第16回「た」
クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第16回は「た」です。
【大小前】だいしょうまえ/能楽/日本語
能楽を上演する能舞台は、4本の柱に囲まれた三間(約5.4m)四方の「本舞台(ほんぶたい)」、本舞台の右手に地謡(じうたい)が座る「地謡座(じうたいざ)」、舞台奥に囃子方(はやしかた)が座る「後座(あとざ)」、本舞台と鏡の間をつなぐ通路の「橋掛り(はしがかり)」によって構成されます。
演技の中心場所となる本舞台は、役者の位置取りの目安として、縦横それぞれ3等分した9つのエリアに区分けされています。そのうち見所(客席)から見て正面中央の奥を「大小前(だいしょうまえ)」と呼びます。囃子方の大鼓と小鼓の前にあることが名前の由来で、鑑賞上においても注目すべき位置と言えます。
【タイトルロール】Title Role/演劇・ミュージカル・映画/英語
舞台芸術や映画の作品タイトルはさまざまなものがありますが、なかには『ハムレット』『フィガロの結婚』『ハリー・ポッター』など登場人物の名前がそのまま冠されている場合があります。このように作品の題名(あるいは題名の一部)になっている役柄のことを「タイトルロール」と呼びます。
題名に名前を冠する役柄は多くの場合は主役ですが、バレエ『ドン・キホーテ』ではキトリとバジルという名の若いカップルが主役であるように、必ずしもタイトルロール=主役ではありません。いずれにしろ、題名に冠するということは「この人の行動や心理を中心に描いている」という作り手の意図の表れなので、観客はもちろん演じる役者にとっても重要な役柄となります。ちなみにタイトルロールのRole(役)がRoll(巻)になると、映画の冒頭で主要スタッフ・キャストのクレジットを流すテロップという別の意味に変わります。
【ダダイズム】Dadaism/美術/英語
「ダダ」は20世紀前半、チューリヒやニューヨーク、ベルリンなど複数都市で同時多発的に生まれた前衛芸術運動です。この運動の背景には、第一次世界大戦によって合理性や進歩といった近代の価値観が大きく揺らいだことがありました。こうした状況を実感した若い世代の作家たちは、合理性や意味そのものを拒否するナンセンスな手法によって、自らの欲求を直接的に表現しました。マルセル・デュシャンによるレディ・メイド(大量生産された日常的な既製品をそのままアート作品として提示する手法)をはじめ、コラージュやフォトモンタージュといった造形的実験、さらに音声詩や視覚詩など、視覚・文学・音響といった多様なメディアを横断する表現が展開されました。そうすることで、彼らは伝統や既成の価値、美術制度から自らを解放しようとしたのです。ダダの活動は短期間でしたが、その理念はシュルレアリスムなどに受け継がれ、20世紀美術に大きな影響を与えました。
【立見】たちみ/音楽・演劇・ミュージカル/日本語
コンサートや演劇公演は座席に座ってじっくり鑑賞するスタイルが一般的ですが、指定席がすべて売り切れてしまう人気公演の場合、「立見」が前売りまたは公演当日に用意されることがあります。
立見とは座席がなく立ったまま観覧する形式を指し、おもに客席の1階席後方通路、バルコニー席後方、2階席最後列付近などに観覧エリアが設定されます。あらかじめ割り振られた整理番号順に入場し、その順番に応じた所定の位置で鑑賞することになります(会場や公演によってルールが異なります)。配信などの画面越しではなくライブ空間で会場の一体感や熱量を感じたい方には大きな価値があります。

【暗闘】だんまり/歌舞伎/日本語
「だんまり」とは歌舞伎の演出を表す用語で、漢字では「暗闘」と表記します。演劇のパントマイムに似たもので、人気のない山奥のように一寸先が見えない暗闇の中で登場人物たちが宝物や手紙といった大切な物を奪い合う様を、黙ったまま手探りによる動きだけで表現します。
暗闇とはいえ舞台上を本当に真っ暗にしてしまうと客席から見えなくなるので、背景を暗幕にすることで暗闇を表現。役者は実際には見えている相手や物を見えないものとし、何かに触れて思わず手を引っ込めたり、ぶつかりそうになると身をかわしたりといったコミカルな仕草を交え、スローモーションのようにゆっくりとした美しい所作で魅せるのが見どころです。

