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スクリプカリウ落合安奈美術家

2026年7月4日(土)からBunkamura Gallery 8/にて開催する『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』 連動企画『STILL/LIFE 静寂の余韻に』展に出展する美術家のスクリプカリウ落合安奈さん。東京藝術大学の油画専攻を首席で卒業し、写真、映像、絵画、インスタレーションなど多様な表現を横断しながら制作を続けています。国内外の美術館やギャラリーで展覧会を行う落合さんに、これまでの道のりについて、また2026年4月に赤々舎より刊行された写真集『ひ か り の う つ わ』について伺いました。

ヴィジュアルランゲージで伝わるアート

日本とルーマニア、二つの祖国にルーツを持ち、日本で生まれ育ったスクリプカリウ落合安奈さん。名前や外見の違いから、幼少期には孤独や疎外感を覚えることもあったといいます。その一方で、絵を描くことを通じて周囲とつながる喜びを知りました。

「休み時間に描いた落書きのような絵を友達が褒めてくれたり、美術や図工の時間に作った作品を先生が評価してくれたことがありました。言葉では分かり合えないことがあっても、自分の手で生み出したものを通じてなら、人と気持ちを交換できる。そう感じたんです」

高校時代に本格的に美術の道を志し、東京藝術大学へ進学。油画を専攻しながらも、鑑賞者を作品の中に包み込み、五感で体験してもらうインスタレーションによる空間表現に取り組みます。やがて関心は土地と人との結びつきへと向かいました。日本各地の祭りや民俗文化を調査するフィールドワークを重ねるなかで、旅の過程を作品として表現したいという思いが強まり、写真を使って作品をつくりはじめました。

「私は作品を作る際、大きな空間の構成からミリ単位の細部までこだわり抜きます。そのため関係者の方々にはご苦労をかけてしまうことも多いのですが…。それでも、完成した作品を見たときに「携わって良かった」と心から思っていただけるようなモノづくりを続けること。鑑賞者や作品関係者、全ての人の心の深くに届く作品であることが私の譲れない芯であり、常に強く意識している部分です。」

自らのルーツと向き合うルーマニアの旅

大学3年生の頃から自らの意思でルーマニアを訪れ、もうひとつのルーツと向き合うようになったという落合さん。しかし2020年、本格的な調査と滞在を計画していた矢先にパンデミックが発生。行きたいのに行けない、苦しい時期を過ごしました。転機となったのは2022年の元旦。初日の出を撮影しに行った帰り道、自宅近くの森で体験したある小さな出来事でした。

「朝日に照らされた枯れ草や、冷気の中で大地を押し上げる霜柱が美しくきらめいていました。その光景を撮影した時、この世界に存在するすべてのものは“光の器”なのだと感じたんです。普段だったら気にも留めないもの、見逃してしまう日常の小さな一瞬に、美しさや温かさが宿っていることに気づきました」

その気づきは暗闇の中の光のような存在となり、同年12月に念願だったルーマニアの長期滞在が実現します。伝統的な風習を受け継ぐ人たちの元を訪ねながら、その周りにある何気ない日常や、人々の営みの中に宿るささやかな光を写した旅の写真は、240ページに及ぶ写真集『ひ か り の う つ わ』として結実しました。

「本作の撮影でフィルムにこだわった理由は、やはり「物質感」と「身体性」を大事にしたかったからです。これは、普段の制作から手触りや抵抗感のようなものを大切にしていることとも深く関係していると思います。フィルム写真での制作は、最終的には平面作品でありながらも、その工程においてどこか粘土をこねるような感覚に近いものを覚えるのです。」

「渡航直前にはロシアによるルーマニアの隣国ウクライナへの侵攻が始まり、『今、自分がルーマニアへ行く意味は何だろう』と何度も自問しました。それでも、一日一日が1度きりと思いながら、ここで生きたかもしれない30年を取り戻すように、過ぎ去る時間を留めていったんです。今回は親族を頼らず、一人で土地に飛び込んだからこそ、手を差し伸べてくれる家族のような人たちとたくさん出会うことができました。言葉が十分に通じなくても、人と人はつながることができる。それはこの旅の中で得られた最も大切なことだったと思います」

経験を次世代へ手渡すために

現在、落合さんは母校である東京藝術大学絵画科油画専攻で非常勤講師を務め、次世代の育成にも携わっています。

「私が学生だった頃は、女性教員がとても少なかったんです。でも今は多様な背景を持つ先生方が増えていて、とても良い変化だと感じています。教員になってからは、複数のルーツを持つ学生や、海外で育った学生から相談を受ける機会もありました。自分自身、ロールモデルがいない中、手探りで進んできたので、その経験が誰かの役に立つなら本当にうれしいです」

作家としての今後の目標は、国内外でより多くの人に作品を届けること。その反応を受け取ることで、多角的な視点を養い、自分自身の価値観を磨いていきたいと語ります。

「『STILL/LIFE 静寂の余韻に』で展示する写真作品としての《ひ か り の う つ わ》は、大阪での個展を経て、東京では初めての発表となります。ある一人の人間の、二度とない一年間を結晶化したような作品です。季節のひと巡りや、命や惑星の巡りの中に、見てくださる方の人生の軌道が重なり合って、新しい扉を開くような体験になればうれしいです」

「私にとって美術館での収蔵や展示とは、単なるキャリアの通過点ではありません。自分が細部までこだわり抜いて捉えた「過ぎゆく瞬間の手触り」や、異なる文化が交わることで生まれる血の通った温かさを、国境を越え、あるいは百年先の未来へと確実に手渡していくための重要な「器」なのです。自分がすくい取った光や感覚が、国際的な場でどのように受け止められ、社会とどう接続していくのか。これからも妥協せず、挑戦し続けたいと考えています。」

取材・文:安藤菜穂子


〈プロフィール〉

1992年埼玉県生まれ。美術家。「土地と人の結びつき」をテーマに、インスタレーション、写真、映像、絵画など様々な手法で作品を制作。東京藝術大学油画専攻を首席、美術学部総代で卒業。同大学大学院グローバルアートプラクティス専攻修了。同大学大学院彫刻専攻博士課程修了。2026年より同大学油画専攻非常勤講師。2026年、写真集『ひ か り の う つ わ』(赤々舎)を発表。2025年、東京都写真美術館『総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22』に選出。同館のパーマネント・コレクションとして11点が収蔵されている。その他、福岡市美術館(2025年)、上野の森美術館(2025年)、ポーラミュージアムアネックス(2025年)、埼玉県立近代美術館(2023年、2020-2021年)、ルーマニア国立現代美術館(2020年)、東京都美術館(2019年)、世界遺産のフランスのシャンボール城(2018年)やベトナムのホイアン(2019年)など世界各地で作品を発表している。

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〈展覧会情報〉

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』 連動企画
STILL/LIFE 静寂の余韻に

2026/7/4(土)~7/20(月・祝)
会場:Bunkamura Gallery 8/ (渋谷ヒカリエ8F)

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