第10回「こ」
クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第10回は「こ」です。
【後見】こうけん/歌舞伎・能楽/日本語
歌舞伎や能楽では、役者の後ろから舞台の進行を見て、小道具の受け渡しや衣裳を整えるなど必要に応じて介添えする人がいます。このように役者の演技が滞りなく進むよう補助する役割を担う人を「後見」と呼びます(法律用語の「後見人」は、こうした伝統芸能における用語から派生した言葉です)。なお、歌舞伎では役者の子弟が、能楽ではシテ(主役)と同格かそれ以上の演者が後見を務めます。
第8回「く」で解説した「黒衣」も後見の一種で、時代物などの芝居における後見は黒衣と同様に、「黒は見えない」という歌舞伎の約束事に従って黒色の衣裳で身を包みます。一方、舞踊や歌舞伎十八番など様式性の高い演目では、素顔に紋付・袴(はかま)、または裃(かみしも)に鬘(まげ)をつけて務め、周りと協調した形を取ります。

【香盤表】こうばんひょう/演劇/日本語
演劇の公演では、舞台の流れを表形式で整理した「香盤表」が作られます。単なるタイムスケジュール表ではなく、出演する俳優全員の役名、そしてそれぞれが登場・退場する順番・時間・場面などの一覧が書かれ、どのシーンでどの俳優が登場してどんな道具が必要になるかひと目で分かるようになっています。
ちなみに「香盤」とはお線香を立てる台のことで、四角い升目の中にお線香を立てるための丸い穴が開いています。香盤表は升目で区切られた一覧表の登場場面に丸印をつけるのが一般的で、その様子が香盤と似ていることから香盤表と呼ばれるようになったとされています。また、同じような由来から、香盤表は客席の座席表のことも指します。
【こけら落とし】こけらおとし/音楽・演劇・ミュージカル・歌舞伎/日本語
新築または改築された劇場で初めて行われる公演のことを「こけら落とし」と呼びます。こけらは漢字で「杮」(漢字右側のつくりの部分は縦棒が横棒を突き抜ける形で下までつながっていて、つくりの上部分が「なべぶた」になっている果物の柿とは異なります)と書き、材木を削る時に出る削りくずのこと。建築工事が終わって最後に屋根に残った削りくずを払い落とすことから「こけら落とし」という言葉が使われるようになりました。
歌舞伎の世界ではこけら落とし公演は縁起が良いものとされ、「こけら落としを見ると寿命が延びる」という言い伝えがあります。また、劇場の新たな門出を祝う興行であることから、こけら落とし公演には通常公演よりも大物の俳優・アーティストや豪華ゲストが出演する傾向にあります。そのため、多くのこけら落とし公演はお客さんで大にぎわいとなります。
【コンサートマスター】Concert Master/音楽/英語
主にオーケストラの首席第1バイオリン奏者(客席から見て指揮者の左隣で最も客席側にいる奏者)が務めるコンサートマスター。「コンマス」と略されることが多く、女性の場合はコンサートミストレス(コンミス)とも呼ばれます。
コンサートマスターの役割は、一言で言うと楽団全体の統率です。演奏前のチューニングでA(ラ)を弾いて全員の音を合わせるほか、演奏中は音の出だしや微妙なニュアンスなど指揮者の指示に忠実に応え、それを大きなアクションで弾くことによって他の奏者に伝えます。つまり、オーケストラの奏者はコンサートマスターの動向に注目して演奏を揃えているのです。また練習でも、指揮者の指示を補いながら楽団員に伝えたり、逆に奏者を代表して指揮者と演奏について協議することもあります。これらの重要な役割を果たすためにも、コンサートマスターには強いリーダーシップが求められます。

【コンプリマリオ】Comprimario/音楽/イタリア語
オペラの最大の見せ場と言えば、主役の歌手がアリア(独唱曲)を情感豊かに歌い上げるシーン。しかし、オペラは主役だけで成り立つものではなく、主役を支える助演者の存在も不可欠です。そうした脇役のことをイタリア語で「コンプリマリオ」と呼びます。
コンプリマリオにはアリアが与えられないものの、主役に対して対話や音楽的なやり取り(つまり歌うこと)を行い、ストーリーを発展させる重要な役割を果たします。アリアを歌う主役だけでなくコンプリマリオにも注目し、脇役が醸し出す魅力も味わうようになると、オペラ鑑賞がもっと面白くなることでしょう。
