第31回 2004年9月12日(日)15:30開演
 ジュゼッペ・ヴェルディ(1813〜1901)は、イタリアを代表するオペラ作曲家。ワーグナーと同じ1813年に生まれ、70歳を越えてもオペラを作曲し続け(最後のオペラ《ファルスタッフ》を書き上げたときには79歳になろうとしていた)、生涯に28のオペラ(改作を含む)を残した。
 本日は、中期の《ルイザ・ミラー》(1849年)、《椿姫》(1853年)、《シチリア島の夕べの祈り》(1855年)、後期の《アイーダ》(1871年)からのアリアや序曲や間奏曲が取り上げられる。ヴェルディは《オテロ》、《ドン・カルロ》、《シモン・ボッカネグラ》、《リゴレット》などの男っぽい骨太のオペラのイメージが強いが、本日の4作品はどれもヒロインを中心とするオペラである。そんな選曲にもマエストロ・サンティのこだわりが感じられる。
歌劇 「ルイザ・ミラー」序曲
歌劇 「椿姫」第1幕から 〜 ああ、そはかの人か ― 花より花へ
歌劇 「椿姫」第3幕前奏曲
歌劇 「アイーダ」第3幕から 〜 おお、わがふるさと
歌劇 「シチリア島の夕べの祈り」序曲
歌劇 「シチリア島の夕べの祈り」から 〜 ありがとう、愛する友よ

指揮 ネルロ・サンティ
ソプラノ アドリアーナ・マルフィージ
ヴェルディ オペラのアリア・序曲集(曲目同上)
チャイコフスキー 交響曲第6番ロ短調「悲愴」op.74
 
指揮:ネルロ・サンティ ソプラノ:アドリアーナ・マルフィージ
※やむをえず出演者、曲目等が変更になる場合があります。予めご了承ください。
【曲目解説】山田治生
 本日はイタリア・オペラの権威として知られるネルロ・サンティ氏の登場です。早くからウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場などの一流歌劇場で活躍し、近年はNHK交響楽団とも良好な関係を築いています。レパートリーとするオペラの隅々までを知り尽くし、暗譜で指揮する姿は、まさに本物の巨匠。本日はそんなマエストロの十八番ともいうべきヴェルディのオペラの音楽が取り上げられます。独唱はサンティ氏やN響から厚い信頼を得ているアドリアーナ・マルフィージさん。ヴェルディのオペラの代表的な3人のヒロインのアリアを歌います。そして、後半はチャイコフスキーの交響曲第6番《悲愴》。マエストロはチャイコフスキーを得意とし、N響ともこれまでに交響曲第2番《小ロシア》や幻想序曲《ロメオとジュリエット》で名演を繰り広げてきました。チャイコフスキーの最高傑作である《悲愴》ほど、“シンフォニー指揮者”としてのサンティ氏の真価を聴くにふさわしい作品はないでしょう。


◆歌劇《ルイザ・ミラー》序曲
 《ルイザ・ミラー》の原作はシラーの戯曲「たくらみと恋」。1849年12月8日、ナポリのサン・カルロ劇場で初演された。
 舞台は17世紀初頭のチロル地方。村娘ルイザは領主の息子ロドルフォを愛してしまう。しかし、邪悪なヴルムは領主と組んでこの恋に邪魔をする。ヴルムと領主のたくらみにより、ルイザは父ミラーの命と引き替えに、ロドルフォとの愛をあきらめる。結局、ルイザとロドルフォがともに毒をあおった後、ルイザはロドルフォに真実を話す。
 序曲は悲劇的な主題を中心にしたドラマティックな音楽である。単独でも演奏されることのある名曲。

◆歌劇《椿姫》から「ああ、そはかの人か〜花より花へ」、第3幕前奏曲
 歌劇《椿姫》は現在、最も人気のあるオペラの一つになっているが、1853年3月6日、ヴェネツィアのフェニーチェ座での初演が失敗に終わったエピソードは有名。《椿姫》の原題である「ラ・トラヴィアータ」は「道を誤った女」という意味。作曲当時(1850年頃)のパリが舞台となっているが、同時代の出来事を扱うことは、当時のオペラでは珍しいことであった。パリの高級娼婦ヴィオレッタと南仏プロヴァンスの地主の息子アルフレードの悲恋を描くこのオペラは、初演当時はかなりスキャンダラスに思われたに違いない。
 「ああ、そはかの人か〜花より花へ」は、ヴィオレッタが第1幕の最後に歌う長大なアリア。本当の愛を知らないヴィオレッタがアルフレードと出会い、真実の恋に目覚めていく気持ちと、それに戸惑い揺れる心が、息詰まるような音楽にのって表現されている。
 第3幕の前奏曲はヴィオレッタの病気を暗示するかのような悲しげな音楽。

