第27回 2004年1月28日(水)19:00開演 |
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47
フォーレ:ペレアスとメリザンドop.80
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版) |
指揮:シャルル・デュトワ
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ |
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指揮:シャルル・デュトワ |
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ |
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【曲目解説】山田治生 |
昨年6月にNHK交響楽団音楽監督を退任したシャルル・デュトワがN響に名誉音楽監督として戻ってきました。
超一流のオーケストラ・トレーナーであるデュトワは、音楽監督時代、N響のアンサンブルを磨き上げ、N響から彩り豊かな音色を引き出しました。また彼は、フランスやロシアの音楽を積極的に取り上げ、それまでドイツ音楽に偏りがちだったN響に一層の柔軟性をもたらしました。そしてデュトワ&N響は日本の音楽界に一つの時代を築き上げたのでした。本日の演奏会では、そんな黄金コンビの極めつけのレパートリーが再現されます。前半のワーグナーの歌劇《さまよえるオランダ人》序曲とシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、97年4月のヨーロッパ演奏旅行で取り上げられ、同年6月の定期公演のプログラムともなりました。後半はデュトワが十八番とするフランス音楽とロシア音楽。フォーレの組曲《ペレアスとメリザンド》はデュトワがN響の常任指揮者に就任した最初の定期公演(96年11月)で演奏されています。ストラヴィンスキーはデュトワが最も得意とする作曲家。《火の鳥》は2002年9月の定期公演で全曲版を指揮しています。それでは、デュトワ&N響の演奏をたっぷりとお楽しみください。 |
◆ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》序曲 |
歌劇《さまよえるオランダ人》は、リヒャルト・ワーグナー(1813-83)が弱冠28歳で書き上げた、彼の初期の傑作である。オランダ人船長は、悪魔の呪いを受けて永遠に海をさまよう宿命を与えられていた。ただ、7年に一度、上陸を許され、生涯の貞節を誓う女性と巡り会ったならば、その呪いは解けるのであった。ノルウェーの港でオランダ船と出会ったノルウェー船の船長ダーラントは、オランダ人船長が財宝を有していることを知り、娘のゼンタを彼の妻にするように申し出る。同じ頃、父の帰りを待つゼンタは、さまよえるオランダ人を救えるのは自分だと予知している。父が家にオランダ人を連れて帰り、ゼンタとオランダ人は運命の出会いを遂げる。ゼンタはオランダ人に永遠の貞節を誓う。しかし、ゼンタを昔から愛している猟師エリックが彼女を引き留めようと説得する。それを聞いていたオランダ人はゼンタに絶望し、船を出航させる。ゼンタは彼を追って海に身を投げ出す。ゼンタの命をなげうった愛によって呪いが解け、オランダ人は救済を得るのであった。
序曲では、オペラのなかの音楽が巧みに用いられている。まずは北の海が荒れ狂う情景。ホルンを中心とした勇ましい吹奏は「オランダ人の動機」。弦楽器の半音階の上昇と下降が波のうねりを思い起こさせる。そして、イングリッシュホルンがおだやかな「救済の動機」を歌い始める。中程で、木管楽器に陽気な「水夫の合唱」の旋律も現れる。最後は、「救済の動機」や「オランダ人の動機」によって壮大なクライマックスが築かれる。
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◆シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 |
フィンランドの国民的な作曲家ジャン・シベリウス(1865-1957)は、14歳のときにヴァイオリンを始め、急速な上達を遂げ、プロのヴァイオリニストを志すほどの腕前になった。しかし、極度のあがり症のために演奏家になることを断念し、作曲に専念するようになったといわれている。それでも、シベリウスにとってヴァイオリンはずっと特別な楽器であり続けたに違いない。
シベリウスのヴァイオリン協奏曲は、《フィンランディア》(1899)の成功の後、交響曲第2番(1901)と交響曲第3番(1907)との間の時期に作曲された。1904年にヘルシンキで初演されたが、評判は芳しくなく、作曲者は改訂の必要を悟った。シベリウスは、オリジナル版を取り下げ、すぐにこの協奏曲を全面的に書き直した(たとえば、第1楽章の二つ目のカデンツァを削除し、第3楽章にも省略を施した)。改訂版は1905年にベルリンで初演された。現在、通常に演奏されているのは、この1905年の改訂版(決定稿)である。北欧の抒情とヴァイオリンの魅力が十分に引き出された傑作として現在に至るまで頻繁に演奏され続けている。
