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未来への門 ―― YGPが描く世界バレエの現在地

YGPとは?

いま、世界のバレエ地図を塗り替えている存在があります。ユース・グランプリ(YGP/Youth America Grand Prix)。1999年、ニューヨークの体育館で始まった小さな試みは、25年で世界最大のバレエコンクールへと成長しました。これまでに参加した若者は延べ十万人以上。予選はアメリカ、ヨーロッパ、アジア各地で行われ、選ばれた者だけがニューヨーク・ファイナルに進みます。


 左から、山田優七、寺田羽那、永井咲良

その特徴は、単なる「競争」ではないことにあります。YGPは若い才能を「発見する場」として設計されました。舞台に立つその瞬間から、世界有数のバレエ学校やカンパニーの関係者に見出される可能性がある。審査員席は、採点者の列であると同時に、未来の扉を開く人々の集まりなのです。
実際、マリインスキー・バレエの永久メイ、パリ・オペラ座のオニール八菜、英国ロイヤル・バレエのワディム・ムンタギロフ……。いま世界の第一線で活躍する多くのスターたちが、十代の頃にYGPで舞台を踏みました。今や「YGP出身者のいないバレエ団は存在しない」とまで言われています。
YGPがここまで急成長した理由は明快です。世界各地で予選を行う規模の大きさ。舞台に立つ若者がその場で奨学金や留学のオファーを受けられる即時性。そして、審査期間中に開かれるワークショップで、世界的な教師から直接指導を受けられる教育的側面。こうした仕組みが、若者にとって唯一無二の「世界への門」となりました。
そしてその門は、日本のダンサーにとっても大きな意味を持ちます。ニューヨーク・ファイナルで上位入賞する日本人は毎年のように現れ、参加者数でもアメリカに次ぐ規模。近年では十歳前後で海外からスカウトを受ける例も珍しくありません。指導者の側も、Kバレエ アカデミー校長の蔵健太が日本人初の審査員を務めるなど、教育の現場からYGPと深く関わっています。日本はすでに「挑戦する側」であると同時に、「育てる側」としても存在感を示しているのです。
YGPは若者の未来を切り開くだけでなく、交流や対話を通じて教育全体を刷新し、世界のバレエ界を動かしてきました。いまやYGPは、単なるコンクールではなく、バレエという芸術の未来を育む仕組みそのものなのです。


今回のガラのみどころ

そんなYGPを象徴するイベントが《Stars of Today Meet the Stars of Tomorrow》。ニューヨークでは「バレエのスーパーボウル」と呼ばれるこのガラで、世界的スターと未来を託された若者が同じ舞台に立ちます。
今年10月、そのガラが初めて日本にやってきます。舞台は渋谷・Bunkamuraオーチャードホール。《YGPオーチャード・ガラ》は、単なる華やかな一夜ではなく、観客が「現在」と「未来」を同時に体感できる特別な時間なのです。
舞台に立つのは、すでに世界の檜舞台で主役を務めるダンサーと、十代ながら名門校で研鑽を積む俊英たち。その対比が生む緊張感こそYGPの真骨頂。観客は作品を楽しむだけでなく、「未来が生まれる瞬間」に立ち会うことになります。

左から、アレクサンドル・リアブコ、永久メイ

圧巻のラインナップ
•ロイヤル・バレエ・スクール:アシュトン振付『ラプソディ』
•プリンセス・グレース・アカデミー:ジュリアン・ゲラン振付『セレスティアル・ダスト』
•ジョン・クランコ・スクール:マリウス・プティパ振付『海賊』よりグラン・パ・ド・トロワ/ABT JKOスクールとの共演『パリの炎』
•ICE(国際コンテンポラリー集団/11カ国60名):迫力の『ボレロX』
現役スターも多数出演。
•永久メイ(マリインスキー・バレエ)&ドミトリー・スミレフスキー(ボリショイ・バレエ):『ジゼル』
•アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ):『スプリング・アンド・フォール』
そして出演者250名以上による壮観なグラン・デフィレ。舞台を埋め尽くす光景は、未来そのものです。
日本人受賞者が一堂に
さらに今回は、日本の若き才能も大きな役割を担います。
•山田優七(YGP 2024 NYファイナル プリコンペティティブ部門 第1位)
•寺田羽那(YGP 2025 Tampaファイナル プリコンペティティブ部門 第1位)
•永井咲良(YGP 2025 Tampaファイナル ジュニア部門 Top12)
世界から評価を受ける彼女たちが、同世代の俊英とともに舞う姿を日本で一度に目撃できるのは、この公演ならではの醍醐味です。


おわりに

ユース・グランプリは、この25年で世界最大のコンクールに成長しました。若者に「未来への扉」を開き、その成果は世界中の舞台で踊るスターたちの姿となって証明されています。
そして今回の《YGPオーチャード・ガラ》は、その理念と成果を日本で直接体感できる初めての機会です。現役スターの輝きに圧倒され、若き俊英の挑戦に心を震わせる。観客が目にするのは、単なる作品ではなく「未来が形を取る瞬間」です。
バレエを愛する方にも、初めて舞台に触れる方にも、この夜が忘れられない体験となることを願っています。どうぞ、歴史的な一夜をお見逃しなく。

文:早川智子

公演日程
2025年10月12日(日) 15:00開演/18:30開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
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