演劇史上最も軽やか、だけではない『どん底』、誕生。
ある木賃宿に、人生へのあきらめしか持ち合わせていない住人たちが巣食っている。
アルコール中毒の元役者、哲学かぶれ、鍛冶屋と、今にも病死しそうなその妻、文句ばかりの帽子屋、男性不信の饅頭売りの女、恋物語の妄想にふける娼婦、気取った元貴族、賭け事に興じる警官、そして夜な夜な集まる労働者や浮浪者たち・・・。
強欲な木賃宿の大家夫妻に悪態をつきながら、お互いにいがみ合いながらの生活。
最近の住人たちの興味は、若い泥棒と、木賃宿の妻との不倫の関係が終わるのではないか、ということだった。男は、こんな状況の中でも純粋さを忘れない妻の妹に惹かれ始めている。不穏な空気が漂う中、謎の男が現れる。その男はしばし木賃宿の面々を観察したのち、皆に新しい世界≠説き始める。「人間は、変わろうと思えば、いつでも変われるんだ」と。
悲惨な状況でもどこか享楽的で楽観的な空気が漂っていた木賃宿の日常のバランスが崩れ始める・・・。