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第5回「お」

クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第5回は「お」です。

【オーヴァーチュア】Overture/音楽・映画・ミュージカル/英語

「オーヴァーチュア」とは、英語で「序曲、前奏曲」を意味する言葉。オペラ、バレエ、ミュージカルで幕が上がる開演前にオーケストラが演奏し、映画ではオープニングクレジットが映し出される前に音楽だけが流れます。劇中で使われる曲をアレンジやメドレーで巧みに盛り込むことが多く、いわば作品の世界観をぎゅっと凝縮した音楽と言えます。 本編の前に流れる音楽とはいえ、オーヴァーチュアは単に本編の始まりを告げるBGMではありません。「さあ、始まるぞ」という開演前の緊張感を高めるとともに、これから始まる“文化芸術の旅”への導入として期待感を高める役割を果たしているのです。日常から非日常へと気持ちを切り替えるスイッチとして、ぜひじっくり耳を傾けてください。

【黄金比】おうごんひ/アート/日本語

「黄金比」とは、人間が最も美しいと感じるといわれる「1:1.618」の数学的な比率のこと。古代ギリシャで発見され、19世紀にドイツの数学者オームが著書の中で「黄金比」という言葉を初めて用いたことで広く知られるようになりました。黄金比をデザインに使用すると、自然なパターンでありつつ非常に美しい様相をした構成になるため、絵画《モナ・リザ》の顔の縦横比、彫刻像《ミロのヴィーナス》の足元からへそまでの長さ:足元から頭頂までの長さなど、古くから多くの美術作品に黄金比が用いられています。 また、黄金比は絵画の構図にも活用できます。メインとなる被写体を正方形に収めて中心に定め、そこから正方形を螺旋状に配置していき、それらの正方形を組み合わせて最終的に出来上がる長方形の縦横比が1:1.618になるようにします。そうすると、螺旋の外から中心へと視線が誘導され、バランスの良い構図になるのです。こうした構図は「黄金螺旋」(またはフィボナッチ螺旋)と呼ばれ、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》の構図(左目が黄金螺旋の収束点)などに用いられていると言われています。

【大向こう】おおむこう/歌舞伎/日本語

歌舞伎の芝居の最中に、客席から上がる「成田屋!」「中村屋!」といった掛け声を聞いたことはありませんか? これは「大向こう」と呼ばれ、役者が演技の途中でポーズを作って静止する見得や名台詞が決まった瞬間に観客が発する声援のようなもの。江戸時代に舞台から一番遠い「大向こう」という大衆席に連日訪れていた常連客が、こうした掛け声を発していたことが語源とされています。 大向こうのパターンとして、前述のような役者の屋号のほか、「〇代目!」といった名跡の代数、「神谷町!」など役者が住んでいる町名、「待ってました!」「ご両人!」といった掛け声があります。大向こうを発するための資格やルールは特にありませんが、掛け声のタイミングを誤ると芝居の雰囲気やテンポを損なってしまうので、基本的には常連客に任せましょう。

【お調べ】おしらべ/能楽/日本語

能の公演の始まりが近づくと、どこからともなく楽器の音色が聞こえてきます。これは「お調べ」と呼ばれるもので、囃子方(笛方・小鼓方・大鼓方・太鼓方)が揚幕の奥にある鏡の間で、本番前に楽器の調整を行っている音なのです。 能は舞台に何もない状態から開始するもので、まずは囃子方が揚幕に向かって横一列に並んでお調べを開始。お調べが終わると囃子方が揚幕から登場して囃子座に、地謡が切戸口から登場して地謡座に座り、続いて作り物(舞台装置)がある場合は舞台へ運ばれ、お囃子の演奏で能が始まります。このようにお調べは開演が近いことを知らせる合図であると同時に、観客が舞台への期待を高めていくための役割も果たしています。

【十八番】おはこ/歌舞伎/日本語

「十八番」とは「おはこ」または「じゅうはちばん」と読み、得意な物事を指す言葉。今でも「カラオケの十八番」といったふうに使われることがありますが、実はこの言葉は歌舞伎が語源なのです。 歌舞伎における十八番とは、天保3年(1832)に7代目市川團十郎が定めたもので、初代から4代目までの團十郎が初めて演じ、しかも彼らが得意としていた荒事(超人的な強さを持った英雄豪傑の演技あるいはその役柄)を中心とする18の演目を指します。ちなみに「十八番」と書いて「おはこ」と読む由来として、市川團十郎家にとって家宝のようなものである十八番の台本を箱に入れて大切に保存したからという説があります。