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水野斗希コントラバス奏者

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、第21回東京音楽コンクール弦楽部門第1位を受賞し、2026年4月に首席コントラバス奏者として東京都交響楽団に入団した水野斗希さんをフィーチャーします。

ピアノや作曲、オーケストラ部では指揮も経験

「すごいコントラバス奏者が出てきた」という言葉とともに水野斗希さんの名前を聞いたのは、彼がこの秋に出演する『室内楽フェスティバル AGIO』の企画者である横溝耕一さんと宮田大さんからでした。

2026年3月に東京藝術大学音楽学部を首席で卒業し、4月に東京都交響楽団(以下、都響)に首席コントラバス奏者として入団した水野さん。Japan National Orchestraのコアメンバーとしてもツアーに参加し、ソリストや室内楽奏者としても活動。さらにはピアノや作曲、指揮までこなすというのですから、音楽界の期待を集めないわけがありません。

「ピアノは幼稚園の頃からヤマハの教室に通っていました。水泳や空手など、ほかにもいろいろ習い事をしていたので、そのひとつという感じでしたね。ヤマハの教室では自分の作曲した曲でコンサートをしたりもするので、自然に作曲もするようになりました」

空手は小学生で黒帯までとったというから驚きです。そんな水野さんとコントラバスとの出会いは中学生のとき。

「中学に入学して部活を選ぶとき、なんとなく音楽系がいいなと思っていたところ、たまたまオーケストラ部の勧誘の前を通りかかって、入部することに。最初はフルートを希望していましたが、定員オーバーということで、顧問の先生に『コントラバスはどう?』と勧められて、素直に従いました(笑)。中学1年の終わりに定期演奏会があって、愛知県芸術劇場の1,800席もあるホールで演奏したとき、すごく感動したのを憶えています」

コントラバスという楽器の魅力はどんなところにあると思いますか? という質問には、次のように答えてくれました。

「大きな編成のオーケストラでは、コントラバスは8人で弾くことが多いのですが、重厚感のある音や、ピッツィカートの柔らかい音など、弾き方によってさまざまな表情を作り出せるところでしょうか。オーケストラにおける役割という面では、コントラバスが全体より少し前に低音からふわっと出ると、音楽が動く感じがします。コントラバスは土台から音楽の流れを作り、オーケストラを動かすことができる楽器だと思います。
そういう意味では、ヨハン・シュトラウスなどのウィンナ・ワルツは、演奏していてとても楽しいんですよ。単純な頭打ちなんですが、これが意外と難しくて、そこに奥深い面白さがある。これこそ、オーケストラを動かせるジャンルではないでしょうか」

オーケストラ部では指揮も経験。それによってオーケストラ全体が見渡せるようになったといいます。

「中高一貫の学校だったので高校もオーケストラ部で、2年のときは指揮を中心にやっていました。オーケストラのスコアを見て、いろいろな楽器の使い方や、音色の重ね方などを考えながら指揮する経験は、今も生かされていると思います。男子校だったのでいつも騒がしくて、まとめるのが大変でしたけど(笑)」

新卒で都響入団、早く現場に出たかった

通っていた中高は進学校だったとのこと。そのような環境で、音楽家への道を決意するきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

「中学生の頃までは音楽は趣味で、大学に入ってからもサークルとかで続けられたらいいかなと思っていたのですが、高校1年のときに、泉の森コントラバスコンクールで総合グランプリをいただくことができて、そこからですね。当時習っていた榊原利修先生から勧められて受けたのですが、この受賞がきっかけで、藝大を目指したいと思うようになりました」

それからは藝大受験に向けて練習の日々。水野さんの話を聞いていると、目標に向けて粛々と努力を積み重ねていけることも、ひとつの才能なのだと感じます。

「受験の3カ月ぐらい前から、朝起きてすぐに、課題曲を全曲通して弾いて、その動画を撮って先生に送るというルーティンを毎日やっていました。寝起きというコンディションが悪いときに弾く練習をしていたので、受験本番も緊張はしましたが、いつも通り弾くことができました」

藝大入学を果たした水野さんは、大学2年のときに、第21回東京音楽コンクール弦楽部門において、史上はじめてコントラバスで第1位を受賞して注目を集めます。

「高校3年のときにも一度受けていたのですが、そのときは第1次予選を通ったところまでしかいかなかったので、再挑戦したいと思い、大学2年のときに受けました。本選でボッテジーニのコントラバス協奏曲第2番を弾けたのは、貴重な機会でした」

