ヴィオラを知れば、アンサンブルがもっと面白くなる
皆さんは「ヴィオラ」という楽器にどんなイメージをお持ちでしょうか? ヴァイオリンよりもひとまわり大きく、アンサンブルでは中音域を担うヴィオラ。その奥深い魅力について、ヴィオラとヴァイオリンの両方を第一線で演奏する横溝耕一さんに語っていただきました。
じつはサイズが決まっていない?!
まず、楽器のサイズについて。ヴァイオリンよりもひとまわり大きいヴィオラですが、実際にはどれくらい違うのでしょう?
「ヴァイオリンは基本的にサイズが決まっていますが、ヴィオラは楽器によってさまざま。僕が今使っているヴィオラは胴長(ボディの長さ)が41cmというスタンダードなサイズですが、39cmほどから42cmを超えるものまで、けっこう幅があります。というのもヴィオラの場合、このサイズがベストだという正解がまだ見つかっていないんですよ。ちょっとロマンがありますよね。製作家も、胴長を長くしたり、幅を広くしたりと、試行錯誤しながら進化を続けているのがヴィオラの面白いところです」
次に、音域について。弦楽器は、ヴァイオリン → ヴィオラ → チェロ → コントラバスと、楽器が大きくなるにつれて音域が低くなっていきます。
「ヴィオラはヴァイオリンよりも低い音まで出せる一方、高い音に関しては、じつはヴァイオリンと同じぐらいの高さまで出すことはできます。ですから、音域はヴァイオリンより広いといえるかもしれません。もっとも、高い音のどこまでを“音”と認識するかにもよると思いますが。ちなみに、ヴィオラはよく“人間の声の音域に近い”と言われます。でも、チェロについても同じことが言われるので、ケンカになるんですよね(笑)」
ヴィオラならではの音色の魅力とは、どんなところにあるのでしょう?
「あたたかみのある音色ですよね。ヴァイオリンのキラキラした音色も素敵ですが、ヴィオラの安らぎを与えるような、優しく、ふくよかな音色が、この楽器ならではの持ち味だと思います。たとえばブラームスはヴィオラの音色が好きだったそうですが、やはりそういった魅力を活かすのが上手だなと感じます」

アンサンブルにおいては、中音域で内声を担うヴィオラがハーモニーの鍵を握る場面も多いと横溝さんは語ります。
「“内声”というのは、すごくシンプルに話すと、チェロがド、ヴァイオリンがソを弾く場合、真ん中のミを弾くのがヴィオラだとします。このミをナチュラルで弾くか、フラットで弾くかによって、響きが明るくなるか、暗くなるかが決まる。これが内声です。たとえば音楽を聴いていて、華やかなワルツなのに、どこか悲しげだなと感じたら、ヴィオラが暗いハーモニーを作っているのかもしれません。
先日、オーケストラでブルックナーの交響曲第8番を演奏したのですが、ヴィオラ・パートを弾くことで発見したことがたくさんありました。ヴィオラが少しずつハーモニーが変化していくきかっけを作って、クライマックスに向けて盛り上げていく役割を担うんです。ヴィオリストにブルックナーが好きな人が多い理由がわかる気がしました」
内声を支え、ときには深い音色でメロディも
ヴィオリストには、ヴァイオリンから音楽の道に入り、その後ヴィオラに転向した人が多いといいます。横溝さんがヴィオラと出会ったのは、桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)の1年生のときでした。
「桐朋では、ヴァイオリン科の生徒も全員ヴィオラを弾く授業がありました。ヴィオラはト音記号ではなくハ音記号で書かれた楽譜を使うのですが、誰もハ音記号を読めないなか、僕は割とすぐ読めるようになったんです。そうしたら、途端に室内楽でもオーケストラでも、ヴィオラのオファーがたくさん来るようになって(笑)」
NHK交響楽団では第1ヴァイオリン、サイトウ・キネン・オーケストラや室内楽アンサンブルなどではヴィオラ、ふたつの楽器を同じぐらいの比重で演奏する横溝さん。楽器が変わっても、音楽への向き合い方に変わりはないそうです。
「二足の草鞋を履く生活をかれこれ20年以上続けてきましたが、両者の違いを意識したことはほとんどありません。たしかに、ヴァイオリンに比べてヴィオラは音の立ち上がりが悪いので、弦に弓をあてて発音する際のテンションのかけ方などに違いはあります。けれど、ただ力をかけて鳴らすのではなく、脱力した状態で倍音を響かせるような奏法は、ヴァイオリンを弾くときにも生きてくるテクニックなんですよね」
では、横溝さんにとってヴィオラとは? そう問いかけると、少し意外な答えが返ってきました。
「僕は今まで、ヴァイオリンで“この曲を弾きたい!”と思ったことって、あんまりないんですよ。でも、ヴィオラで弾きたい曲はたくさんあります。正直なところ、ヴァイオリンは思い通りに弾けたと感じたことが一度もなくて、だからこそ続けているというのもあります。それに対してヴィオラは、もっと自由に、自分の出したい音、やりたいことを表現しやすい楽器だと思っています。リハーサルをしていても、ヴィオラを弾いているときの方が、いろいろなアイデアが湧いてきて、提案したいことも出てくるんです」

そう語る横溝さんが、チェロの宮田大さんと立ち上げた『室内楽フェスティバル AGIO』では、横溝さんのヴィオラをたっぷり味わうことができます。
「オープニング・コンサートで取り上げるショスタコーヴィチは、ヴィオラという楽器が、単体でも活躍できる可能性を理解している作曲家だったので、ヴィオラの魅力的なメロディがたくさん登場します。今回弾くのはピアノ五重奏曲ですが、ショスタコーヴィチ最後の作品となったヴィオラ・ソナタは、いつかチャレンジしてみたい曲ですね」
アンサンブルでは内声を支えつつ、ときに深い音色でメロディを奏でるヴィオラ。そんなヴィオラの奥深さにはまったら、室内楽がよりいっそう面白くなるかもしれません。
「ヴィオラはある意味、中間管理職のような目立ちにくい存在。ヴィオリストにも、自分を見つけてほしい、自分の音を届けたいという意識が強い奏者もいれば、“ヴィオラの音がすごかったね”と言われないことが成功だと思う奏者もいます。僕の感覚としては後者に近いかな。アンサンブル全員の成功が、自分の成功だと考えるタイプですね。ですから、室内楽を聴くときも、ヴィオラの音を一生懸命探すというより、たまたまた耳に入ってきて、いいなと思った音がヴィオラだったらうれしいです」
取材・文:原典子

〈プロフィール〉
NHK交響楽団ヴァイオリン次席奏者としての活動のほか、ヴィオラ奏者としても各地のオーケストラに客演している。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)を経て、桐朋学園大学卒業。室内楽の分野では2006年にVerus String Quartetを結成。第57回ARDミュンへン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門において第3位入賞を果たすほか、精力的に演奏活動を続けている。室内楽フェスティバルAGIOのフェスティバル・ディレクターをつとめる。
X:@koichiyokomizo

〈公演情報〉
Bunkamura Produce×浜離宮朝日ホール 共同企画
宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO vol.4
2026/11/13(金)~15(日)
浜離宮朝日ホール
*横溝さんの出演回は公演ホームページをご覧ください。
