チャイコフスキーは、1888年の夏に一気に交響曲第5番を書き上げた。純器楽的な交響曲としては、1877年末に完成させた交響曲第4番以来、11年ぶりの新作であった(ただし、1885年に標題的な「マンフレッド交響曲」を書いている)。ちなみに最後の交響曲である交響曲第6番「悲愴」を完成させるのは、5年後の1893年のことである。
交響曲第5番の一番の特徴は、第1楽章冒頭でクラリネットが提示する主題(しばしば「運命の主題」といわれる)が姿を変えながら各楽章に現れ、作品全体の統一感を生み出しているところにある。そして、全体は「暗から明へ」という構成をとっている。また、通常、交響曲では第3楽章を「スケルツォ」とすることが多いが、この交響曲では「スケルツォ」の代わりに「ワルツ」が採用されている。「花のワルツ」や「弦楽セレナード」の第2楽章など、ワルツの作曲を得意としたチャイコフスキーらしいアイデアといえる。1888年11月17日、ペテルブルクにおいて、作曲者自身の指揮によって初演された。
第1楽章:アンダンテ〜アレグロ・コン・アニマ。ソナタ形式。まず、クラリネットが「運命の主題」を提示する。序奏の後、アレグロの主部に入り、クラリネットとファゴットがリズミックで暗い第1主題を吹く。第2主題は、弦楽器が奏でる、シンコペーションのリズムによる優美なもの。
第2楽章:アンダンテ・カンタービレ、コン・アルクーナ・リチェンツァ(いくぶん自由に)。三部形式。まずホルンが哀愁を帯びた甘美な旋律を吹き、オーボエがそれに応えて新たな旋律を歌う。クラリネットの暗い旋律で中間部に入るが、トランペットなどが厳然と吹く「運命の主題」によって断ち切られる。その後、オーケストラ全体によって主部が再現され、大きなクライマックスを築いていくが、ここでも突然、トロンボーンなどが「運命の主題」を強奏する。
第3楽章:「ワルツ」、アレグロ・モデラート。優美なワルツ。中間部は弦楽器のスピッカートによる速い動きの音楽。最後に、クラリネットとファゴットが「運命の主題」をさりげなく吹く。
第4楽章:「フィナーレ」、アンダンテ・マエストーゾ〜アレグロ・ヴィヴァーチェ。ソナタ形式。序奏では長調に転じた「運命の主題」が弦楽器によって厳かに奏でられる。主部に入ると、弦楽器による荒々しい第1主題、木管楽器によって広々と歌われる第2主題、金管楽器による「運命の主題」などが、壮大なドラマを繰り広げていく。そしてコーダでは、長調に転じた「運命の主題」が勝利の喜びを表すかのようにオーケストラ全体で高らかに歌い上げられる。 |