©Bill Cooper
 2月4日から6日にかけて、初台の新国立劇場中劇場にて行なわれたダンス公演「KAZAHANA 風花」に出演を果たした“ザ・スワン/ザ・ストレンジャー”役のホセ・ティラード。大熱狂のうちに終了した「白鳥の湖」ロンドン公演の千秋楽の次の日に、飛行機に飛び乗って来日し、すでに開始されていた「KAZAHANA」のリハーサルに合流するという何ともあわただしいスケジュールをこなした。
 「KAZAHANA」は、世界的に活躍する舞踊家・勅使川原三郎が、2004年5月にフランスのリール・オペラにて初演したもので、ホセは昨年の初演時からこの作品に参加している。今回の日本での上演はその改訂初演となり、振付家とダンサーたちが再び集い、作品をさらに練り直すリハーサル期間が設けられていた。稽古場を見学する機会に恵まれたが、「白鳥の湖」とは異なる、静謐な美の世界が紡ぎ出されてゆく空間で、勅使川原の物静かな指示に熱心に耳を傾け、自らも積極的に発言するホセの姿が印象に残った。ちなみに、12月の「白鳥の湖」公演中にロンドンで行なったインタビューにおいても、“ザ・スワン”の動きを体現するにあたって、この「KAZAHANA」の初演のリハーサルで体得した手足の動かし方などが生かされているのだと、ホセは勅使川原三郎に与えられた影響の大きさについて語っていた。
 舞台では、ホセは主にソロ・パートを担当。「白鳥の湖」のワイルドでエネルギッシュな動きとはまったく異なる、勅使川原独特の細やかなムーヴメントを真摯にこなしてゆく。187センチという大柄な体躯でありながら、決して大味な印象を与えることなく、繊細な表現も得意としているところが、彼のダンサーとしての強みであり、「白鳥の湖」でも大いに発揮されている美点だ。世界各国から集まった優れたダンサー揃いのこの公演の中でも、ひときわオーラを放っていたのも印象的だった。
 公演終了翌日の7日、再び飛行機に飛び乗ってロンドンへ戻り、「白鳥の湖」のリハーサルに合流するという忙しさの中、ホセがコメントを寄せてくれた。
 「『白鳥の湖』とはまったく違うタイプのムーヴメントが取り入れられた『KAZAHANA』を日本で踊れたことはすばらしい経験だったし、この体験が、『白鳥の湖』日本公演にも大いに生きてくると思う。『白鳥の湖』も、ロンドンでの一ヵ月半の公演を終えたとき、最初の頃と最後の方では自分の踊りがまったく異なっていることを、大きな手応えとして実感することができたんだ。技術的な意味でも、それから何より感情的な側面という意味でも、さらに深く役柄になりきることが可能になったし、もっともっと自分自身のスタイルを追求し、表現することもできるようになったと思う。『白鳥の湖』を踊ることは、僕自身にとっても大きな喜びなので、日本の観客のみなさんにもぜひ公演を楽しんでもらいたいと心から願っているよ」
 異なるタイプの作品で、優れたダンサーぶりを発揮したホセ・ティラード。ロンドン公演千秋楽よりさらにパワーアップした“ザ・スワン/ザ・ストレンジャー”として日本の舞台に現れることを、大いに期待したい。
text by 藤本真由(フリーライター)