◆歌劇《アイーダ》から「おお、わがふるさと」
 《アイーダ》はヴェルディの最後から3つめのオペラ。当時のイタリア最高のオペラ作曲家であったヴェルディは、スエズ運河の開通を記念するオペラの作曲の依頼を受け、一度は断ったが、再度の要請に応えて、古代エジプトを舞台とする《アイーダ》を作曲した。初演は、1871年12月24日、カイロのオペラ座で行われた。
 エジプトの若き将軍ラダメスは、エジプト王女の女奴隷アイーダ(実はエチオピア王の娘)と密かに愛し合っている。ラダメス率いるエジプト軍はエチオピア軍を撃破するが、ラダメスはアイーダを妻に迎えることができない。その後、ラダメスは罠にかかり軍事機密漏洩の罪で死刑を宣告される。ラダメスが生き埋めにされようとしている地下牢にアイーダが忍び込み、二人は一緒に死んでいく。
 「おお、わがふるさと」はアイーダが第3幕で歌うアリア。月の輝く夜、ナイル河畔のイシスの神殿の前で、アイーダが、ラダメスを待つ間に、もう二度と見るこのないであろう故郷エチオピアを思い出す。オーボエの奏でるあし笛のような旋律が哀愁を誘う。

◆歌劇《シチリア島の夕べの祈り》から序曲、「ありがとう、愛する友よ」
 《椿姫》の次の作品にあたる《シチリア島の夕べの祈り》は、パリのオペラ座からの依頼に応えて作曲された。パリの聴衆の好みのグランド・オペラの形式(5幕からなり、バレエを含む)を採り入れている。初演は、1855年6月13日、パリ・オペラ座で行われた。
 舞台は、1282年、シチリア島のパレルモ。当時のシチリア島はフランスの支配下にあった。前シチリア大公の妹エレナ(彼女は兄の復讐を心に誓っていた)とフランス打倒を目指すシチリアの若者アッリーゴは愛し合っている。ところが、アッリーゴがシチリアを支配する総督モンフォルテの息子であると判明する。総督は、フランスとシチリアの和解を意図して、アッリーゴとエレナ公女との結婚を許す。しかし、二人の婚礼が始まると、シチリアの民衆たちは蜂起し、手薄になったフランス軍を撃破し、フランス人たちを虐殺するのだった。
 序曲は、しばしば単独でも演奏される、オペラ本編の音楽を素材として一つにまとめあげた名曲である。緊張感をはらんだ序奏の後、激しい主部となる。そしてチェロが雄大な旋律を歌う。
 「ありがとう、愛する友よ」は第5幕でエレナ公女が婚礼を祝う合唱に応えて歌うアリア。そのリズムから“ボレロ”とも呼ばれている。

◆チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 《悲愴》 作品74
 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840〜1893)は、イタリアから遠く離れたロシアに暮らしていたが、ヴェルディとは同時代人であった。正確にいうと、チャイコフスキーの生きていた時代は、ヴェルディの長い創作時期にすっぽりと収まる。二人はともに19世紀後半を代表する作曲家であったのだ。
 チャイコフスキーにとって最後の交響曲である交響曲第6番《悲愴》は、1893年に完成された。チャイコフスキーは、同年10月にモスクワでこの交響曲の初演の指揮を行い、その9日後に謎の死を遂げてしまう。享年53歳。まさに創作活動の絶頂期における突然の死であった。《悲愴》のタイトルは、彼の弟のモデストの発案によるもので、チャイコフスキーはそのアイデアが気に入って、直ぐにスコアの表紙にタイトルを書き加えたといわれている。

 第1楽章 アダージョ〜アレグロ・ノン・トロッポ。アダージョの序奏とアレグロ・ノン・トロッポの主部からなる。冒頭のファゴットの旋律は、主部に入ったところでヴィオラの奏でる第1主題に発展する。第2主題は、第1主題と対照的な、弦楽器で歌われる甘美なもの。
 第2楽章 アレグロ・コン・グラツィア。2拍子と3拍子が組み合わされた4分の5拍子で書かれている。優美な舞曲的な性格をもつ。三部形式。中間部は哀愁を帯びた音楽となる。
 第3楽章 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ。行進曲風のスケルツォ楽章。8分の12拍子のスケルツォと4分の4拍子の行進曲からなり、2つが絡み合いながら、最後は壮大な音楽となる。
 第4楽章 アダージョ・ラメントーソ。勇壮な第3楽章とは対照的な哀しみの音楽。三部形式。中間部で広々とした音楽となるが、それも長くは続かず、激情をともなって主部が再現される。そして、銅鑼の音が響き、最後は、まるで「生との訣別の」ような静かな音楽で締め括られる。



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