大学卒業後、すぐに都響に入団した水野さんですが、大学院に行ったり、留学するといった選択肢は考えなかったのでしょうか。

「大学院に行くことはあまり考えていませんでした。留学を考えたことはありましたが、行くなら海外に習いたい先生を見つけてからがいいと思いました。私は大学で先生方にたくさんのことを教えていただき、それにもとづいた練習の仕方もわかってきた頃だったので、今ではないなと。なによりオーケストラが大好きなので、早く現場に出て演奏したいという思いが強かったです」

年齢にとらわれない、家族のようなチーム

そして2026年4月、都響に入団。新卒で入っていきなり首席というポジションにプレッシャーは感じませんでしたか? と聞くと、「最近は少しずつ慣れてきました」と落ち着いた様子で答える水野さん。池松宏さんをはじめ個性派が集う都響のコントラバス・セクションでもおおいに期待されているようです。

「コントラバス・セクションはとくに仲がよくて、雰囲気もアットホーム。上下関係もなくみんな平等で、年齢に関わらずお互いにインスピレーションを与え合っています。オーケストラのセクションというのは、もしかしたら家族よりも一緒にいる時間が長いかもしれないチームなので、そこでのコミュニケーションがいかに大切かを日々学んでいます。先日は歓迎会をしていただきました」

隣で弾く池松さんからは、首席奏者として演奏するときの心構えを教えてもらったとのこと。

「たとえば、楽器を構えるタイミングが、早すぎてもダメですし、遅いとコントラバス・セクションのメンバーに不安を与えてしまう。長い休符のあとにコントラバスが出てくるとき、その直前に急に構えるのではなく、なんとなく雰囲気を出しておいて、ちょうどいいタイミングで構えることが、メンバーへの合図になるというアドバイスをいただきました。それと、指揮者と目を合わせてコミュニケーションをとることが大事だとも」

これまで壁に直面した経験は? という質問にも、「うーん、寝たら忘れるタイプなんで」と笑います。自身のメンタルを安定させ、気持ちを切り替えられる力も、水野さんの強さなのかもしれません。

「何時間も練習していると、よけいに弾けなくなってきたりすることもあるので、そういうときは楽器から離れて、音楽のことを考えずに、美味しいものを食べたりして気分転換することも。ソロのリサイタル前などは、頭のなかでだけ曲をイメージしておいて、本格的に楽器に触るのは直前といった方法をとったりもします」

11月にBunkamuraと浜離宮朝日ホールの共同企画として開催される『宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO vol.4』では、クロージング・コンサートでシューベルトの八重奏曲を演奏するとのこと。そちらも楽しみです。

「横溝さんからお声がけいただいて、出演させていただくことになりました。シューベルトだとピアノ五重奏曲『ます』を弾く機会が多く、この八重奏曲ははじめて演奏するのですが、『ます』とは違った難しさがありそうだなと思っています」

ソロに、室内楽に、オーケストラにと幅広く活動する水野さんにとって、今後の目標は?

「まだ演奏したことのない曲がたくさんあるので、まずはいろいろな曲を弾いて、レパートリーを増やしていきたいです。コントラバスのために書かれたオリジナル曲で、有名ではないけれど隠れた名曲を見つけたり、違う楽器のために書かれた曲でコントラバスの良さが生きる曲を考えたり。やることはたくさんありますね」

取材・文:原典子


〈プロフィール〉

2003年生まれ、愛知県名古屋市出身。12歳よりコントラバスを始める。東海高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部を首席で卒業。学内にてアカンサス音楽賞、福島賞、安宅賞、宮田亮平奨学金を受賞。第21回東京音楽コンクール弦楽部門第1位。2024年度公益財団法人青山音楽財団奨学生。
Japan National Orchestraコアメンバーとして、国内各地へのツアーに参加。
これまでに榊原利修、吉田秀、池松宏、石川滋の各氏に師事。

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〈公演情報〉

Bunkamura Produce×浜離宮朝日ホール 共同企画
宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO vol.4

2026/11/13(金)~15(日)
会場:浜離宮朝日ホール

*水野さんの出演回は公演ホームページをご覧ください。

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