高田瑞希(ソプラノ歌手)
“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、びわ湖ホール声楽アンサンブルを軸に活動する期待のソプラノ歌手、高田瑞希さんをフィーチャーします。
さまざまな楽器に挑戦した子ども時代
京都出身、びわ湖ホール声楽アンサンブルに所属して4年目となる高田瑞希さんは、同ホールがプロデュースするオペラにて『竹取物語』のかぐや姫、『天国と地獄』のユリディスなど、早くからヒロインに抜擢され注目を集めてきました。11月にはBunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル『未来の巨匠コンサート2026』に出演、得意の宗教曲からオペラ・アリアまで幅広い歌唱を披露します。
清楚な佇まいと笑顔が素敵な高田さんですが、まずは音楽との出会いからお話を伺いました。
「小さい頃から歌うことが好きで、保育園の学芸会でも全員分のセリフを憶えて帰ってきて、家でひとりで全役やっているような子どもでした。でも人前では一切それができなくて。近所の人と会っても、お母さんの足の後ろに隠れて挨拶もできないような人見知りでもありました。
4歳ぐらいのときにピアノが弾きたいと言ってはじめましたが、通っていたお教室のアンサンブルの発表会でドラムを見てからはドラムが叩きたくなって。小学校1年生から6年生までずっとドラムを叩いていました。また、小学校4年生のとき京都市少年合唱団のオーディションに受かって、中学3年生まで所属していました。そのほかにも、中学校では吹奏楽部に入ってサックスの練習をがんばったり、和太鼓やお箏を習ったり」

音楽に関することはなんでもやってみたいと、さまざまなことに挑戦しながらも、人前で披露するのはずっと苦手だったという高田さん。それを克服したのは、中学3年生のときでした。
「所属していた合唱団の演奏会で、急にソリストとして選ばれて、京都コンサートホールのステージで、200人のコーラスをバックに歌わせていただいたことがありました。自分の声しかホールに響いていないという体験をして、『なんかいいな、声楽って』と思ったのが、今の道を志すひとつのきっかけになったと思います。そのときは不思議と緊張はせず、お客さんの顔を全員確認できるぐらい余裕があったんです」
とはいえ勉強も好きだった高田さんは、高校で進学校に入学し、国立大学を目指して励んでいました。けれどまわりからは「なんで歌の道に進まないんだ」と言われたそうです。
「合唱団の時の先生や、中学時代の音楽の先生方など皆さんが歌の道を勧めてくださるので、そういう道もあるのかと思っていたところ、たまたま声楽の教室を見つけたんです。高校1年生のとき、学校帰りに自転車でいつもと違う道を通ったら、家の裏に教室の看板があるのに気づきました。ピンポーンと、そこのお家の門を叩いたら、篠部信宏先生が出ていらして。私の歌声を聴いて、『音楽大学に行けると思います』と言ってくださった。『じゃあ行きます』と心を決めました」
コロナ禍でオペラの勉強ができなかった
京都市立芸術大学に進学し、得意とする宗教曲ではさまざまな演奏会でソリストを務め、実力を伸ばしていった高田さんですが、オペラに関しては苦手意識があったといいます。
「大学3年生からオペラの授業が始まるのですが、ちょうどコロナ禍に入ってしまい、まったく学校に行けない期間がありました。大学院に入ってからのオペラの授業でも、マスクをして、パーテーション越しに愛を語り合うシーンを演じたり。オペラらしいことを学ぶ機会がほとんどなかったので、びわ湖ホール声楽アンサンブルに入ったときは、本当になにもわからない状態で。入ってからオペラを学びはじめた感じです」
さらに大学時代は、それまでの人生で最大の「壁」を体験したことも。
「コロナ禍に入る前の大学3年生の夏、突然、声が出なくなってしまいました。身体の不調はなかったので、原因はまったくわからず。それまで順調にレパートリーが増えて、表現の幅も広がってきていたのに、一気にゼロ以下になってしまったんです。なにをやっても元に戻らず、とても辛かったです。でもこれはきっと発声を見直す時期なんだと自分に言い聞かせて、呼吸から筋肉の使い方から、すべて一からやり直しました。そうして1年後の4年生の夏ごろに、少しずつ声が出るようになっていきました。それからはもう、なにがあっても大丈夫だと思えるようになりましたね」

