちが抱える痛切な思いと狂気に至る激しい情熱を強く押し出した。それは過剰な情熱が不足気味の現代へのアジテーションのようでもある。
少女歌劇の幻想に生きる景子役の三田は、そのクリアで表情豊かなせりふ回しを駆使して、明晰な狂気≠ニでも言うべきものを鮮やかに表した。男役スターを演じる鳳が放射するスケールの大きなオーラも見もの。毬谷友子の激しい歌が舞台のテンションを高める。
真琴つばさと中川安奈も硬質な演技を見せる。劇の途中から女装姿で登場するウエンツ瑛士が異彩を放つ。古谷一行、磯部勉、横田栄司、山本龍二らが共演。中越司美術、小峰リリー衣装、広崎うらん振り付け。
朝日新聞 2009年5月15日(金) 夕刊掲載
扇田昭彦・演劇評論家
※筆者の許諾を得て掲載しております。
|
撮影:谷古宇正彦 |
|
|