深く知り、さらに楽しむウェブマガジン

第19回「て」

クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第19回は「て」です。

【ディーヴァ】Diva/音楽・ミュージカル/イタリア語

「ディーヴァ」とは“女神”を意味するイタリア語。オペラにおいて高い歌唱力と演技力を発揮し、舞台の中心で女神のように圧倒的な輝きを放つほど卓越した女性歌手を指します。

近年はオペラに限らず音楽ジャンル全体においてスーパースター的な存在の歌手をディーヴァと呼びますが、本来はプリマ・ドンナ(オペラで主役を演じる女性歌手)の中でも限られた至高の歌姫だけに贈られる特別な称号。その代表的な存在として今も名前が挙がるのは、美貌と圧倒的なカリスマ性で聴衆を虜にしたソプラノ歌手マリア・カラスで、死後もなお“不世出のディーヴァ”と称えられています。一方、カラスは気難しいわがままな性格だったと言われ、こうした側面を指してディーヴァは“女王気質な女性”を意味するスラングとしても用いられています。

【ディヴェルティメント】Divertimenti/音楽/イタリア語

18世紀中頃のヨーロッパ(特にウィーン)において、聴者と奏者の気晴らしのための器楽曲「ディヴェルティメント」が流行しました。イタリア語で“楽しませる”を意味する動詞「divertire」から派生した言葉で、日本では「喜遊曲(きゆうきょく)」とも訳されます。

ディヴェルティメントは明るく軽妙な曲風が特徴で、短い楽章を組み合わせた多楽章形式の曲を、室内楽や管弦楽など小規模な楽器編成によって演奏します。セレナーデ(小夜曲)と目的や性質が似ていますが、セレナーデは室外、ディヴェルティメントは室内での演奏用と区別されています。ディヴェルティメントを得意としたのがモーツァルトで、おもに貴族の邸宅で祝い事や食事の際に演奏される気軽な音楽として、20曲以上も作曲しました。

【天井桟敷】てんじょうさじき/音楽・演劇/日本語

ヨーロッパの劇場やホールで最上階・最後方に設けられている観客席(指定または立見)は、舞台から最も遠い場所にあることから、おおむね最も安い料金設定となっています。劇場によって席の名称は異なりますが、日本語では天井に近い位置にあることから「天井桟敷」と呼ばれ、劇場に連日通い詰めるような常連客に好まれる席となっています。

日本では歌舞伎の一部劇場で最上階・最後方に設けられている一幕見席(ひとまくみせき。1つの演目だけ見ることができる座席)が天井桟敷にあたりますが、一般的には「大向こう」と呼ばれています。なお、歌舞伎や大相撲の会場には、通常の座席がある床よりも一段高い場所に「桟敷(大相撲では「枡席」)」という板敷きの客席が設けられていますが、天井桟敷とは対照的に高価な上等席となっています。

【テンペラ】Tempera/美術/イタリア語

テンペラは、「混ぜ合わせる」という意味のラテン語「テンペラーレ(temperāre)」に由来します。一般に、顔料に卵黄を主成分とする媒材を混ぜた絵具で描く技法を指し、卵白や全卵が用いられることもあります。

この技法は、ジョットやフラ・アンジェリコ、ボッティチェリをはじめ、中世から初期ルネサンス期にかけて多くの画家によって用いられ、長い間、板絵制作の中心的な制作方法として発展しました。テンペラ絵具は光をほとんど屈折させないため、顔料本来の色彩がよく保たれ、油彩画よりも鮮やかな色彩表現が可能です。また乾燥が早く、細密で繊細な描写を得意とします。一方で、油彩画のような滑らかなぼかしや厚塗りにはあまり向いていません。15世紀以降、より自然な陰影や質感の再現に優れた油彩画の発展・普及によりテンペラの使用は減少しました。しかし、その鮮明な発色と独自の画面効果は、今日でも多くの画家や美術愛好家を魅了し続けています。