第8回「く」
クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第8回は「く」です。
【口説き】くどき/歌舞伎・能楽/日本語
「口説き」とは、“くり返して説く”という意味の「口説く」を名詞化したもの。相手に気に入ってもらうため自分の思いを伝える「口説き文句」という言葉が思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。実は文化芸術においても、これと似たニュアンスで「口説き」という用語が存在します。
かつて口説きという言葉は、平曲(平家琵琶)や謡曲において恋慕や哀愁の感情を歌で表す箇所を指すものとして用いられていました。その後、能で悲嘆や苦悩の心情を表現する謡(うたい)の部分を口説きと呼ぶようになったのです。また、義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)という歌舞伎の演目で三味線の音や浄瑠璃に乗せて女性が胸の内を切々と訴える場面も「口説き」と呼ばれていて、女方の芸の見せどころとなっています。
【グリーンルーム】Green Room/音楽・演劇・ミュージカル/英語
「グリーンルーム」とは、音楽やミュージカルなどの舞台裏で使われる用語です。本番を待つ出演者や関係者に用意された楽屋(控室)、あるいは楽屋から舞台の袖に入るまでの間に設けられた待機スペースを指します。後者の場合、出演者たちが本番前にリラックスした状態で過ごせるよう、グリーンルームに飲み物や軽食などが用意されています。
そうしたスペースがなぜグリーン=緑という色で言い表されているのかは諸説ありますが、「出演者の目や神経を休めるために壁を緑色にしていた」という説があります。なお、現在のグリーンルームの壁は必ずしも緑色ではありません。
【クレジットタイトル】Credit title/映画/英語
映画の本編が終わるとスクリーンの画面が黒くなり、キャストや裏方など製作に携わった人々の名前がスクロール形式で表示されます。これは「クレジットタイトル」(またはエンドロール、クロージングクレジットなど)と呼ばれるもので、本編とクレジットタイトルを合わせた時間が「上映時間」となります。
かつては主要キャストや監督・脚本家・プロデューサーなど限られたスタッフの名前をオープニングで短く表示し、最後は「THE END」の文字で上映を終了するのが通例でした。本編終了後にクレジットタイトルを流すようになったのは、1973年のジョージ・ルーカス監督作『アメリカン・グラフィティ』が起源とされています。それでも当初は一部の部門や主要スタッフだけの表示でしたが、ハリウッドの労働組合が作り手たちの権利を主張するようになり、アシスタントやケータリングスタッフなど映画に関わったすべての人の名前も加わっていったのです。近年は映画の大作化とともにクレジットタイトルが長くなる傾向にあり、2024年の『ヴェノム:ザ・ラストダンス』ではなんと16分もクレジットタイトルが続きました。
【黒衣】くろご/歌舞伎/日本語
歌舞伎の舞台を見ていると、黒い衣裳に身を包み、顔を頭巾で隠した人が時おり現れます。この人物は「黒衣」と呼ばれ、舞台で必要な小道具を出したり片づけたり、舞台上で役者の衣装の着替えを手伝ったりと補助的な役割を果たします。歌舞伎において「黒は観客からは見えないもの」という暗黙の了解があり、黒い衣装を身に着けていれば舞台上に存在しないという約束事の上に成り立っているのです。黒衣の仕事は芝居の中身や段取りを熟知した上でタイミングよく行う必要があり、しかも目立ってはいけません。そのため想像以上に難しい仕事であり、通常は出演している俳優の弟子(つまり俳優)が務めています。なお、雪や水中のように黒い衣裳だと逆に目立つ場面では、「雪衣(ゆきご)」という白い衣裳や「水衣(みずご)」「波衣(なみご)」という水色の衣裳を着ます。

【群像劇】ぐんぞうげき/映画・演劇/日本語
映画や演劇のストーリーにおいて、主人公のような扱いのキャラクターが多人数登場するものを「群像劇」と呼びます。主人公を1人あるいは2人に限定して1つのストーリーを展開するのではなく、多くのキャラクターを等しくクローズアップし複数のストーリーを展開していくことが特徴です。群像劇のように主人公が何人も存在するストーリー形式として「オムニバス」というものもありますが、オムニバスは複数の独立した物語で構成されていて、基本的にはそれぞれ別の世界観や舞台で物語が展開・完結します。一方、群像劇は同じ世界観や舞台において複数のメインキャストが同時進行で行動し、時間や視点もキャストごとに随時切り替わっていきます。そして一見すると無関係な人たちやバラバラに見える物語が間接的に関わり合い、最終的に1つにまとまっていくという構成が見どころとなります。

