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第9回「け」

クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第9回は「け」です。

【芸術監督】げいじゅつかんとく/音楽・演劇・バレエ/日本語

ホールや劇場が単に施設を貸し出すだけではなく、その施設ならではの高い芸術性を創造するには、「どんな舞台芸術を提供するか」という明確な方針の下で組織運営を統括する総責任者の存在が重要となります。この責任者は「芸術監督」と呼ばれ、施設の活動方針、企画、演目、出演者などを決定する役割を担います。

欧米では芸術監督を置く劇場が数多く見られ、日本でも100以上の施設で芸術に関する責任者(芸術監督)が置かれています。Bunkamuraもシアターコクーンでは開館当初から芸術監督制を採っていて、開館時から1996年まで串田和美、3年間の空席後1999年から2016年まで蜷川幸雄、2020年から現在まで松尾スズキが就任。またオーチャードホールでも2012年に熊川哲也が芸術監督に就任し、施設の芸術性を担保するとともに、良質な舞台芸術活動の提供に努めています。

【化粧前】けしょうまえ/演劇・歌舞伎/日本語

「化粧前」という言葉を聞くと、多くの人が“お化粧をする前の状態”のことを思い浮かべることでしょう。しかし演劇や歌舞伎など舞台の世界では、劇場にある楽屋でメイクアップや身支度を整えるための鏡台のことを指します。また、鏡台や楽屋を汚さないよう鏡前の机に掛ける下敷き、あるいは机に置いてある化粧品にホコリがかぶらないよう掛けるカバーのことも化粧前と呼びます。

楽屋には天井の蛍光灯がありますが、それとは別に化粧前には大きめの電球が複数備えられているのが一般的。それは、舞台で使われている照明(スポットライト)のほとんどが電球の灯りのため、舞台で浴びる灯りと同じ状態を再現することで観客からのメイクの見え方をイメージしやすくしているのです。

【ゲネプロ】げねぷろ/音楽・バレエ・演劇・ミュージカル/和製外来語

コンサートや芝居などの舞台では、本番直前の最終確認として、出演者の演奏や演技はもちろん、衣装・セット・照明・音響などすべての要素を本番と同じ状態で通し稽古を行います。こうした稽古の総仕上げにあたる最終リハーサルを「ゲネプロ」(ドイツ語で通し稽古を意味する「ゲネラルプローベ(Generalprobe)」の略)と呼び、主に本番前日に行われます。

ゲネプロで行う内容は普段のリハーサルと大きく変わりませんが、実は両者は似て非なるもの。リハーサルは途中で確認や修正を入れるために中断することがありますが、ゲネプロは基本的に途中で間違いがあったとしても最後までノンストップで進めます。なお、一般的にゲネプロは非公開で行われるものですが、マスコミ・関係者を招待したり一般客を有料で招く「公開ゲネプロ」もあります。

【外連】けれん/歌舞伎/日本語

歌舞伎には、役者の豪快かつ繊細な演技、絢爛豪華な衣装や舞台美術など、視覚に訴える見どころが数多くあります。さらに、観客の意表をついたり驚かせることを目的とする「外連」と呼ばれる仕掛けや演出があります。人間離れした能力を持つキャラクターに扮した役者を大がかりな舞台装置で吊り下げる「宙乗り」や、役者が一人二役を同じ場面の中で着替えも含めて一瞬で演じ分ける「早替わり」などが代表例です。

なお、現代では歌舞伎以外の場面で「けれん味」という言葉が時折使われますが、これは「俗受けすることを狙ったやり方。はったり。ごまかし」を意味するもので、必ずしも誉め言葉ではありません。

【現代アート】げんだいあーと/美術/日本語

一般的に芸術作品は表現方法・概念・時代などによって種類が区分され、その1つに「現代アート」があります。ただし、“現代”と名が付いているものの、現代に生まれた芸術作品すべてが現代アートに区分されるわけではありません。

現代アートの原点は、フランスの芸術家マルセル・デュシャンが1917年に発表した、既製品の男性用小便器に署名を描いただけの作品《泉》にあるとされています。従来の芸術様式や美的価値にはなかった新しい表現を通して「アートとは何か」を世に問いかけたデュシャンのように、作家が自由な表現方法によって社会への問題提起や意思表明を行う作品が現代アートと考えられています。

【現代音楽】げんだいおんがく/音楽/日本語

これまでクラシック音楽において数々の作曲家たちが新しい表現を模索し、それらの作品はアートと同じく音楽様式や時代によって区分されています。そうした新しさを追求していく中で、長調・短調という調性に基づかずに不協和音を奏でる「無調音楽」など、西洋クラシック音楽の系譜を継ぎつつも従来の音楽様式を否定した音楽が20世紀に次々と誕生しました。このように20世紀半ばから現代にかけて生まれた実験的な音楽を総じて「現代音楽(コンテンポラリー・ミュージック)」と呼んでいます。

一方、現代にはジャズやロックなどさまざまな種類の音楽が存在していますが、西洋クラシック音楽の系譜とは異なる「現代の音楽」として、前衛性の高い「現代音楽」とは区別されています。また、1960年代に生まれた新しい音楽として、音の動きを最小限に抑えたり反復させる「ミニマル・ミュージック」がありますが、調性を持つため厳密には現代音楽に含まれません。