クリスマスを目前に、Bunkamuraオーチャードホールでベルギー王立歌劇場来日公演のプレイベントが行われました。
オペラへの深い理解と愛情を持つマエストロ・大野和士が、情熱的なピアノの演奏を交えながら「ドン・ジョヴァンニ」の魅力を語ったイベントのもようをお伝えいたします。

出 演: 大野和士(ピアノとお話)
石上朋美(ソプラノ)
林美智子(メゾ・ソプラノ)
山下浩司(バスバリトン)
日 時: 12月22日(水)開場18:00 開演19:00
終了20:30(休憩なし)
場 所: Bunkamuraオーチャードホール
 2005年10月、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」で待望の初来日を果たすベルギー王立歌劇場。このたび、同歌劇場の音楽監督を務める指揮者・大野和士が来日、同プロダクションの魅力を語るという、音楽ファン注目のイベントが行なわれた。
 Bunkamuraオーチャードホールに集まった500人を超える観衆の前にさっそうと登場した大野は、まず、ベルギー王立歌劇場の特色から話をスタート。ベルギーの首都ブリュッセルの、かつて造幣局(ラ・モネ)があった場所に建てられたことから、同歌劇場が「モネ劇場」という名前でも親しまれていること、ベルギーはオランダ語、フランス語、二つの言語による文化圏から成る国であるゆえ、オペラ公演の際の字幕の表示にもいろいろと配慮がなされていることなど、興味深い話題が続く。フランスからもドイツからもほぼ等距離に位置しているベルギーは、双方の文化に拓かれているという利点をもち、ワーグナーの「ワルキューレ」「ジークフリート」等をはじめとするさまざまな名作オペラのフランス語版の初演も、パリより一足先にモネ劇場で行なわれてきたという歴史があるそうだ。
 続いては、音楽監督に就任して以来経験してきた、さまざまな演出家たちとのエピソードを披露。アートと舞台芸術、双方のフィールドで活躍するヤン・ファーブルとオペラ「タンホイザー」で仕事をしたときは、舞台上に全裸のダンサーと妊婦が登場、指揮していて目のやり場に困った話などが、コミカルな身ぶりもまじえながら語られる。ちなみに、来日する「ドン・ジョヴァンニ」を手がけたデイヴィッド・マクヴィカーは、スコアを暗譜しているのみならず、レチタティーヴォ(話すように歌う部分)にいたるまですべて自分で歌えるそうで、舞台上での人物の交通整理に見せた頭脳明晰さには、大野も大いに感服している様子だ。
 さらに、「ドン・ジョヴァンニ」の音楽的魅力へと話は進み、ソプラノの石上朋美、メゾ・ソプラノの林美智子、バス・バリトンの山下浩司が舞台に登場。三人の歌手による実際の歌唱をまじえながら、モーツァルトの音のもつ写実性や、人間の内面を深くとらえたその作曲術について、大野自身がピアノを弾きながら解説してゆく。三人の熱唱・熱演もあって、説明もさらにわかりやすいものとなり、「ドン・ジョヴァンニ」というオペラがより身近なものに感じられてくるようだった。
 「ドン・ジョヴァンニ」の魅力のみならず、ユーモアをさしはさみつつ、気さくに軽妙にトークを展開してゆく大野自身の人間的魅力も味わえた好イベントは、予定時間を十五分ほどオーバーして終了。来年の公演がますます楽しみになってきた。
text by 藤本真由(フリーライター)

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