『竹取物語』のかぐや姫がはまり役
大学院卒業後は、オーディションを経て、びわ湖ホール声楽アンサンブルに所属。ヨーロッパの歌劇場専属の歌手たちのように、ソリスト、アンサンブル、合唱と多岐にわたって活動する声楽家集団のなかで研鑽を積んできました。
「先輩方をはじめ皆さまに育てていただき、オペラが楽しくなっていきました。ありがたいことに、入って1年目に『天国と地獄』のユリディスに選んでいただいて。オペラデビューがいきなりヒロイン役だったわけですが、ユリディスは自分の性格とは正反対の強烈なキャラクターなので大変でした。真っ赤な豹柄のミニスカートをはいて、金のジャラジャラしたアクセサリーをつけて、髪をパーマにして、自分が人生で言ったことがないような汚い言葉で罵倒したり叫んだり。でも、面白かったです(笑)」
2年目に抜擢された『竹取物語』のかぐや姫は誰もが認めるはまり役。『未来の巨匠コンサート2026』でも、作曲者である沼尻竜典さんの指揮でアリアを披露します。
「稽古がはじまったときは、和装の所作の先生に一歩歩くごとにダメと言われ、立っているだけでもダメと言われ……もう自分ではなにがなんだかわからなくなりました。でも毎回集中指導を受けて、最終的には『よく頑張ったね! なにも心配いらないよ』と言っていただけるようになって。それでも沼尻先生にはおてんばなかぐや姫に見えたらしく、『僕が想像して書いたのは、こういうキャラだったんだよ』と言っていただけたのもうれしかったです。びわ湖ホールのお客さまには、いまだに『かぐや』と呼ばれています」
オペラでさまざまな役に挑戦しながらも、自分がもっとも自然に歌えるのは宗教曲だという高田さん。歌い手として大切にしていきたいことを尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「コロナ禍では芸術が不要不急なものと思われている時期がありましたが、コンサートが再開したときに宗教曲を歌ったら、ドイツ語がわからないお客さまもすごく感動してくださって。『すっと入ってくるきれいな声で、それだけで心が洗われました』と言っていただいたんです。つねにきちんと楽譜を読み込んで、きれいな声で歌うこと。それが音楽を届けるうえで、私にできる一番のことだと考えるようになりました」

磨き抜かれた声でこれからどんな歌を聴かせてくれるのか、今後がますます楽しみです。
取材・文:原典子
写真:大久保惠造

〈プロフィール〉
京都市立芸術大学声楽専攻卒業、併せて真声会賞、京都音楽協会賞、他受賞。同大学院音楽研究科修士課程声楽専攻を首席修了し、京都市長賞を受賞。オペラでは『竹取物語』かぐや姫、『天国と地獄』ユリディス、『メリー・ウィドウ』ヴァランシエンヌ等で出演。宗教曲ではモーツァルト「戴冠ミサ」「レクイエム」、J.S.バッハ「教会カンタータ」「クリスマス・オラトリオ」「ヨハネ受難曲」「ロ短調ミサ」、ヘンデル「メサイア」等のソリストを務める。またシェーンベルク「月に憑かれたピエロ」など、近現代作品の演奏にも取り組む。27年1月びわ湖ホールプロデュースオペラ『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナで出演予定。びわ湖ホール声楽アンサンブル所属。 X

〈公演情報〉
Discover Future Stars
Bunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル
未来の巨匠コンサート2026
2026/11/3(火・祝)
Bunkamuraオーチャードホール
