
彗星のように現れて一瞬にして消えた、地方の少女歌劇団の話なんですね。かつて熱い思いを抱いていた集団が崩壊して、ある日夢のように還ってきた。関わった人たちは何を考え、何を感じたのか。過去を振り返ることは希望かもしれないし、捨て去るべきことかもしれない。でも、そこに確かにあった“熱い思い”を検証したいんですよ。
実はこれ、僕にとっては痛恨の作品なんだ。簡単に言えば初演は失敗だった(笑)。女性キャストは全員元宝塚の人たちに出てもらったんだけど、宝塚ファンは“ケーキを食べに行ったらキムチ食わされた”みたいな感じだったんじゃないかな。でも清水のホンはすごく面白かったから、もう一度キチッとやり直さないと死ねねぇな、と思ってね。かつての自分と向き合いたいという、僕自身の思いもあるわけです。
団塊から上の世代にとっては身近な物語のはずだし、その世代をあざ笑う批判者としての若い世代も、清水は客観的に描いてる。だからいろんな世代の人に観てほしい。もちろんショーアップもするから、ショーが好きな人も楽しんでもらえると思いますよ。
今、世の中が停滞してるでしょ。未来の展望なんて何も持てない。でも、そんな淋しい時代だからこそ、熱いメッセージを激しく叩き付けたいんだ。美しくて、激しくて、ノスタルジックで、闘争的で。そんな舞台をつくりたい。そして今度こそ、成功させたいね!
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とにかくこの作品、宝塚出身の私には思い当たることがたくさんあって。清水邦夫さんは経験のない世界なのに、よく分かっていらっしゃるんだなぁ、と。宝塚を退団してどれだけ経っても、一瞬で華やかなあの時代に戻れるんですよ。ファンの人たちも同じで、みんな私の前では少女の頃に戻れる。もう孫がいる人もいるのにね(笑)。そうやって青春時代に戻っている自分を、お互いに楽しんでるの。現実は厳しいことが多いからこそ、その時だけが心地よくて幸せな時間なんです。劇中、石楠花(しゃくなげ)歌劇団のファンだった「バラ戦士の会」の男性たちが、若い頃に憧れていたスターの夢を一生懸命叶えてあげようとします。お金がもらえるわけでも何でもないのに、それが無償の愛。その人の幸せを願うことが、自分の幸せなんですね。この本にはそれがよく描かれているんです。 |
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もともと、実際にあった出来事にすごく心惹かれるんです。実はこのお話をいただく前に、作品のモデルになった地方の少女歌劇団について書かれた本を読んでいたんですよ。そういう本があることを人に教えられたときに、すごく興味をかきたてられて。だから今回はたぐり寄せられた糸というか、不思議なつながりを感じますね。 台本を読んで、とても幻想的なイメージを持ちました。いろいろな色が混じり合っているような。私が演じる理恵は鳳さんの妹役ということで、一番のネックは顔つきの違いです(笑)。それはともかく、スターを身内に持った者の複雑さは、確実にあると思うんですね。戦争に夢を遮断されたまま、だんだん過去に帰っていく姉の姿をどんな気持ちで見ていたのだろうかと……。「お姉さん」という言葉に大きな意味があると思っています。 何しろ初めての蜷川さんですから、かなりドキドキしますね。でも、鳳さんをはじめ宝塚の大先輩がいらっしゃるのは心強い限りです。自分が重ねてきた過去はどうしても出るものだと思うので、そこからいかに方向性を変えていくか。自由な自分でいられれば、と思っています。蜷川さんは「過激な老人」を目指していらっしゃるそうですが、私は「ハンサムなおばあさん」を目指しているので、お会いするのがとても楽しみです。 |
(取材・文=市川安紀)