第1楽章:アレグロ・モデラート。自由なソナタ形式。全曲中最も演奏時間の長い楽章。まずヴァイオリン群のささやきをバックに独奏ヴァイオリンが清らかな第1主題を奏でる。その旋律には、清澄さとともにほの暗い情熱やロマンも感じられる。途中で現れるヴィオラのソロとの絡みも聴きどころの一つ。独奏ヴァイオリンのカデンツァは楽章の中程に置かれている。
第2楽章:アダージョ・ディ・モルト。自由な三部形式。歌謡的な緩徐楽章。木管楽器のやわらかな音楽で開始されるが、中間部ではオーケストラ全体が高揚する。
第3楽章:アレグロ。ティンパニと低弦楽器の弾むようなリズムによって導かれる。前の二つの楽章とは対照的な躍動的な音楽。その暗から明へのコントラストが見事。民族舞曲のステップを思わせるような主題も現れる。
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◆フォーレ:組曲《ペレアスとメリザンド》 |
《青い鳥》の作者としても知られるメーテルランクが書いた戯曲《ペレアスとメリザンド》(1892)は同時代の芸術家たちを刺激し、この芝居からはフォーレの劇付随音楽(1898)のほか、ドビュッシーのオペラ(1902)やシェーンベルクの交響詩(1905)、そしてシベリウスの劇付随音楽(1905)などが生み出された。これらのなかで最初に書かれたのはこのファーレの音楽である。《ペレアスとメリザンド》は、メリザンドと結婚したゴローが自分の異父弟ペレアスとメリザンドとの関係を疑い、ついにはゴローがペレアスを刺してしまう、という悲劇。
1898年、ガブリエル・フォーレ(1845-1924)は、戯曲《ペレアスとメリザンド》のロンドン初演に際し、その付随音楽の作曲を依頼された。まもなくフォーレは17曲からなるピアノ・スコアを書き上げたが、パリ音楽院の教授としての公務に忙しく、オーケストレーションは弟子のケクランに任せた。フォーレはその後、付随音楽のなかから3曲を選んで、編曲し直し、それらに「シシリエンヌ」を加えて、現在演奏される形での「組曲」とした。4曲からなる組曲は、1912年に初演されている。
「前奏曲」:おだやかなメリザンドの主題で始める。音楽が少し高揚し、細かな3連符の動きに乗って第2主題が現れる。後半のホルンの信号はゴローの登場を暗示する。
「糸を紡ぐ女」:メリザンドが糸を紡いでいるシーンの音楽。糸車の回転を表すかのような弦楽器の速い3連符の動き。オーボエが素朴な旋律を歌い始める。
「シシリエンヌ」:誰もが一度は耳にしたことのある哀愁を帯びた旋律。もともとはチェロとピアノの作品として1893年に作曲され、後に《ペレアスとメリザンド》に転用された。ハープの伴奏に乗って、フルートが8分の6拍子の優美なシチリア舞曲を歌い出す。
「メリザンドの死」:ペレアスは刺し殺され、メリザンドは子供を産んで、死の床についている。重い足どりの死の音楽。悲しみは次第に高まっていく。 |
◆ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版) |
バレエ音楽《火の鳥》は、ディアギレフの主宰するロシア・バレエ団からの依頼で1909年に作曲された。1910年の初演は、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)にとっての最初の大きな成功となり、以後、彼は、ロシア・バレエ団のために《ペトルーシュカ》や《春の祭典》などの傑作を発表していく。
《火の鳥》のストーリーはロシアの民話に基づいている。王子が魔王カスチェイに囚われていた王女たちを救い出そうとするが、逆に捕らえられてしまう。しかし、かつて王子が逃がしてやった火の鳥が現れ、彼らを助け、最後に王子は一人の王女と結ばれる。
本日演奏される組曲は、作曲者自身がオリジナルのバレエ音楽からのダイジェストを演奏会用にまとめたもの。組曲にはいくつかの版があるが、本日は二管編成に基づく1919年版が取り上げられる。
「イントロダクション」は魔法の国の夜。「火の鳥とその踊り」で、火の鳥が王子の前に現れて踊り始め、「火の鳥のヴァリアシオン」で火の鳥の踊りが繰り広げられる。「王女たちのロンド」は、魔女カスチェイに囚われている王女たちのロマンティックな踊り。「カスチェイ王の凶暴な踊り」は、火の鳥の魔法によってカスチェイとその手下たちが踊り狂うシーンを描く。踊り疲れたカスチェイたちは、火の鳥の歌う「子守歌」で深い眠りに落ちる。「終曲」は王子と王女の結婚式。華やかなロシアの婚礼のシーンが目に浮かぶようだ。
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